ヌーヴェルヴァーグの中でも最も映画狂と呼ばれる人。映画への愛が強すぎるためか、変な映画が多いことで有名。また、その上映時間も長い…。(最近の批評に“スクリーンを至福の時間で満たす”と形容されていたのを見たときは、正直びっくりしました。)

ビュル・オジェ(リヴェットのミューズになってしまったために女優人生が狂ったなんてひどいこともいわれている)が出演する『彼女たちの舞台』や、ジェーン・バーキン、エマニュエル・ベアールそしてミシェル・ピコリと豪華キャストの『美しき諍い女』で、日本でもその名が知られるようになったが、リヴェット好きでない人には、“初めてのリヴェット”としてお勧めするのはどうかと…。

そこで『パリでかくれんぼ』、これはソフト。ずっと以前パリで観たのですが、その時、“これでリヴェットワールドに陽光が差したか?”と思いましたね。この映画、マイフェイバリットフィルムにも入っています。豹変したアンナ・カリーナの姿は観たくなかったような気もしますが…。

ロメールは最も尊敬する監督の一人。映画監督でありながら、パリ大学で教鞭をとり、博士論文を出したりしているこの監督のスタイルは“小説的”映画をつくり続けていること。“モラルのコント”や“四季のコント”など、主題をシリーズものにするのが好きな人。フランス人はよく、“コンセプトを大切に”といっているような気がしますが、ロメールはそんなフランス人気質(?)を、とても感じさせる監督です。

欲望とか恋愛についてのお話がほとんどで、これほど言い尽くされてしまっているテーマに、よくこんなにも次々とエピソードが思いつくものだと毎回感心させられます。普遍なものだからこそ、どこまでも深いということでしょうか?
『パリのランデブー』をお勧めしましたが、あともう一歩という人にはこの2本。

『緑の光線』
不満ばっかり言っている女の人のお話。バカンスに行けないと言っては泣き出すし、自分が変なやつと思い込んでは落ち込むし…観ているとだんだん腹が立ってくる。けれどそのイライラ、女性として、半強制的に自己投影させられるからこそ感じてしまうのでしょう。自分をみているようで痛いと感じるかもしれません。そういうと、なんだ観る気にならないかも知れませんが、最終的になぜか幸せな気持ちになる映画なのでご安心を。ちなみに、この主人公はかなり典型的なフランス人女性。そしてロメールは女性ではありません…。

『友だちの恋人』
とにかく、これをみるとフランス人の恋愛事情がわかります。

マイルス・デイビスのジャズにのって、ジャンヌ・モローが街を彷徨する姿が忘れられない、そのサントラでも有名な『死刑台のエレベーター』を作った人です。

この監督はものすごく完成された人、という印象があります。それもかなり早熟で、25歳の時には、もう既にあの『死刑台のエレベーター』を撮りあげていました。

『地下鉄のザジ』のところで意味ありげなコメントを加えましたが、あの映画は政府の都市改造計画を暗喩的に批判した、アイロニーのこもった社会派映画でした。他には、当然フィクションでありながら観る者に大女優B・Bの実生活と錯覚させてしまうようなテクニックでマスコミ批判した、ブリジッド・バルドー主演の『私生活』も深い作品です。

アニエス・ヴァルダ。とにかく大好きな監督。ジャック・ドゥミ―(『シェルブールの雨傘』)の奥さんです。
映画生誕100周年の年に、『百一夜』をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。息子のマチューも出ていましたね。映画の生みの国フランスで、リュミエール兄弟が映画を発明して以降の映画史をものすごい数の豪華キャストで綴ったもの。この記念すべき映画をアニエス・ヴァルダに任せるなんて、フランス人もやるじゃないと思ったものです。

この監督の作品からうかがい知れるヴァルダの人間像は、ユーモアがあってセンスがよくて頭のいい、女性として本当に憧れてしまう人。7〜8年程前、それまでフランスで上映禁止になっていたヴァルダのヒッピー映画が、数十年ぶりにパリで上映されました。舞台挨拶にやってきたヴァルダは、花柄のミニのワンピースにおかっぱ頭で(他の人だとかなりきつい)本当にかわいいおばあちゃん。上映後、マニアたちと気さくに交流しているヴァルダをただ感激して遠巻きに見つめている私に、なんと彼女はにっこり微笑みかけてくれたのです。思い出すだけで幸福な気持ちになります。パリにいて良かったと最高に感じた瞬間でした。

『幸福』、ジェーン・バーキンとシャルロット・ゲンズブールが親子役で出演する(撮影にはバーキンの自邸が使われ、ルー・ドワイヨンも出ています。)『カンフーマスター』は切なくて美しいものを愛する人にお勧めです。

Text:Yukiko Kodama

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