text : ayako nakamura
マイク・ミルズ監督の『人生はビギナーズ』が公開された。本作を待ち望んでいたマイク・ミルズ作品のファンもいるだろうし、ユアン・マクレガーが主演ということや、クリストファー・プラマーがゴールデン・グローブ賞助演男優賞を受賞したということで注目している映画ファンもいるだろう。
『人生はビギナーズ』は、マイク・ミルズのプライベートストーリーの映画化。75歳の時に父が「同性愛者として残りの人生を楽しみたい」と突然カミングアウト、
言葉通りに自由気ままに人生を楽しみ、その5年後に亡くなった…という特殊な物語ではあるが、けっしてキワモノ的な映画ではない。「人はいくつになっても、人生のスタートをきることができる」という大切なことを、愉快で自然なかたちで教えてくれる。なんとも感動的で、希望に満ちたいい映画なのだ。この作品を創り上げたことは、マイク・ミルズ自身の人生においても、映画監督としてのキャリアにおいても、大きなターニング・ポイントになったに違いない。
本作のプレス資料(試写会などでマスコミ向けに配布される資料)には、先日お亡くなりになった川勝正幸さんが紹介文を書かれている。その冒頭の文章が、マイク・ミルズとこの作品をよく表していると思うので、少し紹介したい。
川勝さんが書いているように、マイク・ミルズは、長年クリエイティヴの世界で活躍し評価されてきた。彼が90年代のユースカルチャーのアイドル的存在であったことは間違いないし、その後もGapやNIKEといった有名なクライアントの仕事を手がけたり、長編第1作の『サム・サッカー』を撮ったりしてきたが、本人の意思とは別に、どこかインディーの香りを漂わせていたように思う。しかし本作によって、一気にそういったムードを払拭し、映画監督マイク・ミルズとして、今後が期待される存在になったのではないだろうか。
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text by Masayuki Kawakatsu
マイク・ミルズは、長編第3作『人生はビギナーズ』(10)を撮ったことで、これまでのような“枕詞"を必要としない存在となったと思う。
オルタナティヴ・ロックを牽引したソニック・ユースのアルバム『ウォッシング・マシーン』(95)のジャケットや、x-girl、マーク・ジェイコブスなどのファッション・ブランドのアートワークを手がけたクールなグラフィック・デザイナーであるとか。ソフィア・コッポラ監督作『ヴァージン・スーサイズ』(00)のサウンドトラックも担当したAIR (エール) のミュージック・ビデオや、NIKE、フォルクス・ワーゲンなどのアイディアに満ちたテレビCMをディレクションした映像作家であるとか。何とか……。
でも、今後は、「『人生はビギナーズ』の監督だよ」、と一言だけで済むだろう。
(以下略)
Quotation from "Beginners" Press Release