『ノンストップ・ガール』:ヘザー・グラハム

神の御前で誓った愛が壊れるはずがない。こう信じて疑わなかった女性が、夫に去られたらどうなるか? ヒロイン、ジョリーンの場合は? というのがリサ・クルーガーの新作『ノンストップ・ガール』。

結論からいえば、ジョリーンは夫カールを追うという行動に出た。ニューヨークからテキサスのエル・パソまでの2000マイル。車を駆ってカールのいる場所を突き止め、砂漠でキャンプを張った。映画はジョリーンの、いわば決死の行動、つまり永遠の愛がその素顔を見せるまでの一部始終を描いているのだ。

ヘザー・グラハムが演じるジョリーンは快活にしてピュアな女性。結婚式で誓った愛の永遠性を信じている。相手に対しても、誓いを破るはずがないと、無条件に信じているくらいに純粋である。なのに夫のカール(ルーク・ウィルソン)は結婚から598日目(よく数えていたものだ!?)に、置き手紙一通を残して出ていってしまった。「なんで?」「こんなのあり?」。表面は平静を装っていても、内心は茫然自失のジョリーン。カールから届いたサボテンの絵はがきを唯一の手がかりに、消印の町に辿り着く。そして手にした新聞の写真にクレジットされた夫の名前!? ワォッ! なんという偶然。なんという幸運。やっぱり一度誓った愛は永遠なのだ。新聞社から聞いた住所(砂漠の中のトレーラーハウス)にカールを訪ねてみれば、ガールフレンドが。こうして大都会のニューヨークからやってきたジョリーンは、夫を取り戻すためにテントを張り、キャンプ生活を始めたのだった。

結末は見てのお楽しみとして、なかなかに楽しい映画である。監督のリサ・クルーガーは、前作の『のら猫の日記』を見た人は知っていると思うけれど、人間のプリミティブな魅力をうまく物語にするタイプ。たとえば今回のジョリーンは[ひたすらに愛を信じている]。愛にしろ人にしろ[信じる]ということは、ややもするとナイーブに過ぎることも多いきょうびの現実。リサ・クルーガーが創造したヒロインには癒され、かつ元気にさせられる。



【ここがポイント】
ジョリーンは魅力的なヒロインだ。感情が豊かで、それを素直に表に出し、かつ行動する。これらは思えば、今を生きる者がいちばん求めていることではないだろうか。だって胸の内の思いをストレートに口に出す、あるいは行動で示したら、浮きこぼれになったり、へたをすればリストラの憂き目に遭ったりするかもしれない。程度の差こそあれ、感情を抑え、行動にブレーキをかけている人は結構多いのではないかしら。だからジョリーンを見ていると、心のコリがほぐれていく。薬指に指輪のタトゥをして、結婚をめいっぱい喜ぶ屈託のなさ。夫が家出すれば、仕事等すべてを投げうって探しに出る行動力。恐怖心を跳ね返して砂漠にキャンプを張る一途さ。どの部分をとっても、憧れてしまう。ただ、だからといって相手がそれのすべてを受け入れるとは限らないのが人間の難しさ。ジョリーンのこうした性格は夫にとっては、疎ましかったのだ。カール曰く、「全身全霊で人を愛して、ある時相手に運を吸い取られていることに気づいた。君がすべての幸運を持ち去っていく」ですって!? う〜ん。独善という言葉はあるけれど、この点が人間のツボでありアヤなのだ。でも大丈夫。ジョリーンはヘコミから立ち直り、ちゃんと次ぎのステップに踏みだした。このことからしてもやはり魅力的なヒロインといえそうである。


【ジョリーン×ヘザー・グラハム】
可愛いだけのアイドルではないとは思っていたが、正直なところこれほど活躍するとは想像もしなかった。最近のヘザー・グラハムを見るにつけ、そんなことを痛感する。ガス・ヴァン・サント監督の『ドラッグストア・カウボーイ』(89年)、『カウガール・ブルース』(93年)。ローレンス・カスダン監督『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』(90年)。デヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最後の7日間』(90年)。アラン・ルドルフ監督の『ミセス・パーカー/ジャズエイジの華』(94年)。ポール・トーマス・アンダーソン監督『ブギーナイツ』(97年)。これらの監督の個性、あるいは作品の傾向からは、ぶっ飛んだティーンエイジャーから、時代の流れを作るオピニオンリーダーまで、ヘザー・グラハムの守備範囲の広さを物語る。そしてこの『ノンストップ・ガール』は、いわば小さなインディペデント映画だが、そんなことには関係なく出演して、思うように行かない人生に健気に頑張るヒロインを爽やかに演じた。また『フロム・ヘル』(01年)では大人っぽい女性の役でジョニー・デップと共演。さらに驚いたことには、チェン・カイコー監督のソフトポルノ風映画『キリング・ミー・ソフトリー』(01年)では官能的なヒロインを熱演。この映画自体はまるで好みではないけれど、ヘザー・グラハムのキャリアには貢献するに違いない。今後はどうのように進化をしていくのか。要チェックの女優である。

テキスト:きさらぎ尚


『ノンストップ・ガール』
2002年6月下旬より公開

監督・脚本:リサ・クルーガー/出演:ヘザー・グラハム、ケイシー・アフレックほか/2001年アメリカ映画/配給:ザナドゥー/原題:COMMITTED


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