『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』:サンドラ・ブロック

これは娘と母、そして母と女ともだちの話。ニューヨークに住む若手劇作家のシッダ(サンドラ・ブロック)は、作品がヒットしてタイム誌のインタビューを受けた。本来なら娘の成功を誰よりも喜ぶのは母だろうが、シッダの場合はいささか事情がある。故郷のルイジアナでこの記事を読んだその母ヴィヴィ(エレン・バースティン)が激怒してしまったのだ。記事の中の「幼い頃、母に叩かれたことがある」と言ったシッダのひと言が逆鱗にふれたのである。さぁ、大変。シッダに電話をして、「名誉を傷つけられた」だの「親子の縁を切る」だのと、一方的に怒鳴り散らしてはガチャン! シッダには弁解の余地すら与えない。万事休す、である。

こうして女ともだちに出番が回ってきた。ティーンシー(フィオヌーラ・フラナガン)にニーシー(シャーリー・ナイト)にキャロ(マギー・スミス)の三人なのだが、母のヴィヴィとは少女時代からの親友、彼女たちは筋金入りの、南部の逞しきオバサマである。

映画は彼女たちがユニークな手段によって、ヴィヴィとシッダの母娘が和解するのでの話なのだ。で、問題は母の幼児体験。ドラマはヴィヴィ(アシュレイ・ジャッド)の生い立ちから結婚、子育て、つまりヴィヴィの人生をあぶり出す。彼女に秘められた[聖なる秘密]が何なのかは見てのお楽しみとして、ヴィヴィの母、ヴィヴィ、娘のシッダの3代にわたる母娘から浮かび上がるのは母と娘のやっかいな関係である。

この場合によってはドロドロとして、一筋縄では解消されない問題をコミカルに見せ、そして最後には感動に昇華させる。その雰囲気がどんなものかは脚本・監督が『テルマ&ルイーズ』の脚本家カーリー・クーリーと言えば、おおよそのイメージが沸くはず。加えて女優陣の個性からも想像できると思う。『めぐりあう時間たち』『エデンより彼方に』等、このところ良く出来た女性映画が多いが、『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』は最も親近感が持て、素直に笑え、最後には気持ち良くホロリとさせられる。


【ここがポイント】
このドラマのポイントは母と娘の間に通う、あるいは継承される業にも似た愛である。映画はヒロインのシッダの母ヴィヴィ(少女時代をケイトリン・ワックス、若い頃をアシュレイ・ジャッド、現在をエレン・バースティンの三人で演じ分けている)とヴィヴィの母の関係にも触れる。そこから浮かび上るのは、ヴィヴィと母との間が[最も身近なライバル関係]にあったということ。ヴィヴィは無条件の愛を知らずに成長し、結婚し、さらにシッダを産み、母になったわけ。

そしてドラマのメイン・ディッシュの、シッダとヴィヴィの関係である。母のライバルから親になったヴィヴィは、娘のシッダを無条件に愛する対象にはできない。有り体に言えば、ヴィヴィは子育てに追われる専業主婦に強く抵抗を感じ、何かになりたい自分の夢の足を引っ張る(と、思っている)夫と子供に辛く当たる。

そんなヴィヴィのもとで、母に恐怖と不安を抱きながら成長とたのがシッダなのだ。だが聡明なシッダは母のヴィヴィからできるだけ遠く離れて暮らす道を選択。故郷のルイジアナからニューヨークに移り、劇作家として成功している。

母からたっぷりの愛情を受けずに育ち、親になった女性は、やはり子供に充分な愛情を注ぐことができないのか? 一般論でかたずけることはできないが、少なくともシッダの場合はこのことに対する問題意識は持っている。実はこれが重要なことで、自分と母との関係に真面目に向き合おうとする。こう書くとなんだか暗くて重いドラマと勘違いされそうだが、そうではない。

ヴィヴィが少女時代に仲良しの3人と結成したチャーミングな秘密結社“ヤァヤァ・シスターズ”の4人組。以来、50年以上も続いている女ならではの友情と、彼女たちの世代からシッダの世代を通して垣間見える30年代から現代までの歴史。これらをユーモアたっぷりに見せる。結論として、彼女たちの夫と恋人の、なんと優しいことか!? そして女同士って、親子関係も含めて、最も強力なライバルにして、誰よりも頼りになる存在なのかもしれない。


【シッダ×サンドラ・ブロック】
思えばサンドラ・ブロックとシッダとはイメージが重なる。エキセントリックな母から遠く離れる生き方を選んだシッダは、歩むべき道、拠って立つ場所を自分で決めて、それを実践している。

女優サンドラ・ブロックもハリウッド女優の一人というモくくり方モは相応しくない生き方をしている。ジャックされたバスの乗客を演じたアクション映画『スピード』(94)がヒットして顔を知られ、ロマンチックなラブ・ストーリー『あなたが寝てる間に_』の大ヒットでスターの仲間入りをした。

だが彼女はカメラの前で演技をするだけのスターに甘んじてはいない。映画を作る側に積極的に参加している。『Making Sandwiches』(96)は脚本を書き、監督をした。『微笑みをもう一度』(98)『トゥー・ウィークス・ノーティス』(02)では主演に加えて製作総指揮もやってのけた。また役柄を振り返ってみると、アクティブなヒロインからラブ・ロマンス、コメディまでを器用にこなす。それも役柄の中にすっぽり入り込むのではなく、反対に役柄を自分に引き寄せて、である。サンドラ・ブロックは映画界に独自のポジションを築いている。

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『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』
2003年5月31日より恵比寿ガーデンシネマ他にて公開

監督・脚本:カーリー・クーリー/出演:サンドラ・ブロック、エレン・バースティン、フィオヌーラ・フラナガン、アシュレー・ジャド、シャーリー・ナイト、マギー・スミス、ジェームズ・ガーナー他/2002年/アメリカ/1時間56分/配給:ワーナー・ブラザース映画/原題:Divine Secrets of the Yaya Sisterhood

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