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○月○日
シェイクスピアの「タイタス・アンドロニカス」を映画化した『タイタス』を見る!待ちに待った一本である。なにせワタクシはシェイクスピアが大好き。読めば面白いし、見れば納得というわけで、とりわけシェイクスピア劇を映画化したものは、いつだって気合いを入れて見る。今回は気合い倍増。というのもブロードウェイの大ヒット・ミュージカル「ライオン・キング」の演出家ジュリー・テイモアの映画初監督作品。ちなみにテイモアは「ライオン・キング」で、トニー賞の演出賞と衣装賞をダブル受賞した、才気がみなぎる女性です。映画と同じくらいに舞台が大好きなワタクシ、B-wayでこのミュージカルを見たのです。といっても連日SoldOut のチケットが手に入る訳がないので、B-wayの某筋に手を回し、アツカマシクもハウスシートをゲット。そのおかげで梨園のある超有名夫人はチケットが無くて見られないという事態に陥ったのだが、こういうシチュエイションでは謙譲の美徳がゼロになるワタクシ。譲ることもせずに、[見たいものは絶対に見る]の精神で、B-wayのニューアムステルダム劇場に乗り込んだのであった。かててくわえて、同じB-wayの「キャバレー」ではアラン・カミングが超ステキだった。そのアラン・カミングももこの『タイタス』に皇帝サターナイナス役で出ているのだ。某有名出版社の真面目編集者を巻き添えにして、ほとんど躁状態で試写にオドリコンダみたいなものです。さてさて才女の誉れ高きジュリー・テイモアが初監督作品に選んだ『タイタス』は、シェイクスピア劇の中では、『ハムレット』『ロミオとジュリエット』等と比べればマイナーな部類に入る。そして悲劇と喜劇という分類でいえば、悲劇。それも復讐劇なのだ。時代は古代ローマ。ゴート族との戦いで勝利をおさめたタイタス・アンドロニカス(アンソニー・ホプキンス)は、ゴート族の女王タモラ(ジェシカ・ラング)と彼女の3人の息子を戦利品にしてローマに凱旋。この戦いで息子を亡くしたタイタスは、タモラの長男を生け贄にして供養することに。タモラの懸命の命乞いを聞き入れなかったために、タイタスとサターナイナスのお妃に収まったタモラの間に憎悪が芽生え、復讐の闘いが始まるというのがストーリーの骨子。シンプルといえばシンプルではあるが、見どころはいっぱい。いろいろあるけれど、まずなによりも瞬間の連続で観客を魅せる舞台、つまりナマモノで鍛えたジュリー・テイモアのビジュアルのセンスに圧倒されてしまったのだ。アラン・カミングは、映画では初めて彼らしい役がまわってきたみたい。ところでシェイクスピアといえば『タイタス』の後に、イーサク・ホークで『ハムレット』も公開される。そして舞台ではレイフ・ファインズ主演で「コリオレイナス」「リチャード2世」が、映画よりもひと足先にやって来る。こちらの方もチケットを押さえて準備は万端。シェイクスピアな秋なのです。



○月○日
『EUREKA(ユリイカ)』を見た。正直に白状すれば、覚悟を決めて、最後の試写でようやく見たと言うのが正しい。なにしろ上映時間が3時間37分と長い。ゆうに映画2本分はある。出来がよくても長いと感じる上映時間だが、悪かったりしたら3時間37分という長尺はほとんど拷問だぞ~。この一点に気持ちがひるんでいたのであった。でもさらに白状すれば、ずっと以前から見たかった日本映画なのだ。というのはこの映画がカンヌ映画祭に出品されるために4月に試写があり、劇中にバス・ジャック事件のエピソードがある。例の17歳の少年によるバスジャック事件が起ったのコールデンウィークの最中。つまり試写の直後だったというわけで、見たひとたちはこの点で大いに盛り上がり、見ていないワタクシは話題に入れずクヤシイかったのだ。そしてようやく見てみれば、なんと、劇中ジャックされるのも、西鉄バスではないか!?こんな偶然ってあるのかしら?なにをかくそう、このワタクシ生まれも育ちも福岡県。西鉄バスといえば、子供の頃からお馴染。というよりか、JR以外の公共交通は西鉄バスしかなかったんだもの。事件の話題で騒然としている時に、カンヌ映画祭からはこの映画が国際批評家連盟賞とエキュメニック賞のダブル受賞のニュースが飛び込んで来たのだった。ただし、映画はバス・ジャック事件そのものを扱った物語ではない。バス・ジャック事件で生き残ったバスの運転手と、被害に遭った中学生の兄と小学生の妹の、三人のその後の物語。三人に、兄妹の従兄が加わって、4 人が疑似家族を形成。バスで旅をしながら壊れてしまった心を取り戻すというのがストーリーのあらまし。劇中、ほとんど何も起らずに、ひたすら静かなバスの旅が続く。観客は物語の裏側で起っていることを想像し、四人の心中を憶測することで、ストーリーに寄り添わされる。なかなかに刺激的、かつ魅力的な映画である。けれど、3時間37分はやはり背中とお尻が痛かった。よく出来ているだけにねぇ……。映画も"腹八分目"がよろしいようです。


○月○日
20世紀最後の夏は例年に増して暑かった。東京都心の真夏日は過去最高だったそうで、「世紀の最後だからここはひとつケジメをつけてやろうではないか」と、太陽も頑張ったのかしら?彼岸に入ろうかという今日まで、依然として暑い。暑い暑いとぼやきつつ、早くも12月中旬に公開されるお正月映画『ホワット・ライズ・ビニース』(この邦題どうにかならないの?)を見た。これはロバート・ゼメキス監督のスリラー。娘が大学に入学して寮生活を始め、二人きりのになった熟年夫婦(ハリソン・フォードとミシェル・ファイファー)が主人公。夫は高名な研究者で妻は元チェリスト。娘がいなくなって心にぽっかり穴の空いた妻の、その心に奇妙な出来事が忍び込む。触ってもいないのに落ちて割れるフォトフレーム。勝手に開くドア。女性の囁き。バスタブに映る見知らぬ女性の顔。etc、etc。淋しさからくる妄想か、それとも心霊現象なのか、あるいは屋敷に成仏できない霊が彷徨っているのか?あとは見てのお楽しみとして、ひとつだけ言うとすれば、浮気の代償はとんでもなく高いということ。かつて『危険な情事』でマイケル・ダグラスがえらく痛い目にあったけれど、さて今度の代償は……。それにつけても、美人女優ミシェル・ファイファーの、これほどまでにオソロシイ顔を見たのは初めて。昔から日本映画でも、幽霊を演じることが出来るのは美人女優と決まっている(そうでないと喜劇になるもの)。この伝でいけば、まさにファイファーはぴったり。ちょっとしたメイクとライトの当て方ひとつで、ひんやり冷たい手で心臓を撫でられているようにゾッとさせられる。おかげで一気に今年の夏の暑気払いができたのはいいけれど、感じやすいワタクシは、当分は家のバスタブを覗くのがオソロシイ。暑かった夏は一本のスリラー映画が終止符を打った。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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