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Happy New Century!


"今世紀最後の…""21世紀に向けての…"。このフレーズが氾濫した2000年でしたが、正真正銘の新世紀を迎えました。と言っても世の中や身辺がいきなりバラ色に一変するわけではないのですが、それでも新調の洋服に初めて袖を通 す時のような、なんだか嬉しい気分です。ともあれ「月刊映画日誌・銀幕鼠」と、末長くお付きあいくださいませ。素敵な映画と出会えることを願いつつ…。


○月○日
映画は色んなものを見せてくれる。単に俳優の顔だけではなく、画面はそれこそあらゆる情報の"てんこ盛り"と言ってもオーバーではない。衣食住はもちろんのこと、歴史からその時その場の風俗まで、そして政治や経済や文化etc、etc。映画を見る側としてはスターのファッションを参考にしたり、物語の舞台になった場所に旅行してみたり、そこで登場人物が食べていたのと同じ物にトライしてみたり。映画は生活に常に寄り添っていて、人生を豊かなものにしてくれる一番てっとり早いものなのかもしれない。

さてさて、マルセル・プルースト原作「失われた時を求めて」の最終章を映画化した『見出された時「失われた時を求めて」より』(春にシャンテシネで公開)では、カルティエがアンティーク・ジュエリーを提供している。そして日本での試写 では、その実物を飾るという!? これはなんとしてでも行かねばなるまい。映画も見たいけど、実物が見たい! だって値段など付けられないほどのお値打もののアクセサリーは、一生着ける機会が無いのは当然にしても、本物を至近距離から見る機会だってそうあるものではないのだから。

して、ありました。劇中、カトリーヌ・ドヌーブとマリ=フランス・ピジエが着けているブローチ、2点が。ガラスのケースに収められ、ガードマンに護られて。ダイアモンドをふんだんに使った大ぶりのブローチは豪華にして品がいい。世界のロイヤル・ファミリーやハイソサエティを顧客に持つカルティエだけに、風格さえ漂う。それにしてもこれほどのブローチを着けるには相当の貫録がないと、ブローチも着けている人も相殺される。そんなことを思いながら映画を見たのであった。

映画は病の床についた晩年のマルセル・プルーストの回想。それはまた第一次世界大戦中のフランス社交界の、サロン文化を見ることでもある。それはまるで愛と欲望が乱舞する世界。「失われた時を求めて」の最終章でプルーストが見出した答えは見てのお楽しみ。

ところでフォルカー・シュレーンドルフ監督がやはりこの原作から、84年に『スワンの恋』を撮っている。ちなみに今回カトリーヌ・ドヌーブが演じているオデットは男性遍歴を重ねた元高級娼婦で、元の夫がスワン公爵という設定。『スワンの恋』をビデオで見てから、この映画を見るのも一興かと思う。『スワンの恋』はハリウッド映画風の明解さがあり、今回は大人のゴージャスさがある。ともあれ両作品ともに華麗なコスチューム・プレイも堪能できる。



○月○日
以前から気になっていた『アメリカン・サイコ』(4月頃、恵比寿ガーデンシネマで公開予定)を見る。まず、なぜ気になっていたかといえば、これをニューヨークで見なかったから。東京は世界で一番とは言えないが、ともかくそれに近いくらいに世界中の映画が見られる都会だと自負している。話題作から カルト・ムービーまで、たいていの映画は公開される。なので旅行中は限られた時間を映画に費やすよりは、他のことに使うべし。常々こう思い、また実践している私は友人のアメリカ人監督が勧めるのを払いのけ、映画館の行列を尻目に見栄を張り、のたまったものだ。

「東京でもすぐやるわよ」と。ところが予想が外れたうえに、監督が『I SHOT ANDY WARHOL』のマリー・ハロンだし、このところエキセントリックな役どころが妙に板についたクリスチャン・ベールが主役のヤッピー殺人鬼を演じているとあって、気になることしきりであった。それにウィレム・デフォー、クロエ・セヴィニー、リース・ウィザースプンと、脇もクセ者で固めているのも気になる。

映画は予想どおり。単なる連続殺人鬼ものではなく、よくありがちな殺人鬼の心理を探るものではない。ましてや殺人の理由を探求しようなどというものではない。あえて言うなら、表面 的には社会に適合し、社会的な地位も手にいれているヤッピーの心の内を、誰一人として見抜けない。そのことを描いている。いやはや、監督の才気と俳優の狂気がうまく融合すれば刺激的なドラマができるとい うお手本みたいな映画だ。



○月○日
各誌、各紙、ベスト・テンの時期です。毎年、雑誌や新聞から用紙が送られてくる。そこでここでも2000年の、(私の)洋画ベスト・テンを御紹介します。邦画も御紹介したいのですが、良いと思う作品がとても10本に満たないので今回は洋画のみです。

 1.『初恋のきた道』
 2.『アメリカン・ビューティー』
 3.『アメリカン・ヒストリーX』
 4.『ストレイト・ストーリー』
 5.『遠い空の向こうに』
 6.『タイタス』
 7.『マルコヴィッチの穴』
 8.『ボーイズ・ドント・クライ』
 9.『クレイドル・ウィル・ロック』
 10.『オール・アバウト・マイ・マザー』

これを見る限り、2000年は身近なところから題材をとったもの、もしくは実話を映画化したものに秀作が多かったのですね。いろんな理由が考えられるが、今世紀にやりのこした宿題や問題を総点検して、来世紀にやるべきことや解決することを把握するという空気の反映のような気がする。皆さまのベスト・テンはどんな作品だったでしょうか。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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