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○月○日
毎日新聞社が主催している毎日映画コンクールの選定委員会に行く。このコンクールの選定委員をお引き受けしてから(おそらくもう10年くらいは経っている)、選定委員会が実質的には"仕事始め"に定着。知識と経験が豊かな委員の皆さまとの会議は、知識に乏しい私にとって緊張の連続。衰退が叫ばれて久しい日本映画から監督賞、脚本賞、撮影賞、美術賞、音楽賞、録音賞を選定するのは、責任重大だ(主演男優賞や主演女優賞といった演技部門の選定は別 の委員会)。自分の映画の見方、そして映画と向き合う姿勢が問われているのだから。「とんでもなくトンチンカンな見方をしているのではないかしら…」。毎年のことだけれど、「まな板の鯉」の覚悟(そんなオーバーな)で出席している。と、同時に委員の皆さまの御意見はとても勉強になり、かつ刺激的でもある。そんな見方があったのか!? そんな解釈もできるのか!? 私の錆びついた頭と濁った感性、加えて見識の無さにオロオロしつつも、それでも自分の推す作品(もくは人)を主張する。なかなかに楽しい一日であった。



○月○日
賞シーズン到来! 年が明ければ、アメリカの映画界も賞レースの幕が切って落とされる。ゴールデングローブ賞に、ニューヨークやロサンゼルスや全米といった映画批評家協会の賞があり、トリはなんといっても世界最大のイベントといってもいいアカデミー賞(ノミネート発表は日本時間2月14日、授賞式は同じく3月26日)。予想に感想。映画好きには楽しみが多い季節である。

そんなわけだから、1月、2月は各賞を睨んだ、つまり賞レースに絡んだ作品の試写 も多い。で、『クイルズ』(5月下旬、シャンテシネで公開)を特別 に見せてもらった。脚本のダグ・ライトと主演のジェフリー・ラッシュがゴールデングローブ賞を逃したが、ナショナル・ボード・オブ・レビューで最優秀作品賞と助演男優賞をホアキン・フェニックスが獲っている。舞台劇の映画化でもあり、なによりも『ライジング・サン』から低迷を続けていたフィリップ・カウフマン監督の復活なるか。楽しみにしていた作品だ。

サディズムという言葉の基になったスキャンダラスな作家、サド公爵を主人公に、「親愛なる読者よ、淫らな物語を聞かせよう」で始まるストーリーは刺激に満ちている。フィクションなのだけれど、歴史的な事実を折り込みながら、マルキ・ド・サドが幽閉生活を送った晩年を、精神病院を舞台に描いた物語。ほぼ軟禁状態の中で書くことをやめないサド公爵の情熱を演じるジェフリー・ラッシュは、鬼気迫る演技。サドの圧倒的な存在感で信仰をも揺るがせるホアキン・フェニックスの神父の葛藤もまた凄い。亡きリバー・フェニックスの弟に過ぎなかったホアキンだが、今後が楽しみな俳優に成長した。そしてサドを強圧的に矯正しようとする博士を演じるマイケル・ケイン。三つ巴とはこのことだ。ナポレオン体制下のフランスで、羽根ペン(クイルズ)に存在を託したサド公爵をセンセショナルな映像にしたこの作品、果 たしてアカデミー賞に何部門食い込むか。それも楽しみだ。


○月○日
『アメリカン・サイコ』(ゴールデン・ウィークに恵比寿ガーデンシネマで公開)のプロモーションで来日したクリスチャン・ベールの記者会見に行った。以前会ったのは、(本人の弁によれば)15歳の時だった。子役としてスティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』で華々しくデビューした彼だったが、すっかり大人になって『ベルベット・ゴールドマイン』や『シャフト』等々、かなりクセのある青年パトリック・ベイトマンを好演している。今回の『アメリカン・サイコ』でも相当なクセ者。表の顔がウォール街で成功したヤッピーで、裏の顔がシリアルキラーなのだ。原作が「レス・ザン・ゼロ」のブレッド・イーストン・エリスなら、監督が『I SHOT ANDY WARHOL』のメアリー・ハロン。アメリカでは公開前から話題になっていた。以下はクリスチャーン・ベールのコメントである。

「バイオレンスばかりが取り沙汰されて、アメリカではかなり物議をかもした。でも自分としてはシリアルキラーはどうでもいいことで、80年代の欲望に興味があり、脚本には風刺があったので出ることにした。役作りはリアリティを追究するのではなく、誇張されたハイパー・リアリティを求めたので、今までのどの役よりも楽しかった」

スクリーンとは違ってヒゲをたくわえ、落ち着いた雰囲気で丁寧に話すベールは知的な若者。子役はあくまで子役としての価値こそが求められ、大人の俳優として成功する人はそれほど多くはないというのが少し前までの定説。けれど最近はアンナ・パキン、ナタリー・ペートマン、ハーレイ・ジョエル・オスメント等、かなりがんばっている。クリスチャン・ベールは大人で成功した最近の子役出身俳優の先頭集団にいる。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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