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○月○日
レコード店に走る。そんなにしょっちゅうではないけれど、サントラ盤が買いたくなる映画に出くわすことがある。『エル・ドラド/黄金の都』(6月16日より全国ワーナー・マイカル・シネマズにて公開)が今回のそれ。これはあまりに有名な黄金郷伝説の映画化(アニメ)なのだけれど、これまでとはちょっと違う。主人公をお尋ね者の詐欺師に設定しているのだ。トゥリオとミゲールの二人が、いかさまダイスで、探検家の手下からエル・ドラドの地図を巻き上げたというわけだ。

ところでアニメーションってやつは生身の人間が演じている実写と違って、時間や空間を自在に越えられるだけに、イマジネーションをえらく刺激される。早い話が一瞬にして見る者を時空世界に誘ってくれるわけで、声の出演者を含めて、音が重要な役割を果たす(実写も音は大切ですが)。この映画は音がこのうえなく豪華ですゾ! トゥリオをケヴィン・クラインが、ミゲールをケネス・ブラナーがやっているのですから。二大名優以外にもロージー・ペレスにアーマンド・アサンテにエドワード・ジェームス・オルモスが声の出演をし、なんとエルトン・ジョンが音楽だけでなく、ナレーターを務めているのだ。ディズニー時代に『ライオン・キング』を成功させ、スティーヴン・スピルバーグらとドリームワークスを立ち上げた製作総指揮のジェフリー・カッツェンバーグの御威光がピカピカの豪華な布陣である。

そこでサントラ盤。『ライオン・キング』に続いてティム・ライスとエルトン・ジョンのコンビなのだが、エルトン・ジョンはなかなかに不滅なオジサマですネ! オリエンタルなテイストあり、ギンギンのロックあり、ボサ・ノヴァあり。ランディ・ニューマンも参加して、日本盤のボーナス・トラックを含めた全15曲は聴きごたえも、心地よさも申し分なし。もっかこのCDにはまって、何度も繰り返し聴いております。


○月○日
好きな、あるいは尊敬する映画監督はそれなりにいる。けれどウディ・アレンはそんななかで、いちばん敬愛する映画監督であり、俳優だ。というよりも、監督だけ、出演だけと作品ごとに関わりは違うけれど、脚本・監督・主演と、三役をやってのけたウディ・アレン映画が大好きなのです。

思えば『アニー・ホール』(77)でウディ・アレンを知り、ニューヨークという街を意識するようになり、ヒロインのダイアン・キートンに憧れた。『マンハッタン』(79)でニューヨークに憧れて、実際に行って見て、この一筋縄では御せない大都会の虜になり、何度も通うようになってしまって、現在に至っている。この間、ニューヨークを舞台にした映画を注意深く見るようになり、劇中に登場した場所等(ロケをした場所等)のデータを集め、「ニューヨーク×映画110/スクリーンの中のニューヨークガイド」(文藝春秋社刊)にまとめた。

さて、『カメレオンマン』『ブロードウェイのダニー・ローズ』『カイロの紫のバラ』等々、都会的でオシャレな映画を次々に撮って、知的ニューヨーカーのシンボル、いや聖者にまつりあげられたウディ・アレン。その聖者の衣がほころんだのは、当時パートナーだったミア・ファーローとの間の、例の醜悪きわまりないスキャンダルだった。孫ほどの年令の、ミア・ファーローの養女と愛人関係になっていたのだから、これはもう傍目にも噴飯もの。けれどクラリネット奏者でもあるウディとジャズ・バンドのツアーを記録したドキュメンタリー『ワイルド・マン・ブルース』には、問題の養女と結婚した彼の幸せそうな姿が。そして妻然として世話をしている元養女の堂々たる姿も。"愛は克つ"なのだ!

その反面、『地球は女で回ってる』(97)や『セレブリティ』(98)といった作品の体たらくはなんたること!? 洗練もなければ、粋もない。ウディ・アレン映画からこのふたつを取ったらなにが残る? もうファンを自認するのはやめよう。マジでそう思ったくらいだった。

ところがギター弾きの恋あたりから、ウディ・アレンは、ほころびた聖衣を自分の手で脱ぎ捨てたようだ。"聖者でいる必要はない"と思ったかどうかは定かではないけれど、肩ひじ張らないコメディに軌道を修正したかに見える。

新作おいしい生活(今秋より、恵比寿ガーデンシネマ他、全国順次ロードショー)では、成金趣味を題材にした通俗コメディで大いに笑わせてくれる。主人公は元銀行強盗(ウディ・アレン)とマニキュア師(トレーシー・ウルマン)の夫婦。敗者復活戦? 夫の銀行襲撃をカムフラージュするために妻が始めたクッキー店が大成功して、大金持ちに。こうなるとハイソの仲間入りをしたいのが人情。けれどいかんせん二人は、お金はあっても教養に問題あり。上流階級になるべく、札びらの威力でせっせと中身を磨こうとするのだが……。ドラマにはニューヨークの街の素顔とハイソ願望の滑稽な関係がくっきり。同時にバブル期の日本の姿や、中身も実力もないのにブランド買いに血道を上げるアホの姿も重なる。
ウディ・アレンには最も縁遠かった通俗という形容ではあるが、ファンを自認するのはやめようと思ったことを、やめる。面白いことはいいことだ。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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