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○月○日
暑い。喚いても、考えても、ともかく暑い。酷暑の襲来で肉体は使い物にならないまでに消耗して、溶けてしまいそう。思考力はほぼゼロに近いまでにウニ化している。その我がグニャ頭に、あることがよぎったのは『コレリ大尉のマンドリン』(今秋より全国松竹・東急系で公開)を見ている最中だった。「ん?最近、英語のセリフがやたら多いんじゃない?」。断っておきますが、私が英語圏の映画ばかりを選んで見ているわけではない。むしろその逆。滅私の精神とまでは言いませんが、なるべく偏らないように心がけている。なにしろ虚弱児だった私は、子供の頃に「好き嫌いはイケナイ」と、散々すり込まれているのだから、三つ子の魂なんとやら。いまだにその有りがたい金言を厳守しております。なのだけれど、最近はやけにセリフが英語の映画の多さが目立つ。

ちなみに『恋におちたシェイクスピア』の監督ジョン・マッデンが監督した『コレリ大尉のマンドリン』の舞台はギリシャのケファロニア島が舞台。第二次世界大戦中、この島を占領しているイタリア軍の大尉と島の娘の、戦時下のラブストーリー。CGなど技術面ばかりが目立つ空疎な大作にうんざりしている私には、この人間が中心のラブストーリーは感動もの。それだけにニコラス・ケイジの大尉も、ペネロペ・クルスの島の娘も、み〜んなが英語で会話をしている点だけが、ちょっとひっかかる。

それから少し前の『スターリングラード』でも、ジュード・ロウのロシア人スナイパーにエド・ハリスのドイツ人の狙撃手も、英語で話していた。『宮廷料理人ヴァテール』でも、ジェラール・ドパルデューが演じる主人公のフランソワ・ヴァテール以下、ルイ14世等々、英語を話していた。この2作品の主人公は実在した人物にして、実話の映画化である。当人たちが英語が話せたかどうかは別として、なんだか違和感がある。

そういえばお正月映画の『ムーラン・ルージュ』(この映画、もっか私の一番のお気に入りです!!)も、セリフは英語。ニコール・キッドマン扮するムーランルージュの踊子や画家のロートレックもセリフは英語。

なんで、セリフが英語なの? 理由は明白(だろう)。アメリカ資本が世界の映画界を席巻しているのだ。俳優の出演料を含めて製作費が高騰して、人気俳優を出演させてちょっとした映画を作ろうと思えば、やはりプロダンションや配給の権利等々、諸々の要素が入り組んで弱小資本ではほぼ不可能。こうしてみるとここに挙げた映画の出演者は揃って大スターばかり。それにしてもすべてセリフが英語なのは、やはり違和感がある。映画の出来栄えはいいのに、なんだか落ち着かない。このままでいけば、世界中にマクドナルドがあるように、どの国の映画もセリフが英語になってしまったりして……。


○月○日
虐待、苛め、事故に事件等、このところ子供をめぐる痛ましいニュースに毎日のように接する。事件や事故のニュースで嫌でないものはないけれど、とりわけ子供に対するそれは悲しいし、胸が痛む。

フランスの名匠、ベルトラン・タヴェルニエ監督が『今日から始まる』(9月8日より、岩波ホールで公開)を作ったのも、単なる思いつきではあるまい。物語は北フランスのエルランにある幼稚園のダニエル園長の不屈の奮闘記。かつては炭鉱で栄えたが、鉱山の閉鎖で失業者があふれる貧しい町に。幼稚園はそんな場所にある。料金滞納で電気も水道も止められ、よって食事も満足に出来ず、冬なのに暖房もない家の母は、子供を迎えに来た幼稚園で昏倒してしまう。家庭内暴力による幼児虐待に、子供を道連れにした無理心中…。

映画が描くのはこうした子供を取り巻く事態に、役所と掛け合い、スタッフと団結して取り組むダニエル園長の日々。不況と貧困が生んだ悲劇がひりひりと胸に刺さる。ここに描かれていることは日本も無縁ではない。改革を叫んで高支持率を得ている小泉内閣の、今後はどうなるのか。失業率と雇用対策、頻発する幼児虐待。それを思うとこの映画で描かれるエピソードがオソロシクなる。この原稿が更新される頃は選挙も終わっているが、絶対に映画のようにはなって欲しくないと願わずにはいられない。すでにかなり厳しいところまできているけれど、でも「あきらめてはダメ」。「今日から始まる」のだ。映画はそんなメッセージを伝えている。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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