UNZIP

Report

『3人のアンヌ』

樋口泰人 × 坂本安美 トークショー

text & photo : yuki takeuchi

2013年6月30日(日)シネマート新宿にて、イザベル・ユぺ―ル主演、ホン・サンス監督『3人のアンヌ』の公開記念して、トークショーが行われた。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員でフランス映画への造詣が深いおふたり、boid代表・樋口泰人さんとアンスティチュ・フランセ東京(元東京日仏学院)・坂本安美さんがご登壇し、作品に対しての細やかな解説や本作で新たな一面をみせてくれた大女優イザベル・ユペールの魅力についても語った。

『3人のアンヌ』レビューはこちら

樋口さんは、ホン・サンスの作品には複数の時間、空間が存在することに対して「酩酊感」があると表わし「映画でしかできないこと」であり、心惹かれるところだと述べる。また、これまでの作品は主に男性が酔っぱらい「映画自体が男の人の視線で空間が歪んだり、時間が入れ替わったりしていた」が『3人のアンヌ』は、「イザベル・ユペール(アンヌ)が酔っぱらい、彼女が軸になって全ての世界が語られていく女の人の視線」であり「こういうこともやるのだと目を見張りながら観ていた」と言う。対して、坂本さんは仕事柄、フランスの批評家からホン・サンスの名前をよく聞いており、『浜辺の女』がホン・サンス作品との出会いだったと述べるとともに、これまでの作品と違い、今回は女性が主人公ということで、ようやく女性に感情移入でき、ユペールの3人のアンヌにかなり近い自分を感じたと述べた。

樋口さんは、本作で気づいた点として「登場人物のリアリティとしてではなく、観ている方の酩酊状態をしていく仕掛け」として1話目に出てくる割れたビンと3話目で浜辺にアンヌが投げ捨てるビンが同一だということ、また、3話目に登場する民族学者が僧侶にあげ、さらにアンヌが欲しがるモンブランの万年筆を冒頭に登場する宿を管理する女の子が持っているとも指摘し、「ひとつひとつが別々の話なのではなくて、全部つながってくる」、本作はその仕掛けが以前に比べ意識的であり、「伏線ということだけではなくサブリミナルのように観ている側の物語を増幅させていく」と言う。

坂本さんは、それを引き継ぎ「まさに、ホン・サンスの作品は観るたびに違って見えたり、違う発見がある」と言い、3話がそれぞれ夢か現実ようでもあり、または、入れ子状になって可能性も指摘すると、樋口さんは「固定しているものと変わっていくものアンサンブル」に対して意識的に作られているのではと続けた。

イザベル・ユペール自身に話が及ぶと、坂本さんは「すごくチャーミングに描かれていて、年齢を感じさせない」「とにかく歩き方が印象的で、洋服や靴などでも歩き方が変わっていたりもするだろうし、3人のアンヌの役柄でも歩き方が変わっていて、本当に“歩いているイザベル・ユペール”をすごく丁寧に撮っています」と語る。

「アンヌなのかイザベル・ユペールなの分からない中間領域のようなもの」があり、「フランスから迎えた大女優のイザベル・ユペールがここにいるということも踏まえつつ、ひとりのアンヌとしか捉えていない後ろ姿のシルエットというのがものすごい印象に残る」と樋口さんは述べると同時に「後ろ姿のシルエットばかりが浮かんで来て、顔が印象に残らない」とも言う。一方、坂本さんは、イザベル・ユペールの顔をじっくり観ていたと述べ「目がすごく印象的な女優」だと言うと、ホン・サンスはロングで撮ることが多いため「彼女とその周囲の温度を撮っている」「その周りとのさざなみを撮っている感じ」とも表わし、カイエ・デュ・シネマに寄稿されたイザベル・ユペールの撮影日記(※劇場用パンフレットに掲載)の内容を引用し補足した。

また「仕掛け」として傘の登場も重要だと補足した後、樋口さんは、本作を観ると様々な作品に出演してきた「イザベル・ユペールという女優の歴史、いろいろな映画のいろいろな顔が出てきて、それが3人のアンヌを作っている」印象だと言うと、坂本さんは「イザベル・ユペールという存在に対するオマージュでもあるのかなと思う」と述べ、シナリオを持たない独自の制作スタイルのホン・サンスがイザベル・ユペールを起用したのは、彼女自身が「偉大ということだけではなく、そういった波(制作スタイル)にも乗れる女優」だからなのでは言う。

樋口さんは、「誰かと一緒にいる彼女の姿がすごく印象的」であり「誰かと一緒にいる場面とたった1人でいる場面のふたつの行き来によってこの映画は出来ている。それは寄す波と引く波みたいなところもある」「その関係の中で、波の動きを感じながら、ふたつセットで動いていく、そんなイメージで観た」と述べた。

最後に、坂本さんは「笑えるけど、ある意味で暗闇を見せられたような気にもなる」「誰とも気持ちって交わせないのかなという部分も見える」「だけど、ライフガードがいる(笑)」と言うと「絶望の際で灯台が見える。ホン・サンスの映画を観て、暗い気持ちになるよりは、明るい気持ちにさせてもらえる」と締めくくった。

『3人のアンヌ』
6/15(土)~シネマート新宿にてロードショー、以下全国順次公開
公式サイト:http://bitters.co.jp/3anne/


『3人のアンヌ』
(原題:In Another Country)

6/15(土)~シネマート新宿にてロードショー、以下全国順次公開

(2012年 / 韓国 / ドルビーSRD / 89分)

監督・脚本:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ムン・ソリ、ムン・ソング­ン、ユン・ヨジョン

オフィシャル・サイト

レビューを読む

Related Items