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『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』
公開記念トークショー:菊地成孔

text&photo : yuki takeuchi

2012年11月21日(水)、絶賛上映中の特集上映「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」のトークショーがシネマート新宿で行われ、音楽家・文筆家の菊地成孔さんが登壇した。「本当に美しく、恐ろしい映画だ」と評する『次の朝は他人』について、菊地さんらしい深く細やかな考察で語った。

他愛もない恋愛の話がアートフィルムの域に達してるホン・サンスにしかなし得ない異色作

菊地さんは、まずホン・サンス監督の『アバンチュールはパリで』を気持ちのいい傑作と評し自著の映画の評論本『ユングのサウンドトラック』に比較的長い文章を書いていること、本作『次の朝は他人』に関しても自身のメールマガジンに細かく書いているとの前置きをし、

「次回作『3人のアンヌ』(2023年公開予定)にはイザベル・ユペールも出演するように、ホン・サンス監督は、ますますパリに接近している。『アバンチュールはパリで』ではパリでもロケをして、一般的によく言われるクリシェとして、ロメールやゴダールの後継者と言わている」と語りつつも、それに対し「韓国はアメリカの文化的な影響が強く、ソウルの街なかでのフランスの文化の入り込みが、東京に比べるとまだまだ少ない」「韓国にとってのフランス、パリというのはわれわれにとってのそれよりはるかに遠くにある」とし、ホン・サンス作品では、「パリロケなのにパリに見えない、ソウルに見えたりする。ときおり東京すら見えてくる」といった、街がその街に見えない同一性障害というチカラを持っていると、韓国の文化や街にも詳しい菊地さんらしい説明を加えた。


『次の朝は他人』

また『次の朝は他人』は、「恋愛映画として異色であり、アートフィルムに近い」と評して、「ほとんどの人が気づいていないが、この映画批評のポイントは、ソウルに戻ってきた主人公が数人の登場人物とともに、”小説”というバーに行くのだが、これが連続した三夜の出来事ではないということに気づくかどうか」と言う。まさにロメールのように市井の人々の他愛もない恋愛のそのままを観察するといった雰囲気で、ぼーっと観てると単にすてきな恋愛映画で終わってしまうが、セリフ、モノローグを細かく参照すると分かるように、じつは多元宇宙的な、可能世界(パラレルワールド)のなかで起こっている出来事なのだと語った。

また菊地さんらしい劇中音楽に関しての考察では、「非常に美しい短いピアノの断章が3回流れるだけだが、シネフィルなら誰でも(その3回のうちのひとつである雪が降る路上でタクシーを待つシーンは)ゴダールの『女と男のいる舗道』を想起せざるを得ないし、有名な逸話としてミシェル・ルグランが書いてきたたいへんな量の楽曲を、全部カットしてゴダールが4小節だけ使ったというミニマリズムのエピソードを思い出させる」とも語る。


『次の朝は他人』

一般的に、ホン・サンス作品によく言われるようなロメール調、ゴダール調に加え、菊地さんは自身の見立てとして、ルイス・ブニュエルが混血している言い、『皆殺しの天使』や遺作である『欲望のあいまいな対象』を観て比べてほしいと続けた。ひとりの役をまったく似ていないふたりの女優が演じているのにも関わらずそれに違和感すら感じないブニュエルらしいシュルレアリズム(『欲望のあいまいな対象』)、幽閉された屋敷から出られないという状況での反復とそこから出るきっかけがピアノということ(『皆殺しの天使』)と『次の朝は他人』の関連性を説明し、「映画が他の映画を意図的に召還することをオマージュといわれ、よくロメールにオマージュを捧げていると言われるが、そこにブニュエルが入ってきた段階で、(この作品は、ブニュエルのように)同一性が壊れていると見立てた」と語る。また、ラスト間際のシーンに関しては、映画にはオマージュや召還ですらなくても、いつもまにか他の映画になってしまう瞬間があるのだとし、和田誠監督の『麻雀放浪記』も引き合いに出した。

全編にわたって、繰り返されるカットの流れに関しても、その不条理感や違和感が気にならないくらい、もしくは麻痺しているような状態であり、それは「恋愛している状態と例えればロンティーク」、「臨床的に言えば乖離が起こっている状態」で「正当に記号をジャッジするチカラを失わせるチカラ」と言い、また、他愛もない恋愛の話がアートフィルムの域に達してるホン・サンスにしかなし得ない異色作として突き刺さっている、と語った。

シネマート新宿、シネマート心斎橋にて、カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ『ハハハ』を含む全4作品を、特集「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」と題して一挙上映!また、シネマート新宿では引き続きトークショーも開催予定!
詳しくはオフィシャルサイトシネマート新宿のサイトへ。


『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』

11/10(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか 全国順次ロードショー

『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』

カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ『ハハハ』を含む全4作品を、特集「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」と題して一挙上映

オフィシャル・サイト

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