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『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』
公開記念トークショー:加瀬亮 × ホン・サンス

text&photo : yuki takeuchi

2012年11月25日(日)、シネマート新宿にて、「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」公開記念トークショーが行われ、ホン・サンス監督と俳優・加瀬亮さんが登壇した。以前から監督のファンであるという加瀬さんの作品に対する深い考察や、ホン・サンス監督自身による撮影スタイルの解説など、『教授とわたし、そして映画』を中心として、濃い内容のトークが繰り広げられた。

ホン・サンス監督の映画を観たときにリアルだと思える

はじめに、加瀬さんは『教授とわたし、そして映画』について「すごい面白かった。いつもどおり、役者さんたちがものすごくいきいきとしていて、結局最後は人生と同じで、謎につつまれる」と話すと、監督はその感想に対して、「わたしの映画をすごく繊細に深いところまで見ていただいていたような気がします」と答えた。

加瀬さんは、いつも監督の作品は笑いながら見ているが、自身の解釈ではホン・サンス監督というのは非常に真剣でまじめな映画作家だと思っていること、あらゆる先入観や信じられなくなっているようなイメージを払拭してくれ、ありのままに近い現実からなにかを見せてくれる感じがして今作も新鮮だったと述べた。
また、最初に出会った監督の作品は『秘花 〜スジョンの愛〜』であり、当時「すごく新鮮な感覚だった」こと、「自分の感覚に合うものがあった」「信用できる作品だと思った」と述べ、普段いろんな映画に出演し、いろいろな役を演じているなかでもジレンマを感じることもあるが、ホン・サンス監督の映画を観たときにリアルだと思えることが新鮮だとも語った。

ホン・サンス監督は、最初に俳優と会ったときに感じる印象を大事することや俳優に対してどういう役柄か、どういう演技をするべきかといった事前の説明はほとんどしないこと、撮影当日の朝にその日の分のシナリオを書き、俳優に渡して30分ほどで覚えてもらい撮影の入る、というのが自身のスタイルだと説明した。


『教授とわたし、そして映画』

加瀬さんは、先日日本でも公開されたアッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』(レビューはこちら)に出演した際にも、似たような演出と受けたが「出来上がりを観たら、いままで自分が出た映画の中で、一番自分が違和感がなく新鮮に見えました」「それはいつものような計算などが働いてないからだと思います」とも語った。
そして、「ホン・サンス監督の作品は、本当に役者が息づいているし、(トークショー前に話をした際に)聞いてびっくりしたのですが、監督自身も朝起きて、天候などを見て、その日の分のシナリオをを3〜4時間かけて書く。自分自身も未知のわからなさのなかに放り出しているというのが、非常にすごいなと思いました」と述べた。

ホン・サンス監督は、最初はシナリオを書き上げるふつうのスタイルだったが、『教授とわたし、そして映画』の段階に至っては、このようなスタイルになり、また、それが自身の気質に合っていると述べた。
また、ホン・サンス作品の特徴のひとつでもある登場人物がお酒を飲み交わすシーンに対して、実際に俳優たちに少しお酒を飲のんでもらっており、それはお酒を飲んだときの顔色であったり、声の変わり様などフィジカルな面でお酒を飲んだ演技が難しいからということ、そして、少しお酒を飲むと俳優が自分が酔っぱらったときのことに思い至りやすく、うまくいくということもあると語った。


『教授とわたし、そして映画』

加瀬さんは、いままでのホン・サンス作品の中で印象に残っているものとして『浜辺の女』を挙げ、主人公が浜辺にはえている3本の木の前でお辞儀をして”助けてください”と言うシーンが「すごく美しくて、ずっとその後も印象が残っていました」と述べるとともに、「監督は、生きていることが一回限りの生のように、そういうところから出発して、自分も分からないところから始めて、映画製作を通して発見していく。そういうことを、ずっとやられているなかで監督の毎日によって映画が変わっていくだけ。40歳のときの監督と今の監督は違うという、当たり前のことのように映画も違う感じだと思います」と深い考察を述べると、監督は笑顔で「わたしもそう思います」と返した。
また、加瀬さんは「自分がわかっていることをやるというのは、それ以上にはいかなくて、分からないことをやる」というトークショー前に監督から聞いたこいう言葉から、そこに独自性があるような気がすると説明し、「監督の映画は評論でよく“反復と差異”と言われるのですが、例えば日常が砂だとすれば、砂をふるいかけていると金が出てくるのか、石ころが出てくるのか分からないが、あるがままの現実からなにかを浮かび上がらせるような感じが、監督の映画からします」とも語った。

ホン・サンス監督はそれに対して、「映画を撮るスタイルによって俳優さんの現れてくる部分というのは違う」「Aというやりかたで映画を撮れば、A’という俳優さんの部分が現れるでしょうし、Bというやりかたで映画を撮れば、B’という俳優さんの部分が現れるでしょう。そのように監督が映画を撮る方法に従って、俳優さんの現れ方も違うと思う」と加瀬さんの言葉に付け加えた。

加瀬さんは本当に美しい人、是非一緒に仕事ができればと思う。

そして、ホン・サンス監督は加瀬さんの印象を「とても美しい人」と述べると、かねてからホン・サンス監督作品への出演を望んでいる加瀬さんは、キアロスタミ監督と組んだ際に感じた”自分が演じながらこれは生きているという感じ”は、優れた監督とではないと出てこないと思うと述べ、「自分が観て信用できる(ホン・サンス監督の)映画に出たい」と語った。ホン・サンス監督は、その言葉を聞いて、じつは加瀬さんに自身の映画に出てほしいことを既に伝えており了解してもらっていることを明かした。また、それを「本当にうれしいこと」と述べた。


ホン・サンス監督(左)、加瀬亮さん(右)

最後に劇場につめかけた多くの観客に対して、加瀬さんは「いろいろな映画があると思うのですが、ホン・サンス監督の映画というのは僕の中でもずっと見続けたい映画で、日本の人にも広まったらいいなと思います」と述べた。
ホン・サンス監督は、「俳優というは非常に重要だと思います。俳優によって監督の意図は伝わるわけですし、出てくれる俳優によって映画のストーリーも、トーンも変わっていくので、本当に俳優というのは重要な存在だと思っています。今回、加瀬さんとはじめてお会いしたのですが、加瀬さんと話をしてみて、俳優として素晴らしいというのもそうですが、まずその前に人として本当にわたしと話が通じる、素晴らしい人だと思いました。是非一緒に仕事ができればと思います」とメッセージを残し、たくさん集まった観客に感謝の気持ちを述べた。

約30分間ではあったが、ホン・サンス監督の作品について、とても熱心に語る加瀬さんと穏やかな表情でそれを聞く監督の間には、もう既に通じるなにかがあるような雰囲気すら感じさせた。また、トークの合間に加瀬さんと監督が無言で目線を合わせ笑顔を交わすシーンを拝見すると、いつか実現するかもしれない監督・ホン・サンス、出演・加瀬亮というものが素晴らしいものになるのではないかという期待を抱かざるをえない。

加瀬亮さんも絶賛する『教授とわたし、そして映画』を含む、ホン・サンス監督の4作品は、シネマート新宿、シネマート心斎橋にて「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」と題して一挙上映。また、シネマート新宿では引き続きトークショーも開催予定!
詳しくはオフィシャルサイトシネマート新宿のサイトへ。


『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』

11/10(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか 全国順次ロードショー

『ホン・サンス/恋愛についての4つの考察』

『教授とわたし、そして映画』を含む全4作品を、特集「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」と題して一挙上映

オフィシャル・サイト

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