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Interview

『箱入り息子の恋』
市井昌秀監督インタビュー

interview & photo : yuki takeuchi

— 主演のおふた方も素晴らしかったのですが、総じて出演された方々が皆さん素晴らしかったです。と言いますか、本当に豪華なキャストですよね。平泉成さんと森山良子さんは、昔から本当に一緒だった夫婦のように自然で、まるで夫婦漫才のようでした。

そうですね。まず、平泉成さんは、なんとなく星野源さんと顔が似ていますし、カエルっぽい風貌もあって(笑)。どうしてもそういう描き方になってしまうのですけど、男性の方がちょっとだらしなくて、奥さんの方がしっかりしている。ただ、ある程度コミカルな中流家庭として描きましたが、いざというときには平泉さんが妻の森山さんに、「お前は子供に甘いだけだ」と怒鳴るところとか、「ここぞ」というときにはビシッとするお父さんとにしたかった。平泉さんはそういうコミカルな演技もできれば、豹変してビシッと言えることもできる人だと思っていました。

— 物語の中心になる男性というのは監督の中の一面も反映されていたりするのでしょうか?

もともと原案からのキャラクター設定も、多少は残っている部分はありますが、なんらかの自分のスパイスというか投影したキャラクターではあると思います。平泉さんだけでなく、大杉さん演じる父親もそうです。

— 加えて、竹内都子の登場の存在感と間の良さはすごかったですね。あの役割はもともとからあったものだったのですか?

原案の段階では、狂言回し的な役割で、しかも男性だったのですが、そこを女性に変えて、ずけずけと家に上がってくるおせっかいなキャラクターに変えました。やっぱり竹内さんがいて良かったなあと思います。

— そういえば、監督自身も出演されていましたね。

あれは本当に周りのスタッフに乗せられて、ちょっと…クランクアップ2日前くらいで、最後の方の撮影だったのですが、撮影の相馬さんに無理矢理出させられた感じです(笑)

— そうだったのですね(笑)でも、もともと監督は役者を目指されていた時期もあったということですけども、自ら出ようとは思ったりされなにのですか?

とりあえず、今回に関しては一切出るつもりはなかったです。

— いい場面でしたよね。

「重要すぎるな、このシーン」と思ったんですけど(笑)。

— 今後、自分で演出しながらも出てみようみたいなことはないのですか?

たしかに、いつかはやってみたいですけど・・・、まずはインディーズでやります(笑)

— 市井監督と言えば、決して欠かすことができない要素のひとつに、物語のなかのユーモアがあると思うのですが、監督にとってユーモアとはどのようなものですか?

たしかに、シリアスにストレートに伝えたいことを描く方法も当然ありますし、今後、自分が撮っていく作品でそういうものを作る可能性はあると思います。ただ、ユーモアを入れることで、シリアスな部分が際立つということもあります。深刻な話をしていても壁を隔てて、すごく平和な家庭があったり、そういうことは日常に転がっている訳ですから。ただ、そうかと言って、コメディにしようという感覚はないんです。必死に何かをしている人は近くで見てみるとシリアスだけど、引いてみると滑稽に見えたりとか、そう言う角度が違えば見え方も違ってくる部分を意識的に撮ってきました。

— ユーモアとシリアスのバランスがとても重要なのですね。

そうですね。

— 印象に残っているシーンはたくさんあるのですが、市役所から健太郎が出てくるシーンの横移動の反復は、かっちりと決まった構図で繰り返し登場しました。あのシーンのこだわりはなんでしょう。

もちろん日常的に健太郎は決まった動きを繰り返しているということを伝えたい意図がありましたが、あの横移動は、なんだったかな、確か韓国映画の復讐の…

— 『オールドボーイ』?

そうです。

— ああ、たしかに!

あの横移動は、それを意識しています。あと、傘を取り出す時も健太郎は武士が刀を取り出すように隙のない動きをしたり。

— なるほど。どこか厳かな雰囲気すら感じていました。その横移動から、終盤の健太郎の疾走シーンへのつながりはとても効果的だったなと思います。監督といえば、疾走シーンも大事な要素かと思うのですが。途中でカメラが、健太郎を追い越し、寄り添うようにバックするシーンも印象に残っています。

映像としては、あまり表れていないかもしれないのですが、あの後、実は健太郎の走り方が変わっています。健太郎は鎧のような枷から解き放たれた走り方になっているのですが、そこに気づかれなくてもいいんです。理屈じゃない感情の爆発を見せたかった。スーパーサイヤ人になったみたいな、そんな感じなんですが(笑)

— スーパーサイヤ人みたいに走ってくれと…(笑)

そうですね。


© 2013「箱入り息子の恋」制作委員会

『箱入り息子の恋』

6/8(土)、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!

(2013年 / アメリンヴィスタ / 5.1ch / 117分)

星野源/夏帆/平泉 成/森山良子/大杉漣/黒木瞳ほか
監督・脚本:市井昌秀
配給:キノフィルムズ

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