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2014年の第64回ベルリン国際映画祭金熊賞と男優賞をダブル受賞
『薄氷の殺人』ディアオ・イーナン監督来日!

text & photo : yuki takeuchi

2014年の第64回ベルリン国際映画祭で、ウェス・アンダーソン監督作品『グランド・ブダペスト・ホテル』(審査員特別賞)、リチャード・リンクレイター監督作品『6才のボクが、大人になるまで。』(監督賞)といった強力な作品を抑え、コンペティション部門の最高賞たる金熊賞と男優賞をダブル受賞した『薄氷の殺人』。11月14日、長編第3作目にしてこの栄光を獲得した中国の新鋭監督ディアオ・イーナン監督が来日し、都内にてティ-チ・イン試写会が行われた。

上映後の拍手の中にあらわれた監督は、3回目の来日でありながら、今回初めて自身の作品をもってこられたことに嬉しく思うと伝えた。

本作は、1999年の中国北部にある地方都市を舞台に、刑事のジャンが、6都市15箇所にまたがるひとりの男のバラバラ死体遺棄事件に関わることから始まる。冬の乾いた空気、大都市の急進的な発展から取り残されたような街並、そして雪に覆われた白い世界と野外スケート場。その事件は未解決事件のまま、ときは2004年へ移る。そして新たな起こる猟奇的殺人事件と急浮上しはじめる美しき疑惑の女・ウー。ジャンは独自にその事件を追いかけ始める…。

監督は殺人事件の重要なキーワードとなるあるもの(※会場では言及されていましたが、未見の方に向けて、ここではふせさせていただきます)について、「一般的なフィルムノワールとは違った雰囲気を作りたいと考えていた」「最終的にその“あるもの”を使って殺害する、シンプルで美しい方法を思いつきました」を説明。しかし、どのようにそれを使うかは試行錯し、長回しも使って撮影したと述べた。

薄氷の殺人 ディアオ・イーナン監督ディアオ・イーナン監督

また、ジャンが容疑者たちを追いつめた先での(当事者の心理的な描写を省いた)突発的な銃撃シーンに関しては、私たちが実際の生活の中で出会う、予期せぬ事件や路上で出くわす暴力的な行為をイメージしたと言い、「実際の日常のなかでそういった状況で人の心の内を見抜くことは難しいことです。表象に現れたの出来事そのものに刺激されて様々なことを判断します」「傍観者として目の前で現象を観る。そういう意味合をそこに込た」と説明。

ベルリン国際映画祭で男優賞を獲得した主人公ジャンを演じるリャオ・ファンや、“疑惑の女”を演じるグイ・ルンメイだけでなく、脇役の俳優たちもとてもリアルだったという会場からの声に対しては、俳優陣に演技をしないよう、演技をするのではなく自分のなかにあるものを自由に出し、そして出来るだけセリフを削ぎ落とすように頼んだと説明。そして、「私の考える良い演技というのは自由で尊敬に値するものです」「ですから、安っぽい演技、手慣れた技術だけ際立った演技、必至にになって演じていますというような雰囲気は要らないと思いました」「演技というものでは 綺麗で美しく、清潔なものでないといけない。それは、静かでじっと何かに堪えてそこに佇んでいる。しかも内心では何かに燃えている。表に出てくるのは静かなものでなくてはいけないと思いました」と述べる。

本作はフィルムノワールのような犯罪をベースにしたサスペンスでもありながら不思議な魅力をもつ“謎の女”に、ジャンが惹かれ、堕ちていってしまうというラブストーリー的な要素もつ。その“謎の女”を演じるグイ・ルンメイに対して監督は「とても清楚で、周りの人の哀れみを誘うような、つい庇ってあげたくなるようなイメージがあり、一方ではうちに複雑な者を秘めてる。その両者が綱引きをするような雰囲気を表現を出来る女優」「肉体的な魅力ではなく、彼女が持っている危うさにジャンは惹かれてしまう」と述べる。

薄氷の殺人物語の終盤、ジャンがひとりで踊る印象的なシーンがある。それは、これまでに多くの映画で描かれてきたダンスシーンに匹敵するほどの印象を残す。とくに男性の主人公らがメインで踊るような、例えば『パルプフィクション』のジョン・トラボルタのそれにも匹敵するだろう。しかし、とは言っても比べると決して格好よく、スタイリッシュなわけでもない。なのに、美しくもあり、コミカルでもあり、不思議と胸を熱くさせる。「ジャンが内心の複雑な苦しみを託しながら踊るシーン」と監督。「楽しく踊っているような感じだけれども、ジャンがウーにした行為によって、彼は悪い人間のようにも見えます。あのシーンは、リャオ・ファン自身で考えて踊ってくれました。私は“もっと悪人っぽく”と演技の修正をしたくらいですね」と説明。そして「あのシーンを撮影したのは最後の最後だったので、(カット後に)彼に続いて、我々みんなも一緒に踊りました。監督自身も一緒になって踊っていたので彼はすごく驚いていましたよ(笑)」と明かした。また、そこでかかる欧陽菲菲のダンスナンバーは、当初“YMCA”をかけようと思っていたとも言い、「もしYMCAをあそこでかけていたら雰囲気がちょっと違った作品になっていたかもしれません」と冗談めかした。

そして、エンディングで大々的に展開される美しいシーンに関しては「100人が観たら100通りの考え方があっていいと思った。日常生活の中で本当に正しいことというのは、表に出てこないものだと思います」「大事なのは日常のリアルさと人間の感情であると思ったわけです。なのでラストはすべてを明らかにしないことにしました」「愛というものは決して二人が一緒にいるから成立するものでなくて、離れていても存在するものだと思います」と述べた。

フィルムノワールというジャンルだけにおさまらず、正義や愛、自尊心などに複雑に引き裂かれる人間たちの感情をスリリング描く。また、感情に呼応するような色彩と映像の美しさ、大胆な演出やカ編集による時間操作、緩急あるカット割り、音の使い方など、名だたる作品を抑えてのベルリン国際映画祭でのダブル受賞にも納得させられる作品の完成度で、観る者を圧倒する『薄氷の殺人』。ディアオ・イーナン監督はこれからの映画を面白くさせてくる、新しい才能に違いない。

2015年1月10日(土)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開!
『薄氷の殺人』
http://www.thin-ice-murder.com/


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『薄氷の殺人』
(原題:白日焰火/BLACK COAL, THIN ICE)

2015年1月10日(土)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開!

監督:ディアオ・イーナン
製作:ヴィヴィアン・チュイ、ワン・チュアン
共同製作:シェン・ヤン
出演:リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエビン、ワン・ジンチュン、ユー・アイレイ

2014年/中国・香港/106分/カラー/アメリカンビスタ/原題:白日焰火/英題:BLACK COAL, THIN ICE/PG-12

配給:ブロードメディア・スタジオ

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