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Interview

第86回ベルリン国際映画祭正式出品作
『家路』久保田直 監督
3月1日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

interview & text : yuki takeuchi / photo : tomohiro masuyama

― そのドキュメタリーでは世の中に出すことはできないというのは。

普通に、「この福島の状況って大変でしょ」「福島の人頑張っていますよ」というようなドキュメタリーは、たぶん作らないと思いますし、応援歌のようなものは、もちろん、作ることはできると思いますけども、僕はあまりそういうものは興味がないと言いますか、まず、“福島のこと”と思うようなことが面白くないんですよね。やっぱり、当事者意識をきちんと持っていたいというのが、一番ベースにあるので…。そういう意味では、人間ってやっぱり生きているなかで、いやな部分とか、ずるい部分だとかいろいろあるじゃないですか。当然、この閉ざされた空間に関係している人たちのなかにも、いろいろな人間のどろどろした部分はあるわけなので、そこをきちんと見たいということで作ると、もし取材対象が取材をさせてくれたとしても、それを世に出した途端に、ものすごい攻撃を受ける可能があるわけですよね。とくに、今のネット社会では、考えられないくらいにバッシングされますからね。そのときに、自分が、どれだけ責任を取れるのか…。基本的に、ドキュメタリーで責任なんて取れないというのはあるので、どっかでそれを我慢してもらうということで、ヒューマンドキュメタリーって作っている部分はあるのですけど、今回のことに関しては、“犠牲になってもらってまでも出すべきだとか?それでも出さなきゃいけない”というようなところまで、自分はいけないな、自信がないなと思ったので、これはドキュメタリーではできないと思ったのです。

逆に言うと、いろいろなドキュメタリーの分野で一緒にやっているような仲間やライバルは、やっぱり一生懸命ドキュメタリーで撮ろうとしている人もいるので、そういう人たちにこれを見せたとときに、“こんなの全然ドキュメタリーでやればよかったじゃん”とか思われるようなレベルのものを作っちゃ絶対だめだな、というのはひとつのプレッシャーとしては、凄くありました。これは、ちょっとドキュメタリーでは無理だよね、という…、でも、ドキュメタリーを作っていた人間が作っただけのことはある、というところまで持っていかけない限りは、ダメだろうなというのは、凄くプレッシャーとしてはありましね。

― たしかに、実際に作品を拝見させていただいて、ドキュメタリーでは描くことのできないようなフィクションを描いていたのだと思うのですが、福島の事故を見ているというよりも、そこに本当に生きる人たちのドキュメタリーを見ているような感覚がとても強かったのです。そういったリアルに思えるような人々の造形は、実際に現地への取材などに行かれていくなかで生まれたものなのですか。

そうですね、脚本家の青木研次の取材だったり、僕の取材だったり、ふたりで一緒に行ったときの取材だったりというものを投げ合って、そのなかで作り込んでいきました。

田中裕子さんって、本当に不思議な人なんです

― とても豪華で本当に素晴らしいキャストが揃いましたが、キャストに関して監督の希望はあったのですか。

もちろん、すべて僕の希望です。田中裕子さんに関しては、青木研次が前作『いつか読書をする日』で主演されていて、お互いに信頼関係も築き上げていて、僕も大好きな方だったので、彼が「裕子さんになら相談できるけど、どうする?」と聞いてきたので「絶対に相談して」とお願いしました。そういう意味では、田中裕子さんに関しては青木研次マターという感じですけど(笑)、それ以外のキャストに関しては、この人だったらいいのなと思う方々でお願いできて、本当に奇跡に近いなという思いです。

― 出演された方たちとはどのようなお話や演出をさていったのでしょうか。

それぞれに違いますね。例えば、松山ケンイチさんに関しては、どういう方向性で、どういうキャラクターにするかということを決めたのですけど、そこから、いっさいぶれずに進んでいったので、現場でどうこう言うことは、ほとんどなかったです。内野聖陽さんに関しては、彼自身も役柄も凄くぶれるタイプだったということもあって、毎回、こと細かに「監督これはどうなんですかね」と言うので、いろいろディスカッションして、「こうなんじゃないか」というように答えて、進めていきました。基本的に、僕はみなさんに対して言っていたのは、「演技をつけたり、演技指導をしたりとか、そういうことはするつもりもないし、能力的にできないし、やるつもりもありません。だた、自分がドキュメタリーで培ってきたノウハウのなかで、ここは、こういうことじゃないのではないか、という違和感を感じたときには言います」というようなスタンスでやっていました。なので、「実はこういうときは、こういう気分になるんじゃないか」とか、そういうディスカッションはしました。そのなかで、みなさんが役を染み込ませていって、演技してくれていくので、僕はそれを楽しんでいました。「あぁ、こうくるか」みたいな(笑)それはすごく面白かったですね。

― 出演されていたみなさんが、本当にそこに生きているように自然で、アドリブなのかな?と思うようなシーンもいくつかありました。例えば、映画の冒頭、車の中で総一の娘役の志村美空さんが、田中裕子さん演じる総一の継母・登美子に飴を食べさせるシチュエーションがありました。そこは、ふたりが一番はじめに登場するシーンなのに、そこだけで自然にふたりの関係性がわかるという…。

あれは、女の子のアドリブなんです(笑)。すごくおとなしい子だったので、どうかな?と思うところはあったのですけど、たまたま、あのシーンを撮るときに、カメラの位置を変えようとして、ちょっと待ち時間あり、普通は他の場所で待っていただくことになるのですけど、なんとなく「そこにいて」という感じで、そこにいてもらったんですね。裕子さんも、そこにいたいというのがあったんでしょうけど、そのなかでキャッキャ、キャッキャと、あのふたりが、遊びはじめていて、少し時間がたって僕が見に行ったときには、すっかり仲良くなっていて、飴で遊んでいたので「こういう感じでいければいいですね」と話して、そしてテストやって、いざ本番となったときに、いきなり女の子が飴を裕子さんに食べさせて…「やったね!」という。裕子さんは、カットかかった瞬間に「二度と出来ないからね!」と仰ってましたね(笑)。

― 素晴しい出演者のみなさんのなかで、あの子の存在感がとても良いバランスだったなと思います。その田中裕子さんなのですが、今度は、逆に、総一の妻・美佐役の安藤サクラさんに、ソーセージを食べさせるシーンがありますが、あれも、もしかしてアドリブですか。

あれもアドリブです(笑)。アドリブというか…、裕子さんって、本当に不思議な人なんです。あれはクランクインの前に、急に「監督、相談があるんだけど」と話し掛けられて、「あそこのシーンでふたつやりたいことがある。別になんてことはないんだけど、私は、いわゆる魚肉ソーセージの皮を歯で剥くのが得意なんだよ。それをやりたい」と言うんですね。それで「わかりました。ソーセージ用意します」と。もうひとつは「爪楊枝をピーンと飛ばすのが、すごく得意なの。それもやりたい」と仰って、「わかりました。爪楊枝も用意します」と。そして、テストのときには食べさせてなかったんですけど、本番のときに急に食べさせようとして、安藤サクラさんもその一瞬ためらうんだけど、笑顔で食べるという(笑)。

— 先ほど、監督が仰っていたように、こまかい演技の指導されていなかったということで納得したのですが、現場でリアルに生まれいったものを丁寧にすくいとっていっているのだなという気がしまいた。

たぶん、それはドキュメタリーとは、だいたいそういうものなので…。じゃあ、あそこで僕が裕子さんに「ここら辺でサクラさんにソーセージを食べさせてください」みたいなことをやってしまうと、たぶん、動きも違ってしまうのではないですかね。

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© 2014『家路』製作委員会

『家路』

2014年3月1日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:松山ケンイチ、田中裕子、安藤サクラ、山中崇、田中要次、光石研、石橋蓮司 内野聖陽
監督:久保田直
脚本:青木研次
企画協力:是枝裕和、諏訪敦彦

主題歌:Salyu「アイニユケル」(作詞・作曲・編曲:小林武史/TOY’S FACTORY)
音楽:加古隆

製作:『家路』製作委員会
企画・制作プロダクション:ソリッドジャム
配給:ビターズ・エンド
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