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Interview

第86回ベルリン国際映画祭正式出品作
『家路』久保田直 監督
3月1日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

interview & text : yuki takeuchi / photo : tomohiro masuyama

あの顔のカットために、このお話をずっと積み上げていった

― 福島の汚染された土を東京に持っていこうとすることや次郎が警戒区域に住もうとすること。また、それに対する警官たちの反応など、とても言い方が難しいのですが、世間一般から見れば、道理の反しているとも思われてしまうような、描きかたによってはとてもナイーブなモチーフだったと思うのですが。

そもそも、主人公が、警戒区域内に入るというところから始まっているので、そこは描きたいということと、実際に、現地に行くと福島県警だけじゃなくて、全国から応援部隊が来ていて、とくに警視庁の方が多いです。そういう意味では、東京から来た警官がある意味で、最初は杓子定規に「だめだ、入っちゃ」と言うのだけども、あの田植えの美しさを見たときに、なんか自分の中に思いが芽生えてくるとか、見惚れてしまう、というか、「ま、いいか」という気持ちになって帰っていくといのがどうしても入れたかったんです。

― たしかに、あの警官はどこか観客の視点や心情にも重なるところがあって、複雑な心境のなかで、どこか「これで、いいのかも」と思わせてしまうところがありました。警戒区域でのシーンは、自然の美しい映像だけでなく、風で草木がこすれる音、鳥や蛙の鳴き声など、さまざまな音が非常に心地よく、音響にもこだわりを感じたのですけども。

ドキュメタリーを作るときも音は凄くこだわっていて…、音はいろいろな感情を人に感じさせる大事なファクターなので、僕が、実際に福島ににいたときに感じた音とか、そのことによって生まれ思いなどを伝えるために、やっぱりその音を再現したいというか、その音をちゃんと録ってほしいと思い、録音だけは、ドキュメタリーも一緒にやっていた方にやってもらっています。

― その自然の音などもそうなのですが、次郎や北村が、その周りの自然のなかで過ごしているシーンは、とても見ていて気持ちよく、そこが警戒区域なのだということを、ふと忘れそうになるというか、逆に、総一などが住む仮設住宅の方が安全ではあるのに窮屈さを感じてしまうような…。

それは、現地に行かれると分かると思うのですけど、本当に綺麗なんですよ。圧倒的な緑があり、本当に透明な川が流れていて、鳥が鳴いているみたいな。そのことが、逆に怖いというか…。放射能の怖さって無味無臭で、色もついていないし目に見えないし、匂いもない、本当に分からない、という怖さがあって、なんにも変わらないのだけど、きっとダメなのだろうな、というその怖さを出したかったので、自然は出来るだけ綺麗に見せたかったし、それを要所要所で入れたい、それとは真逆に、仮設住宅のシーンは、本当の仮設住宅で撮らせてもらえたので、本当にここでの閉塞感というか、これは疲弊していくだろうなという実感をそのまま伝えたいというのあったので、それを意識的に見せていく編集はしたと思います。

― さきほどの音の話にも関連するのですが、終盤の田圃のシーンでは雨が降っていて、その雨音も含め本当に美しく、それによって物語が一点にむかって集約していくような、文字通り、心が洗われるようなシーンでした。あのタイミングで雨というのは、本当にすばらしいタイミングだなと思ったのですが、もともと想定されていた設定だったのですか。

あれは、本当に奇跡でしたね(笑)。まず、このクランクインの前日に、予定より早まって梅雨入り宣言が出たんです。これは絶望的だね、と言っているなかで、この錚々たるキャスト、かつ低予算の映画でスケジュールパンパンなので、雨降ったら雨降った状況で撮るしかないと、割と絶望的な気持ちで入ったら、ずっと晴天が続いて、「もう奇跡だね。なんかツイているよ」というふうに、ずっと裕子さんや松山ケンイチさんとか、みんなとそういう話をしていて…。そして、ある頃から「天気がずっと続いてほしいよね。でも、最後の田圃のときだけは雨が降っていたらいいんだけどね」ということを冗談半分で言っていたら、本当に降って…。でも、それもずっと降られていても、ちょっとな、止んでくれないかなと思っていたら、すうっと止んでくれて…、もうこれは奇跡としか言いようがないんですけどね(笑)

― その奇跡のようなシーンでの、松山ケンイチさんが演じる次郎が、ラストに見せる、なんとも言えないような表情が頭から離れないのですが、あの表情に込めた思いみたいなものはありますか。

あの顔のカットために、このお話をずっと積み上げていったという思いなのですけど、ケンイチが、ああいった表情をあそこでするというのは、僕は全然予測していなかったので、そこは、彼は天才だなと思います。あそこで、あの何とも言えない表情を作ってくれたときには、とても痺れたました。

『家路』は、3/1(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

『家路』公式サイトはこちら


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© 2014『家路』製作委員会

『家路』

2014年3月1日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:松山ケンイチ、田中裕子、安藤サクラ、山中崇、田中要次、光石研、石橋蓮司 内野聖陽
監督:久保田直
脚本:青木研次
企画協力:是枝裕和、諏訪敦彦

主題歌:Salyu「アイニユケル」(作詞・作曲・編曲:小林武史/TOY’S FACTORY)
音楽:加古隆

製作:『家路』製作委員会
企画・制作プロダクション:ソリッドジャム
配給:ビターズ・エンド
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