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Interview

『生きてるものはいないのか』
石井岳龍 監督インタビュー / 2012年2月7日

text : yuki takeuchi / photo : ayako nakamura

これまで映画史に輝く数々の名作を生み出してきた石井聰亙改め、石井岳龍監督の10年ぶりの新作『生きてるものはいないのか』の公開に先立って監督本人にインタビューをさせていただきました。制作の裏側から、さまざまな映画監督の名前が飛び出す監督自身の映画観に至るまで貴重なお話を聞くことができたので、ここに紹介します。

くだらないこと言っているようにみえて、実は大事なことを伝えている。そこに魅力を感じたから、これをお客さんと共有したい

まず、10年ぶりの新作となりますが、今作での新たな挑戦や発見があったら教えてください。

これまでやったことのなかった原作が戯曲の映画化ということで、そういうものをやりたかったのだけれど、会話劇ははじめてだったし、主要な登場人物が18人もいて、それがマシンガントークを繰り広げながら物語が進行していく。いままでなかったことなので、非常に挑戦したと思います。まず、私はいままではアウトローな人を主人公にしてきたのだけれども、今作は完全にインナーな方たちの話。しかも、テーマとして裏に張り付いているものがとても当たり前のことで、全員いつかは死ぬということ。それはいつ訪れるかわからないという、本当に不条理なことだと思いますが事実ですよね。生まれるときも死ぬときも選べない、というのも残酷な事実なので、それを自分に言い聞かせ、その上で日常に向かうということ。そういうチャレンジはありました。
原作を読んでものすごく惹かれたし、面白い、映画化を、と思った瞬間には、おそらく今言ったこと全部は考えていたと思います。

読んで、なんで面白いと思うのだろう、どうしてこれを映画にしたいのだろう、と自問自答しました。プロデューサーを探しましたが、結局誰もが「これが映画になるの?」や「石井監督の意図がわからない」だったので、仕方がない、これは自分でやるしかないと。無理してでも制作したいと思った作品だったのです。これは私が6年間大学にいて学生たちと一緒に過ごしているという事も大きいのでしょうけれども、そういう稀な出会いがあった映画だったと思います。私をチャレンジに踏み切らせた出会いがありました。久々ですけど、制作会社を立ち上げました、しかも神戸に。DRAGON MOUNTAINという会社です。この映画の為に、そしてこれから映画を恒常的に作り続けるベースが神戸に整ったので、今回はその第1弾ということですね。

とても新鮮な”新しい”石井作品のカタチが誕生したという印象があり、とても心地よい衝撃を受けました。それと同時に、いままでに石井監督がとらえてきた、それぞれの時代を切り取る鋭い視線、現代性や予見性を強く感じ、見終わった後、『エンジェル・ダスト』のときのような感覚を思い返したりもしました。今作は五反田団の前田司郎さんによる戯曲が、もとになっていますが、これこそ今映画にしないといけないという感覚はあったのでしょうか?

いっけんくだらない会話にみえて、その裏にこそ大事なテーマがあって、そのテーマを見つめない限りだめなのではないか。そしてそのテーマは特別なことではない。そういう思いがたしかに強くありましたね。

それは今、大学で教鞭をとられていますが、若者と接しているなかでそういう感覚を感じたという?

若者と接しているときは、はじめは違和感が強かったです、いわゆるジェネレーションギャップと言いますか。私らの頃と違うなあ、と。まあ、当たり前なんですけど。それで映画をやれるのだろうかと思いました。

彼らと一緒につくれるのだろうかと?

ハングリーさがないように見えるので大丈夫なのかな、と。実際は大丈夫でしたけどね。やればやれるし、もちろん甘いところはあるのですが、けっして本質的にはかわらないと思うので。

内容としては突然死ぬというある意味、究極の不条理をつきつけてくる映画だと思うんですけど、映画はエンターテイメントの要素も持ちうると思います、そのあたりで気を使った点はありますか?

それが、ある種の絶望に見えたり、何か開き直りに見えるとしたら、私は映画を撮らないでしょう。アメリカの映画とかヨーロッパの映画が陥っているような、ある種の絶望に満ちたものとか、ある種の開き直りに関しては、そういう映画は撮らない、撮りたくないと、思っています。だったら映画を撮る必要はないと。現実の世界の方が大事だと思いますし。突然やってくる死というのは不条理ではなくて、事実ですよ。監督も激務なので突然死んだり、倒れたりするかもしれない。それはもう、圧倒的な事実です。それを前にして私らは日々の生活を今まで通りにやるしかないと思うし、それでいいんじゃないかと。だからこそ、日々の瞬間瞬間のくだらない会話も大事なことなんじゃないかと私は思えるし、人生はとても悲しいけども、面白いと思います。川島雄三さんの映画とか山中貞雄さんの映画とか、私が好きなのはそういうことを丸ごと描く。そこに映画の面白さと自分が考えている人生観の共通点があります。コーエン兄弟とかウディ・アレンとかも、そうですが、非常に滑稽なようでいて、裏に真実が張り付いている。そういう映画が日本ではあまり作られないように思います。目の前の日常、私だったらいつも目にしている大学のキャンパスを舞台にできないかと思っていて、そしたらこの原作がいきなり現れた。私はこんな会話は書けないですし、本当に心底びっくりしまして、すごいなと思いました。これだけくだらないこと言っているようにみえて、実は大事なことを伝えている。そこに魅力を感じたから、これをお客さんと共有したいと思った。舞台は既にやられている訳だから、映画的に映画館での体験としてできないかと。映画としての仕掛け、あるいは音楽とか絵画とかアートが持っているようなインパクトのようなもので作ってみたいと思いました。一瞬だけど永遠につながるような、そういう映画が好きなんです、昔から。


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© DRAGON MOUNTAIN LLC.

『生きてるものはいないのか』

2/18(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

監督:石井岳龍 / 原作・脚本:前田司郎 / 出演:染谷将太/渋川清彦/村上淳 他

協力:神戸芸術工科大学 / 製作:ドラゴンマウンテン / 配給:ファントム・フィルム 宣伝:ミラクルヴォイス / © DRAGON MOUNTAIN LLC.

(2011 年/日本/ビスタ/HD/113 分/5.1ch ステレオ)

オフィシャル・サイト

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