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Interview

『生きてるものはいないのか』
石井岳龍 監督インタビュー / 2012年2月7日

text : yuki takeuchi / photo : ayako nakamura

久々に、この人と仕事したいと思った俳優さんだった

ケイスケ役の染谷将太さんの俳優としての魅力もこの映画のなかにあると思うのですが。たたずまいの魅力とか…。監督は染谷さんを起用した理由と演出している俳優としての良さはどのようなところに感じられましたか?

もともと、染谷君は”映画栄え”する俳優さんだということを『パンドラの匣』(監督: 冨永昌敬 2009年)という映画を観て思ってました。お会いしたことはなかったのですけど、『パンドラの匣』で衝撃を受けたので。本当にきりっとしているし、クローズアップ力といいますか、そういうものがものすごく伝わってくる。何者だろう、この人は?と。年齢不詳な感じだったし、撮影当時はまだ高校生だったですけど、本当に驚きましたね。本人の持っている柔軟性と映画に映ったときのある種のチカラ。これは映画俳優にとっては、ものすごく重要だと思うので…。私が知っている俳優さんや、好きな俳優さんは、やっぱりそういう俳優さんですね。古くは(市川)雷蔵さんとか勝(新太郎)さんとかもそうですし…。

チカラですか?

映画力と言いますかね。クローズアップ力といいますか。普通もすごくチャーミングで透明感があるんですけども、普通で見ているときよりも、映画に映したときに、なんか異様な迫力が出る。オーラがあるということなのかもしれないですけど。私が知っている人だったら、浅野(忠信)君とか永瀬(正敏)君とかもそうだろうし、そういう人たちが好きですね。染谷さんは、映画を観させて貰って、久々にこの人と仕事したいと思った俳優さんでした。でもこの映画では逆に前半それが出過ぎるとまずいと考え、極力存在を消すようにしました。

それがかえって効果的にはたらいて、後半に存在感を増す感じがありましたね。やはりそれが狙いで?

はい。細かいテクニックとしては主観のショットを使っていない。非常に客観的な視点で描いていく。それによってラストに向けての仕掛けをしてあるんです。そういうことも含めて、それぞれの俳優さんに演じる役割があり、すべてアンサンブルだと思っているので、計算して撮っています。

会話が中心であったり、大学という閉鎖的な場所でもあるので物語が停滞してしまいそうな印象もありますが、全編にわたって、とても独特なテンポを保っていたと思いますが、なにか意図的に演出をつけられたことなどはございますか?

まずは会話のスピードですね。でも意味を伝えていかなくてはいけない。それぞれの俳優さんが持っている技量とテンポが、必ずしも一致しないこともあるのですが、アンサンブルとして、これはとても気を使った事ですね。

会話自体は戯曲にそっているとのことですが、実際の演劇とは使用される音楽は違っています。そこに監督の意図するところはありましたか?

そうですね、全く違いますね。私はだいたい映画を撮るときは心の中で音楽を鳴らしながら、あるいはリズムを確かめながら撮ります。最終的には映画もある種の音楽、これは黒澤明監督もおっしゃっていましたが、形式としては音楽に近い時間芸術だと思います。そのことは常に考えてはいますね。とはいえ人間が相手なので、思い通りに行かない場合もありますが、極力そうしたいと思っています。一時期は、小津安二郎さんのように人間をロボットのようの扱うことや、または(アルフレッド・)ヒッチコックみたいに、計算が目につきすぎることがイヤな時期もあったのですが、逆にそうすることによって、その人の持っているその人らしさみたいなことが浮かび上がってくることもあるんですよね。形式が決まっているからこそ浮上するその人だけの個性というものがあると思うので。でも、いきいきとした、(ジョン・)カサベテスの映画とか、ああいう俳優さんの演技の感情主体で撮った映画が、その人を最も表わすかというと、そうでもないというのも、なかなか映画の難しいところなんですけど。

このあと話は物語の核となるシーンへ移ったがネタバレになってしまうので、ここではある程度の引用にとどめておきたいと思う。もちろん、本編を観ていただければ、どの部分の話をしていたか、おわかりいただけると思うので、是非本編を観て楽しんでいただきたい。
戦争状態のような、さし迫った現場のなかほぼ一発勝負で、その核となるシーンの撮影は行われ、全員が一種のトランス状態に陥ったかのような神がかった瞬間が訪れたという。それは人為的には操作できない条件下、奇跡的なタイミングを迎えることができたという意味だが、当初の想像を超えた瞬間だったらしい。そういう意味でも、そのシーンでの染谷さんの表情や現場の雰囲気はドキュメンタリーだったとも言え、石井監督自身も撮影後にようやく、その”奇跡的なタイミング”に気づいたという。また、台詞も進行もほぼ原作のままのなか、唯一、このシーンのみが原作の舞台と違ったテイストを生んでいることに対し、「そうでないと、映画を作る意味はないと思いますし、このシーンをどうするかということから全体を組み立てていたので、ここがきちん撮れない限り、ここの前がどんなにきちんと撮れていてもだめだと思っていた。」と語っていただいた。


© DRAGON MOUNTAIN LLC.

『生きてるものはいないのか』

2/18(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

監督:石井岳龍 / 原作・脚本:前田司郎 / 出演:染谷将太/渋川清彦/村上淳 他

協力:神戸芸術工科大学 / 製作:ドラゴンマウンテン / 配給:ファントム・フィルム 宣伝:ミラクルヴォイス / © DRAGON MOUNTAIN LLC.

(2011 年/日本/ビスタ/HD/113 分/5.1ch ステレオ)

オフィシャル・サイト

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