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Interview

『生きてるものはいないのか』
石井岳龍 監督インタビュー / 2012年2月7日

text : yuki takeuchi / photo : ayako nakamura

観た人のイマジネーションとかインスピレーションとかそういうものを刺激する映画を作りたい

ミキ役の田中こなつさんもすごく印象に残っているのですが。

あの役はすごく難しい役だと思うんですよ。前田君ともいちばん話し合った役なんですけど、存在に対してどうとらえるかという。ふたりで話した結論は「結論づけることではない」という見解だった。最終的には、私には私の解釈があるのですが、俳優さんの解釈を中心として、問いかけは何度もしました。僕はこう思うけど、あなたはどう思う、と。結局は彼女の解釈で撮っていますね。とても不思議な方で、上手なんですけど、上手すぎるところがあるので、技術を捨てるようには話しました。とらえどころがない感じがとても良かったですね。

映画を観ていて、比較的女性の方がとてもまともなことを言っていて、男性の方はかなりとんでもない役が多かったですが。

時代ということもあるんじゃないですかね。ぼくらはもう完全に女性に支えられていますよね。男は理屈っぽい、自分を含めて。それはもう、前田君のとらえ方の素晴らしさだと思います。私自身の人生観としても日本の女性のチカラというのは頼らざるを得ないですね。世界においても日本の女性の精神力とかしなやかさというものは素晴らしいと思います。最近、私は(フランソワ・)トリュフォーの映画が好きなんですけど、女性がつよいというか、いきいきしていますね。トリュフォーが好きなジャン・ルノワール監督の映画も女性の明るさといいますか、しなやかさというものを大事にされている、それこそ人生の宝というか。「この世で一番大事なものは女性の笑顔である」というジャン・ルノワールの名言があるのですけど、それは今回もそう思いましたね。それだけで良いんじゃないかという。映画が映せるものというか、この映画をやりたいと言ってくれた女優さんたちのいきいきした感じをとらえるということは、ひとつの大きなテーマだったし、僕ら男性が陥っている理屈というか、そういうことも滲み出ていると思います。これは鋭い指摘だと思うのですけど、今度の私の映画にも色濃く出てくると思いますね。

物語の内容に関してお話をさせていただきましたが、説明的な描写の省略などもそうだ思うのですが、本作のもつ映画的な構造・スタンスが、現代のことこまかになにもかも説明されてしまう(たとえば、感動する場面や泣くシーンなども指定されているような)映画やすべてを映像にしてしまう映画といった現在の映画の流れに対するアンチテーゼであるのかなとも思いました。現状の映画界に対するなにか危機感のようなものを感じるところはあったのでしょうか?

アンチテーゼや危機感というのはいっさいないです。ただ私は、こういう映画が好きだということ。おそらくこういう映画を見て育って、そこから映画というものはこういうものだと学びました。映画館で体験することや、そのことを大事にしたいということもです。もちろん、わかりやすい方がいいと思うんですが、一種の体験として楽しみたいということがあるのです。 例えば、旅に行くとして完全にコースが決められていて名所巡りで名所を確認して満足する人もいるかもしれないけど、私はそのなかにある種の冒険、ある種の未知の出会い、思いがけない楽しみが、名所を確認したとしても、そこ以外にあるはずなので、それこそが旅だというふうに思います。映画の醍醐味というもの、自分が好きな映画、自分が辛いときとか、寂しいときとかに、映画が救ってくれたり、なにか大事なインスピレーションを与えてくれたりしたから映画が好きなので、そういう映画を作りたい。みなさんにこの映画を持ち帰ってもらいたいのです。例えば、みんなであれこれ話し合うとか、なにかこう大事な種が植え付けられるとか、そういう観た人のイマジネーションとかインスピレーションとかそういうものを刺激する映画を作りたいと思うし、だからこそ映画は大事。その場で解決する、そしてすぐ全部忘れてしまうアミューズメントとして私は映画を見ていないので。もちろんそういう映画も好きなんですけど、やっぱりなんか物足りないんですよね。どんなによく出来ていて刺激的であっても、私はそれだけだと物足りないというか、2時間観た後に、お口直しの別の映画を観たくなるというか。別に難しいことをやろうとしている訳ではないんですけど、私の感動してきた映画というのはなにかこう私に大事な物を残してくれているので、そうなれればいいなという思いがあるんだと思いますね。あと、映画館で体験することの大事さ。スクリーンはなぜその大きさなのか、なぜ暗闇で音を大きく出す空間なのか、という必要性。ブラウン管で観てちょうどいいならそういう表現を作ればいいし、映画としてみなさんに観ていただくためにはどういう事が必要か、何を盛り込めばいいかということを私なりの経験で懸命にやっているんですけどね。

何度も思い返してしまうようなシーンがいくつもあったり、思い返すたびにここはこういう意図だったのではないだろうかと思うシーンがあったりとか、映画の根本的な観るよろこびみたいなものを改めて感じさせてくれるような映画だなと感じました。

最後に今後の展開として作品の構想はたくさんあるそうだが、「まずは作れるものから確実に形にしていくことしかないのではないか」、それは「一緒に作るのは観客だと思う」からであり、「映画の宿命は、個人作業で完結するものではない」からだと語った。

後日譚になるが、撮影にはデジタル一眼レフのCannon EOS 7Dにカールツァイスレンズを組み合わせた2台が使用されていたとお伺いした。もちろん、今作がインディペンデントな条件で制作されているということも使用された理由だと思うが、映画界にも吹き始めた新しい流れであるデジタルシネマにも違和感なく石井監督らしさを生み出すその柔軟さに素晴らしさを感じ、それと同時に、そのフットワークの軽快さに今後の石井監督作品への期待を膨らませずにはいられないほどだ。しかしまずは、この『生きているものはいないのか』を存分に楽しんでいただきたい。

『生きてるものはいないのか』、2/18(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
オフィシャルサイト:http://ikiteru.jp/
『生きてるものはいないのか』公開記念 石井聰互(岳龍)特集上映
ユーロスペースにて上映:http://ikiteru.jp/news/common/325


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© DRAGON MOUNTAIN LLC.

『生きてるものはいないのか』

2/18(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

監督:石井岳龍 / 原作・脚本:前田司郎 / 出演:染谷将太/渋川清彦/村上淳 他

協力:神戸芸術工科大学 / 製作:ドラゴンマウンテン / 配給:ファントム・フィルム 宣伝:ミラクルヴォイス / © DRAGON MOUNTAIN LLC.

(2011 年/日本/ビスタ/HD/113 分/5.1ch ステレオ)

オフィシャル・サイト

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