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『自由が丘で』公開記念
ホン・サンス 監督作品上映+特別講義
「ホン・サンス映画はどのように生まれるのか?」

text & photo : yuki takeuchi

世界の名だたる監督の作品に出演し、いまや国際的な俳優としても活躍する加瀬亮。そして、つねに世界中の映画ファンから新作を待ち望まれている世界的な映画監督でもあるホン・サンス。ふたつの素晴らしい才能のコレボレーションによって生まれた『自由が丘で』が12月13日に公開された。翌14日にはその公開を記念して、東京藝術大学大学院映像研究科の主催による、ホン・サンス監督作品『教授とわたし、そして映画』の上映と監督へのインタビュー形式の特別講義が行われた。取材嫌いでも有名なホン・サンス監督は、今回の来日ではほとんどメディアによる取材を受けなかったため、今回の大変貴重な機会に会場には多くにファンがつめかけた。

加瀬亮さん × ホン・サンス監督による公開初日舞台挨拶の模様はこちら!

映画監督を目指したきっかけと影響を受けた映画監督

現在、韓国の大学で映画の製作とシナリオを教えているというホン・サンス監督。そもそもの映画への出発点は大学受験のときだと言う。受験を控え、勉強もせず自宅でぷらぷらしていたところ、母親の友人である演劇の演出の先生の話を聞き、演劇の演出に興味を持ち、韓国中央大学に入学。しかし、そこは上下関係が厳しくあえなく辞めてしまったと言う。また、「その頃は、韓国の大学でデモがたくさんあり授業もあまりなかったし、韓国の先生から学ぶことはあまりないような気がして、それでアメリカに行きました」と監督。その後、カリフォルニア芸術工科大学とシカゴ芸術学院で映画を学ぶ。そして、27歳の頃に出会ったのが、ロベール・ブレッソン(1901-1999 『スリ』『ラルジャン』など)だったと言う。「その当時、私は実験映画をやっていて、これからもそういう映画を撮っていくのかなと思ったのですが、ブレッソンを観て、ストーリーがある映画でも普通のジャンル映画にすることなく、そのなかに自分が追求していけるものがあるのではないかということを初めて感じました」。

衝撃を受けたセザンヌの絵と抽象性と具象性のライン

図1フランスの映画雑誌<カイエ・デュ・シネマ>700号記念号での世界中の監督に若い頃に影響を受けたイメージ(映画や写真)をあげてもらうという特集で、ホン・サンス監督は、ポール・セザンヌの林檎の絵を選んでいる。それに対して監督は「シカゴの大学に美術館があり、そこで初めてセザンヌの絵を観たときに衝撃を受けました。“もうこれだけあればいい、ほかに何も要らない”、そういうふうに思ったんです」と述べる。そして、「私は好きな作家ができたときに、その作家をなぜ好きなのかと分析してみたり、その作家についての伝記的な本を読んだりするのは好きではないのです。」「どの作家の、どの絵画やどのイメージにも具象的な部分と抽象的な部分が必ずあります。それらが衝突し、その現れ方が作家によって違うのです。作家、作品によって抽象的な部分と具体的な部分がそれぞれ異なる。」と言い、手元にあった用紙の裏に図を描きながら説明を続ける。「抽象的な部分が多くて具体的な部分が少ないときもあるし、半々のときもあるし…、それぞれがぶつかり合うところに“ライン”ができる。例えば、Aの少ない方が抽象的な部分で、多い方が具象的な部分だとする(図1)。これが映画の場合、抽象的で創造的なチカラは弱いけども、具象的なイメージはたくさんある。例えば、すごく美しい女優さんが出ているだとか。」と述べ、創造性は、抽象的なところからくることもあるが、それが何を象徴しているか考えもしなような「風が吹いている、木がある、木の葉が風になびいている」と言った即物的な情景から来ることもあるのだと言う。「私は、そのセザンヌの絵を見たときに、セザンヌの絵が持っている抽象性と具象性の間のラインが、私には一番合っているなと思いました。」

ラインを引くことからこぼれ落ちるものの中に面白いものがあるかもしれない

図2しかし、人間はどうしても自分の感じ方を正当化(=justify)するために「ラインを引く」ことをしてしまい、それを避けることはなかなか難しいのだと監督は語る。「私がいまここにいて、みんさんがいることも全く同じだと思うのです。ホン・サンスという実体が別にあって、そこからやってきた訳ではなく、いまここで私とみなさんが出会っている、語り合っていることがひとつだということです。」と言いながら、再び図を描きはじめる(図2)。「このぐにゃぐにゃとしものをホン・サンスだとすると、そこでホン・サンスというものを固めるためのラインを引いて(図の上方にある線)、こういう発言をするはず、こういう考えをするはずというライン(=考え)に沿ってピックアップする。ラインに合ったものだけをピックアップし、正当化する。」「でも、実際、考えてみるとそれ以外にもラインの引き方はたくさんある訳だし、ピックアップできないものもいろいろある訳です。その中に面白いものもあるかもしれないと思うのです。」

そして、「映画を作っているときも、私はひとつのラインを引いて、そこからピックアップしてきて、こういうものだと正当化するのではなくて、他にもいろいろなラインがあるかもしれないし、他にもいろいろな要素があるかもしれないということを感じながら映画を作っていますし、そういうものを感じてほしいです。」「でも、私たち人間はラインを引くことを避けることが、人間の性として出来ないみたいです。けれども、このラインでは不足かもしれない、このラインではピックアップできないものがあるかもしれない、という認識をすれば、そこからピックアップできないものはないかと探すことはできると思う。ラインを引くことは避けられないけども、ラインを引くことを相対化すれば、ラインを引くことによる抑圧を避けられるかもしれないし、私はそういう考え方が好きです。」と自身の映画制作に対する考えを語った。

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※図1,2はホン・サンス監督が描いた図を再現したものです


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『自由が丘で』
(原題:Hill of Freedom)

12月13日(土)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!

監督・脚本:ホン・サンス
出演:加瀬亮、ムン・ソリ、ソ・ヨンファ、キム・ウィソン、チョン・ウンチェ、ユン・ヨジョン、イ・ミヌ
提供:ビターズ・エンド、サードストリート
配給:ビターズ・エンド

(2014年/67分/韓国/ビスタ/カラー)

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