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Interview

『夏の終り』
熊切和嘉 監督 インタビュー

interview & photo : yuki takeuchi

大阪芸術大学の卒業制作として発表され、国内外の映画祭で高い評価を獲得し、一躍注目を集めた『鬼畜大宴会』(97)は今でも色褪せない衝撃を残している。その後も数多く意欲的な作品を生み出してきて熊切和嘉監督は、08年に『ノン子36歳(家事手伝い)』で女性を描くことで新たな新境地を開拓した。そして、プロの俳優と撮影地・函館の市民を共演させ素晴らしい演出力を発揮した『海炭市叙景』(10)も記憶に新しい。その後も絶えず話題作を生み出している熊切監督の『夏の終り』についてインタビューを行い、主演の満島ひかりさんの演技の話から作品づくり、それぞれのシーンに込められている思いに至るまでじっくりと話して頂きました。

STORY
妻子ある年上の作家・慎吾と、長年一緒に暮らしている知子。慎吾は妻のいる家と知子の家を週にきっちり半々、行ったりきたりしている。妻と別れて欲しいと考えたこともなく、知子はこの平穏な生活に、自分が満足していると思っていた。しかしある日、木下涼太が訪ねてきて、知子の生活は微妙に狂い始める。涼太は、昔、知子が結婚していた頃、どうしようもなく恋に落ち、夫と子供を捨て駆け落ちをした男だった。知子は慎吾との生活を続けながら、涼太と再び関係を持ってしまう。そして涼太の知子を求める情熱はやがて、知子が心の底に仕舞い込み、自分自身も気づいていなかった本当の気持ちを揺さぶり起こしていく。

満島さんの演技がすっと入った瞬間に、現場の空気がザワザワするような感じがあった

— まずは原作についての印象をお伺いできますか?

最初は文芸ものということで、堅苦しいのかなと思って読み始めたのですけど、出だしが、銭湯に行くふりして男に会いに行くというアグレッシブな女性のシーンからはじまっていることもあって、 ヒロインがはねていて、面白いなという印象でした。

— 脚本は、監督とよくお仕事される宇治田隆史さんが担当されていますが、その原作から脚本への過程にあたって、このシーンは残してほしいといったようなご要望などはありましたか?

その風呂桶を持って走るシーンは入れてと言いました。他に関しては、あまり話していないので、結構任せてしまいましたね。

— 主人公の知子を演じる満島ひかりさんについてお伺いしたいのですが、まずは起用した理由からお伺いできますか?

前から非常に興味がありましたし、一緒にお仕事したいと思っていたので…。僕は、普段映画を観ていてあまり女優には反応しないのですが、満島ひかりは観ていて非常に興味をひかれましたね。

— ちなみにその作品は?

やはり『愛のむきだし』(’09 園子温監督)です。いいなと思いました。

— 映画に限らず、普段ご自身の作品以外のものをご覧になって、この俳優さんはいいな、一緒に作品を作りたいなと思ったりすることはありますか?

ありますね。

— 最近ではありましたか?

『ホーリー・モーターズ』(’12 レオス・カラックス監督)のドニ・ラヴァンが、そうですね。もう本当に最高です。僕はカラックスが日本で撮った『TOKYO!』の一編『メルド』のメイキングをやらしてもらったのですが、ずっとドニ・ラヴァンを撮っていました(笑)そのときは、インタビューの後におでんを食べに行ったりもして…。一回だけ自分の映画に出てくださいと打診はしたこともあったのですけど、そのときはスケジュールとかも合わなくて。でも、やっぱりセリフなしでもいいから出てほしいですね。立ってるだけでもいいですからね。

— それは、是非観てみたいです。話を戻しまして…。満島さんとは知子という人物についてどのようなお話しされましたか?もしくは監督からどのような演出があったのでしょうか?

ちょこちょこと話したと思うのですが、撮影前は、僕の中に確信がなかったので、探りながらだったし、初めて仕事するということもあったので、まずは一度、芝居を見せて下さいという感じだったと思います。あとは映画の中で、知子自身もある意味ずっと迷っているような人物だったので「迷っていてください」という感じはありました。

— 演技の中でも迷っていて構わないという…。

知子自身、どうしていいか自分でも分からないという。計算でやる芝居ではなく、追いつめられていってくれたらなという気はしていました。

— 知子の言葉の抑揚やテンポはとても印象に残りました。私も当時に生きていないのでそれが時代性に合っているかというところまでは分からないですが、作品のなかでは、とても自然でしたし、とても知子の内面を表しているとも思いました。文字で綴られた原作や脚本だけでは、なかなか浮かび上がってこないところではあると思いますが。

言い回しは脚本の中にも書かれていましたし、リズムも考えられていたと思います。それにプラスで、普段、現代劇を撮るときよりは、「ここはちゃきちゃきした感じで言ってください」などとはお願いしたと思います。

— 参考にされた人物や映画の登場人物などといったものはあるのですか?

モデルという訳ではないですけど、漠然とあの時代の映画、成瀬(巳喜男)さんの映画や、まあ小津さんは特殊ですから、参考にという程でもないですけど、なんとなくああいう世界観というか時代感のなかでの在り方みたいなものは持っていました。

— 満島さんにはもともと注目されていたとのことですが、出来あがった知子という人物も含めて、実際の演技をご覧になられてどうでしたか。

ある種、いい意味で不器用な俳優さんで、表面的な、タレント的な芝居を絶対にやらないですし、自分の内側にすとんと落とし込んでやろうとするので、時代物ということもあって現場は本当に大変だったと思います。でも、それがすっと入った瞬間は、現場の空気がザワザワするような感じがあったので、それは面白かったですね。とくに慎吾の奥さんから電話がかかってくるシーンとか…。

— あそこは確かにすごかったです。

あそこはワンテイクなのです。ああいうときは、本当にすごいですよね。


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©2012年映画『夏の終り』製作委員会

『夏の終り』

8月31日(土)有楽町スバル座 ほか全国ロードショー

出演: 満島ひかり  綾野剛 /小林薫
監督:熊切和嘉 
脚本:宇治田隆史 
原作:「夏の終り」瀬戸内寂聴(新潮文庫刊)
上映時間:114分
配給:クロックワークス

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