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Interview

『夏の終り』
熊切和嘉 監督 インタビュー

interview & photo : yuki takeuchi

静かに激しい映画というのはイメージにありました

— 一方、派手さを抑え、ひとつの見せ場に収斂していくことではなく、すべてのシーンを等しく丁寧に扱うような作りに関しては、本作はワンシーン、ワンシーンが丁寧に作られている気がしましたし、3人がしていることに比べて、決して大袈裟にはならない演出だった気がします。

わりと話が地味なので、丁寧にやらないともたないなと言う感じはあったというか、静かに激しい映画というのはイメージにありました。静かなのだけども渦巻くものがあるという。

— そういった姿勢をさらに突き詰めているようにも感じましたが、その作りによって、削ぎ落としているとも言えるので、表向きの派手さは減っていく訳ですよね。これは、ある意味では挑戦的といいますか、危険なことでもあると思うのですが、それが素晴らしい雰囲気を醸し出していたと思います。

そう言っていただけて…。常にこれでいいのだろうかと思って撮っているところがあったので、出来上がったときも、「ああ、感動した」という映画でもないですから、スタッフが観てもどうリアクションしていいのか分からない感じになる訳ですよ。なので、不安でしたよね。

— たしかに、静かな映画とも言えるかもしれないですけど、思い返してみると、いろいろなところが印象に残っていて、とくにそれは映像だったり…。そもそも映画ですので、映像としての役割はとても大きいか思いますが、思わず魅入ってしまうような映像が何度もありましたし、丁寧に撮るという意識が伝わってきたように感じます。先程は型染めの行程を丁寧に撮ろうというお話がありましたが、登場人物に対してもそういう意識はありましたか?

最初にこの企画をやることになったときに、撮影の近藤くんと照明の藤井さんに言ったのは、染め物のディテールを積み重ねて丁寧に撮りたいということと、満島ひかりをきれいに撮りたいということでした。

— 照明の使い方も大変凝ってらっしゃいましたね。

そうですね。『ノン子』からずっと一緒にやっているのですけど、追求していっているものはあると思います。今回は、一方の電気を消してシルエットになるとか、そういう芝居を絡めて照明をみせるというのをやれた気がします。

— 静かな話ではあるのに観ていて決して間延びしてしまう感じはしない。それはなぜなのかと思っていたのですが…。物語の展開の方法なのか、編集のテンポだったりするのか、もちろん魅力的な映像というのもあると思うのですが。

実は、いつもより編集を早く切っています。こういう題材でじっとり重厚になりすぎるのが嫌だったというのがありました。風通しを良くしたくて、編集でいつもよりスパッといく感じというか、もう少しシャープな感じで…。回想の入り方とかもあまり説明にならないように、編集の段階では文芸作品ということとは別の方向にもっていこうとしましたね。

— たしかに、内容のわりに重くなりすぎないところが気持ちいいという感じはしました。

それにジム・オルークの音楽がくると、風通しが良くなるのではないか思いまいた。

— ジム・オルークさんは『海炭市叙景』に続き、2作目ですね。以前はぎりぎりに決まったということでしたが、今回ははじめからジム・オルークさんに決めていたのですか? また、音楽に対しては監督から要望はありましたか?

そうですね、早いうちからお願いしていました。まずは、ラッシュを観てもらったのですが、ジムさんは、知子のような女性は苦手みたいでした。「ああいう女の人は気をつけた方がいい」という感じで(笑)。「そこをなんとか。過ちを犯してこそ人間じゃないですか。なんとか彼女を肯定してください」ということを話して(笑)最初はもうちょっと不穏なというか、実験的な音楽にしたかったようなのですが…。いま編集している『私の男』(2014年公開予定)も実はジムさんに音楽をやってもらっていて、どちらかというとそっちでそれをやってほしかったということもあり、本作はもう少しとっつきやすい音楽にしてもらいました。「アコギで優しいメロディで、シンプルな感じで、女性映画なので」とお願いして、わりとライトな感じにしてもらっています。

— たしかに、あの映像にジム・オルークさんの実験的な音楽がはいると…。

やばいですよね(笑)

— かなり重たいかもしれないですね(笑)

武満徹みたいのをやりたかったと思うのですけど(笑)そうじゃなくて、ポップな方のジムさんでということですね。

— 印象に残っているシーンのひとつとして、回想のなかでの新宿のシーンで、木下恵介監督の『カルメン故郷に帰る』とジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』の看板が映し出されますが、やっぱりどうしても目に入ると言いますか、観ている方にとっては、どうしても気にかかるところかなと思うのですが、このふたつを選ばれた理由などはあるのですか?

あそこはワクワクするというか、一度やってみたかったのですけど(笑)『カルメン故郷に帰る』は時代性もあり、日本初のカラー映画でもあることと、ちょうど昭和26年ですし。しかも、回想シーンは、時代を表せていいのではないかと思い、カラー・コレクション(※映像の色彩を補正する作業)で総天然色カラーみたいに、まさに『カルメン』のような感じにしています。あと、ジョン・フォードはやっぱり好きなので。製作年では違うのですが、日本公開はあの年だったのです。逆につっこまれたら、それを返したいなという(笑)

— 最後に、私としてはここ10年くらいで監督が挑戦してきたことが、ひとつにまとまりはじめているような感覚があるのですが、監督ご自身、本作と通じての手応えや感触としてはどうですか?

難しい題材でしたし、迷い迷い、いっぱいいっぱいでやっていましたし、『海炭市叙景』はわりと「すごいものを撮ったね」というようにリアクションしやすかった気がするのですけど、そういうことでもないようですし、人によって様々な感想などがあるようなので、公開されてみないと分からないところもあります。

— これからいろいろな方が観て、いろいろな感想が出てくると思いますが、そうやって感じ方が一様でないことも作品の面白さだとも思います。

そうですね。

『夏の終り』は、8月31日(土)有楽町スバル座 ほか全国ロードショー

『夏の終り』公式サイトはこちら


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©2012年映画『夏の終り』製作委員会

『夏の終り』

8月31日(土)有楽町スバル座 ほか全国ロードショー

出演: 満島ひかり  綾野剛 /小林薫
監督:熊切和嘉 
脚本:宇治田隆史 
原作:「夏の終り」瀬戸内寂聴(新潮文庫刊)
上映時間:114分
配給:クロックワークス

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