UNZIP

Report

『サンドラの週末』公開記念 加藤千恵(歌人・小説家)×町山広美(放送作家・コラムニスト) トークイベント
その“選択”は、本当に“選ぶ自由がある”ということなのか?

text & photo : yuki takeuchi

過去に2度もカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞している巨匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督が、世界的名女優マリオン・コティヤールを主演に迎えた最新作『サンドラの週末』。6月14日、都内にて公開を記念したトークイベントが行われ、歌人・小説家の加藤千恵さんと、放送作家・コラムニストの町山広美さん登壇した。

『サンドラの週末』は、マリオン・コティヤール演じる主人公サンドラが、社会、仕事を通して人との関わりの中から、強く生きることを目指し、希望を探す物語。体調不良で休職していたサンドラは、仕事場に復帰する予定でいたが、週末の金曜日に突然解雇を言い渡される。同僚のはからいもあり、週明けの月曜に投票を行い、同僚の過半数がボーナスをサンドラのために諦めてくれたら、仕事を続けられることになるが、サンドラ、そして同僚たちは、自分のためか、仲間のためか、選択を迫られることに。家族に支えられながら、同僚たちを説得してまわるサンドラの週末がはじまる…。

ふたりとも最初の印象として、主人公・サンドラの弱々しさにはイライラしてしまったと言う。しかし、サンドラが同僚を説得して回るうちに、その行為の反復が次第にグルーヴとなり「最後には痛快に終わってくれて気持ち良く観ることができた」と町山さん。一方、加藤さんは、「ラストは意外な結末だった」と述べつつも「すごくいいラストだった、カタルシスがあった」と述べた。

左:加藤千恵さん / 右:町山広美さん

町山さんは、サンドラが弱々しく見えてしまう印象について、観ていくうちに「弱いということが悪いことなのかどうか?」と考えを改めさせられたと言う。また、体調の芳しくないサンドラがこのまま職場に復帰してもうまくやっていくことが出来るのか、会社にとって良いことなのかと疑問を抱き、いつのまにか自分が社長側の立場で観てしまっていたと述べ、そういった立場から見てしまうのも、今の世の中が生み出している風潮なのではないかとも指摘した。

加藤さんは、本作の「強さと弱さの描き方が絶妙」だったと言い、映画や物語はある程度、判りやすく描かないといけないが、本作では、判りやすさよりリアルさが重視されていたと述べる。また、マリオン・コティヤール自身はもちろん美人だが、彼女が演じるサンドラが、冒頭決して美人に見えないことがすごいと言い、印象的なシーンや表情が生まれていくうちに、次第にサンドラが美人に見えてきて、物語に飲み込まれていったと語った。

これまでのダルデンヌ作品は、社会の中で圧倒的に弱い立場の人間を描いてきたが、本作で描かれるサンドラという主人公は、結婚もしており、彼女に協力的な夫や子供たちもいる、これまでの主人公たちに比べて比較的恵まれている環境にある。このことに対して町山さんは、「今回、描こうとしているのは(理不尽な)社会のシステム。だから、サンドラが犠牲者に見えてはいけないと考えたのでは」と説明。また、サンドラかボーナスかを選ばないといけない状況を「理不尽な二択」「そもそも二択として成り立っていない」のだと述べ、「選んだような気にさせらてしまうが、実は何も選べていないということを、身近なテーマで描いている」と述べ、今の日本の社会や政治にも繋がるのではと指摘した。加藤さんは、自身の小説『点をつなぐ』の中で、そういった“選択していく行為”をテーマとして描いており、「本当は見えなところで(多くの)選択肢が突きつけられている。その選択肢を気づかないうちに選択させられていることがたくさんあり、それはこの映画だけでなく、私たちもそう」と語る。また、「見えやすい選択肢の裏に、見えない選択肢がたくさんあるんだ、ということを考えせられた」とも述べた。

ダルデンヌ兄弟は、本作の公開に合わせた、来日会見で「弱さの礼賛を描きたかった」「人々の連帯を描きたかった」と述べている。町山さんはそれに対して、現代を「人と人が繋がらなくなる、共闘できなくなる、人を分断するために選択を強いる世の中」と言い表し、敵対する必要のない人々が、敵対してしまうシステムがあるのだと説明。また、選択肢があるように見えて、そこには本当に選択する自由があるのか(知らず知らずのうちに社会に押し付けられた選択なのではないか)、と改めて考えさせられると語った。

5月23日 Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー !
『サンドラの週末』
http://www.bitters.co.jp/sandra/


© Les Films du Fleuve -Archipel 35 -Bim Distribuzione -Eyeworks -RTBF(Télévisions, belge) -France 2 Cinéma

『サンドラの週末』
(原題:deux jours, une nuit)

出演:マリオン・コティヤール、ファブリツィオ・ロンジォーネ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
2014年/ベルギー=フランス=イタリア/95分

オフィシャル・サイト

レビューを読む

Related Items