UNZIP

Report

『3人のアンヌ』公開記念

「ホン・サンス監督特集プラスワン」トークショー
菊地成孔 × 韓東賢

text & photo : yuki takeuchi

2013年6月2日(日)、イザベル・ユぺ―ル主演、ホン・サンス監督最新作『3人のアンヌ』の公開記念企画として開催されている「ホン・サンス監督特集プラスワン」において、トークショーが行われた。『次の朝は他人』の上映後に音楽家・文筆家の菊地成孔さんと日本映画大学准教授の韓東賢(ハン・トンヒョン)さんが登壇し、『次の朝は他人』を中心に、ホン・サンス監督論や新作『3人のアンヌ』にまで、話がおよび会場を盛り上げた。

まず、はじめに菊地さんは上映が終了したばかりの『次の朝は他人』を「(ホン・サンス作品を)5〜6本しか見たことがないが、その経験のかでも圧倒的に美しい。画面構成も美しいし、出てくる女優さんもキレイだし、雪はとてつもない美しさで、キスもとてるもない美しさで、感動してしまう程の強さ」だと評し、韓さんとともに「完成度が高い」と口を揃える。


『次の朝は他人』

菊地さんは「ホン・サンス本人は大変やっかいな方らしいが」と前置きをし、「作品にもそのやっかいさが表れているが、それはつまらないとか、面白いではなくて」「なにか分類しておとし込みたいという欲望から真っ向から対立している」と言う。また、ホン・サンスが、(ジャン=リュック・)ゴダールや(エリック・)ロメールに喩えられる以外に、菊地さんが見立てるロイス・ブニュエルの影響を補完する話として、新作『3人のアンヌ』の撮影中には、ホン・サンスが主演のイザベル・ユぺールに、ブニュエルの自伝を読むように差し出したことを挙げ、ホン・サンスがブニュエルに対して意識的であるということが、『次の朝は他人』では予兆であったが『3人のアンヌ』では更に顕著になっていると語り、「私から見ればホン・サンスは、“3種盛り”で、ゴダールの画面構築で、ストーリーがロメールで、物語構造に少しブニュエルが入っている」のだが、「この“3種盛り”のひとつひとつの原材料に対してリテラシーを持っていなくても観ることができる」と言う。

また、ゴダール作品には観る者を拒絶する感覚があり、一方でロメール作品は逆にまったく拒絶感がない。文化あらゆる宗教の国でリメイクが可能なほどの映画である、菊地さんが続ける。

菊地さんは『次の朝は他人』を、ゴダールの『女と男のいる舗道』であると喩え、双方の作品で音楽が短い小節で周期的に流れることを説明、そのミニマリズムは『アバンチュールはパリで』でも繰り返されると述べた。韓さんは、その“3種盛り”感を「リテラシーがある人が観ればすごく感じることなのだけども、同時に感じさせないところもある」として焼酎を必ず飲むことやロケ場所、食べ物などの韓国のベタな部分が、そうさせているのではと言う。

ゴダール、ロメール、ブニュエルの“3種盛り”はヘタすれば陳腐な紛い物になりかねないところを、「ホン・サンスの映画が怖いのは、ひょっとしたら“3種盛り”の本家を越えているのかもしれないなと思わせるところ」と菊地さんは言う。また、新作『3人のアンヌ』に対して「とにかくご覧になった方が良いと思います」「画面は90年代ゴダールですよ。『新ドイツ零年』などの…」と評した。

ホン・サンス作品に特有のズームとパンによるカメラワークに対しては「ホン・サンスは、いままでの映画で観たことのない中性的なショットだと言っている。つまり男性的でない女性的でもない。それはアジア的でもないヨーロッパ的でもないという意味も含めてだと思うんですけど…。とにかく、ユニセックスなショットにしたくて、必ずあのようにカメラを動かすようにしたんだと言っています」と菊地さんは説明したうえで、「引用の形式というのが20世紀の限界」であり、「(数多の芸術が行ってきた)引用にはリテラシーが発生するから(リテラシーが高い人間が良くて、悪い人間は無知だというような)いわゆる階級闘争が絶対に起こっていた。しかし、ホン・サンス作品はリテラシーが発生するということはない」と説明する。

対して、韓さんは「解釈がすごく開かれている。そこがシネフィルに馬鹿にされないで済む感じ(笑)。その優しさがすごくあると思う」また、「そこの線引きを消そうとしているのが、そのズームだったりする感じはある」とも述べる。

菊地さんはそのカメラワークはものすごい研究されているもので、「シネフィルが、必ずカメラワークの話を絶対にするな、ということに対する(ホン・サンスの)態度がゼロだとは、絶対に思えない」とも言う。また、「一番苦しいのは現代のマーケットに合わせて、これをとにかくラブロマンスだと固定してしまうこと」だと言い、「ホン・サンスがやっている仕事というのは、リテラシーという階級闘争が発生してしまう“引用”というやり方ではないような方法」であり、またホン・サンス作品を観ているうちに次第に違う映画が想起されてくることに対して、「同一性の障害だと思う。カメラワークを中性的だと語ったところにひとつひっかかるところがあるのですが、映画には当然、同一性がある訳のだが、(ホン・サンス作品では)この同一性に障害が起きている」と語った。


韓東賢さん(左)、菊地成孔さん(右)

最後には、6月15日から公開されるホン・サンスの新作『3人のアンヌ』に対して、「すごい面白です!」と言いつつ、「(『次の朝は他人』と比べ)こんなにキレイではないけど(笑)」「兵役に行った韓流の男の子の大胸筋とヨーロッパの60歳の女性の二の腕がぷるぷるしている映画ですね。フェティッシュな人には堪んないですね(笑)」と冗談で会場を大いに沸かせながらも、菊地さん、韓さんの『3人のアンヌ』に対する高い評価を伝えた。

『ホン・サンス監督特集プラスワン』
6月1日(土)~6月7日(金)オーディトリウム渋谷 にて上映
公式サイト:http://a-shibuya.jp/archives/6274

『3人のアンヌ』
6/15(土)よりシネマート新宿ほか 全国順次ロードショー
公式サイト: http://bitters.co.jp/3anne


『ホン・サンス監督特集プラスワン』

6月1日(土)~6月7日(金)オーディトリウム渋谷にて上映

公式サイト:http://a-shibuya.jp/archives/6274


『3人のアンヌ』は、
6/15(土)よりシネマート新宿ほか 全国順次ロードショー
公式サイト: http://bitters.co.jp/3anne

レビューを読む

Related Items