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「映画『鉄くず拾いの物語』を通して考える
「人権」とは」 監督来日記念 シンポジウム

ダニス・タノヴィッチ監督、
根本かおるさん、片柳真理さん
12月1日 / シネマート六本木

text & photo : yuki takeuchi

ボスニア紛争を描いた『ノー・マンズ・ランド』で監督デビューを果たし、アカデミー賞外国語映画賞やカンヌ映画祭脚本賞など世界中で賞に輝いたダニス・タノヴィッチ監督。最新作となる『鉄くず拾いの物語』は、ベルリン国際映画祭で三冠に輝き、第86回アカデミー賞外国語映画賞ボスニア・ヘルツェゴヴィナ代表に選出された。本作の公開に先立ちダニス・タノヴィッチ監督が来日。12月10日の世界人権デーを前に、12月1日、シンポジウム付き試写会が行われダニス・タノヴィッチ監督、根本かおるさん(国連広報センター所長(東京))、片柳真理さん(元上級代表事務所(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)政治顧問)が登壇。「映画『鉄くず拾いの物語』を通して考える「人権」とは」というテーマで、ボスニア・ヘルツェコビナの現状や映画を通して見えてくる日本にも当てはまる格差、貧困といった状況について語った。

INTRODUCTION
2011年末、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのある村に住むロマ民族の女性セナダが、保険証を持っていないために手術を受けれないという記事が新聞に掲載された。これを読んだダニス・タノヴィッチ監督は「何とか映画にして世間に訴えなければいけない」と立ち上がり、当事者たちを説得し自主製作として、9日間で一気に撮り上げる。一度も演技の経験がないにも関わらず、その存在感でナジフ・ムジチは、ベルリン国際映画祭にて主演男優賞を受賞するという快挙を成し遂げ、また本作をきっかけに、保険証と定職を手にし、ナジフ一家の実人生をも大きく変えた。実際の事件を、当事者たちを使って描いた心揺さぶる感動作。

我々も違う場所に行けば少数民族になるかもしれないという事です

はじめに本作を観た感想として、根本さんは「とてもリアルで、2年間過ごしたコソボで出会ったロマの人たちを思い出した」と言う。また「コソボの紛争でセルビア系とアルバニア系との対立の間に挟まれるかたちでロマの人たちが大変傷ついて苦しんでいることはあまり知られていない」とも述べ、弱い立場におかれ、どちらか強い方につかなければ生きていきないというのがロマの人たちで、教育もまともに受けることができない、現地で根本さんのアシスタントとしてくれたロマ人も同じ職場の人からさえ差別を受けていたと言う。

ボスニアに滞在していたことのある片柳さんは、映画のなかの風景に懐かしさを感じ引き込まれながらも、本作はロマに対する差別というより貧困によってお金がないと権利も守られないという状況を描いていおり、ボスニア紛争からかなり時間がたっている今でも、声を上げられずに苦しみ、自分で貧困やその他の問題をなんとかして乗り越えようとしている「日々戦っている人たちがいるということを象徴的に表している」と感想を述べた。

鉄くず拾いの物語タノヴィッチ監督は、ボスニアでのロマ人たちは定住せずに移動し続けるノマドと定住されている人びとのふたつのタイプいることを述べ、今作の主人公は後者であると説明。監督自身もサラエボ育ちであるため、さまざまな宗教、民族が混じり合っている環境で育ったことを踏まえ、作品に登場する彼らに対して自分と全く変わらないと思い接していたが、制作していくなかで、「(保健証を持ってなかったため手術を受けることができなかったロマ人の)セナダが金髪で青い目だったら扱われ方が変わったのだろうかと、ふと自問をした」と言う。そして「残念なことに、その答えは“YES”なのではないかと思う」と付け加える。「我々全員が理解すべきというのは、我々も違う場所に行けば少数民族になるかもしれないという事です。だからこそ、少数民族の方々は守らなければいけない、というふうに考えています」と監督。

現在のロマ人たちの現状について、根本さんは、国連の統計によるとロマの人口はヨーロッパで1200万人でヨーロッパで最も大きいマイノリティのグループであり、日本で言うところの住民登録、戸籍というものがない無国籍に近い状態の人びとが、教育も行政のサービスもまともに受けられない状態にあると説明。彼らの暮らしも「映画で描かれているように、鉄くずを拾ったり、あるいはリサイクル、あるいは道路工事といった、その日暮らしで生活を支えている、そういった家族が多かったように思います」と述べる。また根本さんのもとでアシスタントをしていたロマ人は、20才そこそこの彼女の収入で一族を支えていた状況だったと言う。

片柳さんは、サラエボで生活していた際に、明らかなロマ人に対する差別は目にしなかったものの、彼らが廃墟のようなところに住んでいたり、また路上で物乞いをするロマの人たちも非常に多く、子供に物乞いをさせている親もいるほどで、実際に夜遅くに物乞いをしている5〜6才の女の子を注意したこともあると言う。またボスニアにおけるボシュニャク(ムスリム)人、セルビア人、クロアチア人の3つの主要民族以外の人たちは、ロマ人に限らず、憲法上“その他”とされていて、国内の政治に関与する権利すら与えられていない現状を語り、国家のなかで差別されている立場にあると説明。紛争から、かなりの時間が経っている現在でも“その他”の人たちに被選挙権を与えることができない複雑さがあると述べた。

「世界をよく見て、よく考え、そして理解し、どういうふうにしていきたいのかということを考えることが、まず大切」次ページへ


『鉄くず拾いの物語』
(原題:An Episode in the Life of an Iron Picker)

2014年1月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国公開ロードショー! 

監督・脚本:ダニス・タノヴィッチ
出演:セナダ・アリマノヴィッチ、ナジフ・ムジチ

(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ=フランス=スロベニア/2013年/74分/カラー/ビスタサイズ)

配給:ビターズ・エンド

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