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在来作物と「しあわせの交換」が育む
農業と地域社会の未来

『よみがえりのレシピ』公開記念記者会見
2012年10月2日 /
レストラン「ヤマガタ サンダンデロ」(東京・銀座)

text : yuki takeuchi

10月2日(火)に映画『よみがえりのレシピ』公開記念記者会見が行われ、人類学者である中沢新一氏、本編にも登場する奥田政行シェフ、そして渡辺智史監督が登壇した。司会・進行を渡辺監督自身がつとめ、中沢氏、奥田シェフとともに山形と在来作物の魅力、大切さなどについて語った。

『よみがえりのレシピ』は、栽培者自身が種苗を管理し受け継がれてきた在来作物を追ったドキュメンタリー。大量生産や品種改良などの波に押され多くが失われてきてしまった在来作物に、独自の料理法で光を当てる、”山形イタリアン”<アル・ケッチァーノ>の奥田政行シェフ。焼き畑農法を研究し、奥田シェフとともに活動する江頭宏昌先生。そして、実際に在来作物を育て、受け継いでいこうとする農家の人びとを通して、在来作物の魅力や尊さ、地域固有の作物を食し受け継ぐことが生む地域社会の豊かさを伝えてくれる。

奥田シェフは、山形の魅力について、「日本でいちばん四季がはっきりしているところ。雪に弱い野菜以外ならすべて生産が可能で海の幸も140種類近くもあり、植物の種類の多さは世界のなかでもかなり上のほうにランクされる」と語った。「幕末の時代に、最後まで本州で幕府側についたためにしばらくの間、歴史上フタをされた土地であり、そのお陰で在来作物が残り、ここにしかない野菜を多くある」と説明し、「まさに料理人にとっては理想の土地」だと語った。

中沢氏も「山形は、世界と比べて作物の多様性ということでもとても豊かで、クオリティも高い。食べるということの豊かさが生活の一番のベースになっている地域として、日本のなかでもトップクラス」と山形の魅力を語った。

奥田シェフは、生産者との関係性の深さ、そして生産者のために考えた料理がいまの店のラインナップであり、スペシャリテになっていること語り、また食材の味、畑の香り、野菜を食べたときの音などから連想を始めレシピに至るという独自の過程を詳しく説明すると、中沢氏は、その独特な発想法に対して、「日本人ならではの比喩のチカラと感覚に対する繊細さをフル活用しているところが非常に興味深い」と語り、「いま、奥田さんの料理についての本が書きたい」とも語った。「たんに野菜を育てるということではなく、野菜を含めた大きな場所でおこっていること全てと、人間がつながりを持ちながら、自然の恵みをもらうというのが、古い農業の考え方であり、それが在来作物に結晶している」と語り、「在来作物の遺伝子が残っているということは、今後ものすごく貴重なことになってくる。人間と場所のつながりについての知恵というものの体系が(在来作物によって)残っていくこともすごく大事なことで、それをリードしていくのが、料理人だったということが、とても未来が開ける話。これからの農業の在り方というものにアイデアを与えている」と、農業だけでなく、地域社会の未来の在り方にも言及した。

奥田シェフは、山形県庄内には<お裾分けの文化>があり、人と人とが食を通して気持ちをひとつにしてきたこと、そして、いま生産者の方と信頼関係を築くときに、物々交換をしたり、店の席に空きがあると生産者を呼んでごちそうをするなど、お金を介在させないカタチで取り引きしていると語り、それを「しあわせの交換」と称した。「お金を第一ではなく、しあわせを交換する。庄内をしあわせにするために、収入をあげるのではなく、アル・ケッチァーノの生産者の方にお金をかからない社会にしたい」と語った。

中沢氏は、「このドキュメンタリーは、ショットひとつひとつに心がこもっている」「これからの日本の未来を示唆している。われわれが何を残していくか、日本という地域を残していくうえで、関係性を守っていくこと、それらは将来の日本の礎になっていくのではないか」と讃え、山形でもっと映画を取るべきだと渡辺監督を激励した。

渡辺監督は、「(むかし)東北は雪が多くて、半年間くらいは作物がとれないような食料が乏しかった場所で、だからこそ在来作物が冬場の糅飯(かてめし)として、重宝されてきた」「いま、おそらく全国的に見ても160品目くらい在来作物が残っているということが分かっている。それだけ残っているということは、それだけ食料が不足したということを身にしみて感じてた人たちが、まだいらっしゃって、種を守ってきたということ」「まさに(社会的な)負の側面が大きかったところが再構築されて、ポジティブな面がいろいろな食文化というカタチで、よみがえってきている」と語った。

また、「在来作物を食べて記憶がよみがえることや、何か懐かしいものがよみがえるということだけではなく、地域そのものがよみがえっていく姿を、奥田さんや江頭さんの活動から導きだしたい」と、このドキュメンタリーのタイトル『よみがえりのレシピ』の由来について説明した。

『よみがえりのレシピ』は、10月20日(土)より渋谷・ユーロスペースでロードショー、全国順次公開


© 2012 映画「よみがえりのレシピ」製作委員会

『よみがえりのレシピ』

10月20日(土)より渋谷・ユーロスペースでロードショー、全国順次公開

(2011年 / 日本 / HD / 95分 / 5.1ch / カラー)
制作・配給:映画「よみがえりのレシピ」制作委員会

出演:江頭 宏昌、奥田 政行、在来作物を守り継ぐ人々
プロデューサー:高橋 卓也 / 監督・編集:渡辺 智史 / 撮影:堀田 泰寛 / 音楽:鈴木 治行 / 整音:石寺 健一

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