[アカシアの道]

監督・脚本:松岡錠/キャスト:渡辺美佐子、夏川結衣、杉本哲太、藤田弓子、高岡蒼佑他/2000年 日本/90分/配給:ユーロスペース
2001年3月17日よりユーロスペース、バウスシアターにてロードショー

編集者として働く木島美和子(夏川結衣)は、叔母の春子(藤田弓子)から母親のかな子(渡辺美佐子)の様子がおかしいと知らされ、かつて住んでいた団地を訪れる。教師として働きながら女手ひとつで娘を育てたかな子は、なぜか娘の美和子に辛く当たり続けた。大学進学を機に家を出てから、3年近くも連絡をしていなかった美和子にとって、母との再会は気の進まないものだった。冷蔵庫の中には缶ビールだけ、アイロン台には焼けこげのあとがいくつもついているという状態に異常を覚えた美和子は、仕事を在宅でできるものに切り替えて母との同居を始める。母はアルツハイマーだった。記憶が混乱している母は、美和子がまだ学生だった頃のように自分の価値観を押し付けてくる。母のひと言ひと言が子供時代の記憶をよびさます。母との生活に疲れ、かつての恋人・沢木(杉本哲太)に連絡をとる美和子。母との同居については話したが、やはり詳細は語れず、沢木の部屋へ行っても母が気になって泊まっていくことができない。そうこうするうちに、母の病状はどんどん進んでいく。

母親に大きな心の傷を負わされた女性が、いやおうなく再び母親に向かい合うことで、自分自身に対して、母親に対して、そして「母と娘」の関係について新しい視点を獲得しようとする物語。監督は、デビュー作『バタアシ金魚』から一貫して、人と人がお互いのエゴや弱さを抱えながらも関係をとりむすんでいこうとする姿を描いてきた松岡錠司。原作は、リアルな人間描写で定評のある近藤ようこの『アカシアの道』。この作品は、95年に漫画雑誌に連載されて反響をよび、2000年7月に待望の再版が発売されたばかり。松岡監督自身が近藤作品のファンであり、なかでも『アカシアの道』は映像化を夢見てきた一作であったという。主人公の美和子には、『夜がまた来る』で第16回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞し、松岡監督とは『私たちが好きだったこと』以来の顔合わせの夏川結衣、美和子の母親役には、出演作は100本近く、幅広い役柄を確かな演技力と存在感で演じ、最近では若手監督作品のスクリーンを引き締めている渡辺美佐子、美和子のかつての恋人役には、独特の存在感と安定した演技力で、映画俳優としての地位を確立している杉本哲太、そして、母と娘の煮詰まった関係に、巧まずして救いの手をさしのべることになる青年役には、『バトル・ロワイアル』にも出演し注目を集めている、新人の高岡蒼佑があたっている。アカシアの道で母と娘が交わす会話がとても印象的で、他人事とは言いきれない介護の問題が鋭く、そして優しい視点で描かれている。

Text : Yoshi Mizu

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