[火垂]

監督/脚本/撮影:河瀬直美/キャスト:中村優子、永澤俊矢、山口美也子/2000年 日本/2時間44分/配給:サンセントシネマワークス
東京テアトル3月24日よりテアトル新宿他にてロードショー

ストリッパーのあやこ(中村優子)は、拭い様のない過去に翻弄され、生きる意欲を失っていた。ある日家の外に出たところを吸い込まれるように車に衝突、その場に居合わせた大司(永澤俊矢)と出逢う。大司もまた、たった一人の家族である祖父を亡くし、天涯孤独になった自分の身の置き場をなくしていた。やがて2人は、互いに欠けているものを補うように強く惹かれあう。自分を取り戻すため、10年ぶりに故郷・香川を訪れるあやこ。ところが、唯一の身内である祖母は一日前に他界していた。殻に閉じこもるあやこの「孤独」は自分の「孤独」でもあると理解した大司は、なにがあっても側にいようと決意する。そんなある日、お互いに実の姉以上に慕っていた恭子が突然倒れたのだ…。

全体的に清らかさを感じさせる作品である。監督は、'97年第50回カンヌ国際映画祭にてカメラ・ドール(新人監督賞)を当時、史上最年少で受賞した河瀬直美。本作では、監督・脚本の他、自らキャメラも手にした。主演のストリッパー「あやこ」には本作が映画初主演となる新人・中村優子を、彼女との激しい愛に翻弄される陶芸家「大司」に『梟の城』の永澤俊矢、主人公二人にとってかけがえのない存在となるストリッパー「恭子」にブルーリボン賞受賞のベテラン・山口美也子を配している。プロデューサーは、『五条霊戦記//GOJOE』などの作品によって、その手腕がますます世界で高い評価を受けている仙頭武則。さらに劇中で重要な役割を担う独創的な「窯」は、現在の陶芸界で最も注目を集める加藤委渾身の作と、話題も豊富。この作品は、2000年第53回ロカルノ映画祭コンペティション部門に正式に招待され「国際批評家連盟賞」と「ヨーロッパ国際芸術映画連盟賞」の2冠に輝いた。映画の舞台である奈良は、河瀬直美監督の郷里であり、主人公あやこの郷里として出てくる香川県坂出市は、監督の父の出生地で、物語はそんな雄大な自然と歴史情緒あふれる風物を背景に描かれている。音がとても大切に扱われていて、不用意な音楽は一切使われていない。虫の鳴き声や火のはぜる音、そして「静寂の音」が、それがゆえにみずみずしい。劇中であやこによって歌われる「みかんの花咲く丘」も、その時々によって違う意味を持ちながら切なく響く。

Text : Yoshi Mizu

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