[彼女を見ればわかること] Things You Can Tell Just by Looking at Her
2001年5月19日よりBunkamuraル・シネマにて公開

監督・脚本:ロドリゴ・ガルシア/出演:グレン・クローズ、キャリスタ・フロックハート、ホリー・ハンター、キャメロン・ディアス、キャシー・ベイカーほか/(2000年/アメリカ/1時間50分/配給:ギャガコミュニケーションズ)
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まず女が死ぬ。刑事であるキャシー・フェイバー(エイミー・ブレナマン)は、真っ赤な服の自殺死体が、高校の同級生だったカルメン・アルバ(エルピディア・カリージョ)だと気づく。2週間前に帰郷したばかりらしい……その2週間の出来事が、数人の女性達の物語として語られる。ただカルメンの死の動機は……。

[1] 医師のエレイン(グレン・クローズ)は、老いて惚けてしまった母親の介護をしながら、恋する同僚の医師からの電話を待ち続ける。そこへやってきた占い師のクリスティーン(キャリスタ・フロックハート)は、彼女の心の空白をずばりと言い当て、近い将来の異性との出会いをタロットで占う……。

[2] 銀行の支店長であるレベッカ(ホリー・ハンター)は、ロバートというビジネスマン(グレゴリー・ハインズ)と3年も不倫の関係にあった。ある日、妊娠に気づくが、ロバ一トからは優しい言葉のひとつもない。主治医のデビー(ロマ・マフィア)は年齢的に最後のチャンスかもと助言するが、中絶を決意する。彼女に付きまとうホームレスの老女ナンシーは狂っているようだが、時折予言めいた言葉で彼女の心を掴む。手術前夜、部下の副支店長ウォルター(マット・レイヴン)と思いがけずベッドを共にするレベッカだったが……。

[3] 教師をしながら童話を書いて暮らすローズ(キャシー・ベイカー)は15歳の息子ジェイ(ノアー・フレイス)という母子家庭だ。向いの家に越してきた小人症の男性アルバート(ダニ一・ウッドバーン)と知り合って興味と好意を抱く彼女だが、突然ガールフレンドとセックスした話を明かしたりするジェイに途惑う……。

[4] 占い師クリスティーンの恋人リリー(ヴァレリア・コリノ)は不治の病に侵され、死が迫っている。リリーは触れ合いを求め、ベッドで話をねだる。クリスティーンはそれに応えようとするが、うまく心を開くことができないでいる。彼女は、恋人の死に向き合うことを、とても怖れているのだ。

[5] そして刑事のキャシーは、盲目の妹キャロル(キャメロン・ディアス)の世話をしながら暮らす。キャシーには恋人はいない。キャロルは積極的で、今は銀行の副支店長ウォルターと交際を始めたところだ。そんな妹が時に羨ましい。しかしキャロルの恋が本当に上手くいっているとは限らないのだ。ある夜、キャロルはカルメンの自殺の原因を推理してキャシーに聞かせる。愛のない人生に絶望したのだろうと語りながら、涙を流す妹。キャシーは、彼女もまた自分と同じなのだと知る。そしてカルメンも……。

ロサンゼルス郊外に暮らす女性達の、それぞれの「ささやかな/重大な転機」を描くオムニバスな物語。「女の人生を推測するなんて愚かな行為だわ。彼女の心は誰とも分かち合えない」と劇中でキャメロン・ディアスが言うように、ドラマチックな真相が暴かれるってな話ではなく、誰もが本当にはわかりあえない、あるいは片岡義男の本のタイトルのように『誰もがいま淋しい』って気分をこそテーマにして描いた群像劇なのだ。それぞれのエピソードの中で、赤い服のカルメンが通行人としてチラッと横切り、また各エピソードで脇に回る人物も、別のエピソードで「愛が欲しい」と訴えていたりするのだが、全てが別々の人生であり、抱えられた内面は察してもらえず、観客だけが垣間見ることになる……。一応、新たな男と出会う、愛人と手を切る、相愛になる、カナリアを飼う、冒頭の解剖医とデートする……ってな転機が、それぞれに与えられるのだが、それもまた長い人生の中のささやかなエピソードなのだろう。男性観客としては「女達の愚かさ」のパターンを描いてるようにも思えて、「この監督は女嫌いかも?」と邪推しそうになったけど、この低予算のインディペンデント作品に大物女優達がこぞって出演を熱望したというから、底が浅く見えても実は女性にとっては深い含蓄があるのかも。

その女優陣が凄い。『101』『102』『クッキー・フォーチュン』のグレン・クローズ、TVドラマ『アリーmyラブ』のキャリスタ・フロックハート、『クラッシュ』『普通じゃない』『オー・ブラザー!』のホリー・ハンター、『恋に落ちたら…』『サイダーハウス・ルール』のキャシー・ベイカー、TV版『NYPDブルー』のエイミー・ブレナマン、そしてご存じキャメロン・ディアス(『普通じゃない』『マルコヴィッチの穴』『エニイ・ギブン・サンデー』『チャーリーズ・エンジェル』『姉のいた夏、いない夏』『バニラ・スカイ』)などなど。監督はあの『百年の孤独』のガルシア=マルケスの息子で、撮影監督として活動してきたロドリコ・ガルシア------ってのも「売り」か。処女脚本にして監督デビュー作である本作で、2000年カンヌ映画祭<ある視点>部門に出品、みごとグランプリを獲得している。

Text:梶浦秀麿

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