[すべての美しい馬] All The Pretty Horses
監督：ビリー・ボブ・ソーントン／原作：コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』(ハヤカワepi文庫)／出演：マット・デイモン、ペネロペ・クルス、ヘンリー・トーマス、ルーカス・ブラック、ルーベン・ブラデス、ロバート・パトリック、サム・シェパード、ブルース・ダーン、ミリアム・コロン、フリオ・オスカー・メチョソほか(2000年／アメリカ／１時間56分／配給：ソニー・ピクチャーズエンタテインメント／宣伝：メディアボックス)
2001年6月30日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開
：『すべての美しい馬』オフィシャルサイト
夜の闇の中を地響きを立てて、美しい馬たちが駆け抜けていく……。1949年、テキサス州サンアンジェロ。「死について考えるか？」------カウボーイのジョン・ブレイディ・コール(Ｍ・デイモン)は、親友レイシー・ロリンズ(Ｈ・トーマス)と草原に寝そべり星空を見上げながら、死や、天国と地獄について語り合う。ジョンは代々続く牧場を石油会社に売り払おうとする母に反対し、牧場の存続を弁護士(Ｓ・シェパード)に訴えるが、埒があかない。そこでレイシーを誘って国境の南、メキシコを目指す。まだ広大な牧場が残る新天地へ……。
国境のリオ・グランデを越え、途中で出会ったジミー・ブレヴィンズと名乗る生意気な少年(Ｌ・ブラック)と共に、旅は続く。どうやら親の虐待から逃げてきたらしいジミーは、不相応な馬と銃を持っていたが、突然の雷雨の中で、手放したそれらを盗まれてしまう。彼の銃と馬を盗んだらしい村で、３人は派手な立ち回りをするハメになる。ジミーと別れた二人は、やがて河畔で牛を追うカウボーイたちに出会い、エクトル・ロチャ(Ｒ・ブラデス)の大牧場で雇ってもらうことになる。獰猛な野生馬の調教をこなしてロチャに認められ、それぞれの居場所を得る２人。ジョンは、ロチャの娘アレハンドラ(Ｐ・クルス)に惹かれ、愛し合うようになる。天国にいるような幸せな日々は、だが長くは続かなかった。アレハンドラの大おばアルフォンサ(Ｍ・コロン)は、「アレハンドラの名誉のため」と交際を禁じる。その命に逆らって愛を深める二人だったが、ついにロチャはアレハンドラを遠い都会へと連れ去り、翌日ジョンとレイシーは警察官に逮捕されてしまう。銃を取り戻すために人を殺したらしいジミーの、共犯とされたのだ。これまではロチャが庇ってくれていたらしい。
留置所で不当な尋問に堪える３人は、やがてトラックでだだっ広い荒れ地へと連れ出される。そこで１人、引きずり出された無実のはずの少年、そして荒野に轟く銃声……。残る２人は劣悪な環境の刑務所に収監され、囚人同士で殺し合うという地獄の日々が過ぎてゆく。ある日突然、彼らは釈放されることになる。大おばが金を積んでくれたらしいのだ。テキサス行きのバスに乗るレイシーを見送ったジョンは、牧場へと向かう。「ジョンとは二度と会わないというアレハンドラの誓いと引き換えに、二人を出獄させた」と大おばから聞かされた彼は、なんとかして愛する彼女を連れ出そうとするのだが、「誇りに代えた約束は破れない」というアレハンドラ。メキシコではアメリカとは違う別の倫理があり、彼女はそれを無くすと彼女ではなくなるのだ。辛い別れの後、ジョンは彼なりの倫理を貫くため、自らの誇りを賭けて、果敢な行動に出るのだった……。
第二次大戦後４年、油田発掘の夢に湧くテキサスでは、カウボーイはすでに時代遅れになりつつあった。近代化の波に背を向けて、メキシコへ向かう主人公は、ロマンスと苦難とを経て、ある成長を遂げる……。同じ時代の“滅びつつある古き良きカウボーイ”を描いた『ハイロー・カントリー』(98)はちょっと『カインとアベル』神話(というか『エデンの東』)風だったけど、この『すべての美しい馬』は言うなれば『オデュッセイア』のユリシーズばりの壮大な英雄流浪譚だ。淡々とクールに撮られているが内容は盛りだくさん。女優になるとか言ってるバカ母を捨てて親友と出奔し、西部劇めいたユニークな道連れとのエピソードがあり、夢の大牧場の牧童になるための試練とその克服があり、禁じられた身分違い(文化違い)の恋があり、罰としての刑務所での壮絶な闘いがあり、悲恋の結末があり、もうお腹いっぱいなトコへ来て、ノワール・アクション風味の「自分なりのカタのつけ方」ってな任侠めいた痛快活劇があり、さらにそれら神話めいた旅の物語を裁判で語って身の証を立てて、静かな帰還の余韻まである……。贅沢な題材を品格を持って映画化した渋い映画なのだ。
原作はコーマック・マッカーシーの1992年度全米図書賞および全米書評家協会賞を受賞したベストセラー小説で、『越境』『平原の町』(早川書房)と続く「国境三部作」の第一作。監督は『シンプル・プラン』『狂っちゃいないぜ！』などの個性派俳優にして、『ギフト』の脚本家、『ゴーストワールド』のプロデューサーでもあり、アカデミー賞脚色賞の『スリング・ブレイド』の脚本家・監督でもある才人、ビリー・ボブ・ソーントン。今回は本人の出演はなく、監督に専念する。主人公ジョン役は『グッド・ウィル・ハンティング／旅立ち』『ラウンダーズ』『ドグマ』『リプリー』のマット・デイモン。アレハンドラ役は『オープン・ユア・アイズ』『ハイロー・カントリー』『オール・アバウト・マイ・マザー』『ウーマン・オン・トップ』のペネロペ・クルス。主人公の相棒レイシー役は『Ｅ.Ｔ.』でエリオット少年を演じていたヘンリー・トーマスだとか。少年ジミー役は『スリング・ブレイド』のルーカス・ブラック。他にもサム・シェパードやブルース・ダーン、ロバート・パトリックなどのベテランが脇を固めている。
Text : 梶浦秀麿
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