[ゴーストワールド] GHOST WORLD

7月28日より恵比寿ガーデンシネマにて公開

監督:テリー・ツワイゴフ/脚色:ダニエル・クロウズ、テリー・ツワイゴフ/原作コミック:ダニエル・クロウズ(presspop gallery刊)/製作:ジョン・マルコヴィッチ、ラッセル・スミス、リアン・ハルフォン/出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンスン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ、イリーナ・ダグラス他(2001年/アメリカ/1時間51分/配給:アスミック・エース)
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モンドなダンス・ミュージックをバックに、郊外に住む典型的な中流階級の夜の暮らしぶりをいくつか、窓から覗くようにカメラが移動してゆく------その音源である古いミュージック・ビデオに合わせて、ひとり部屋で踊り狂う少女、イーニド(S・バーチ)をヒロインにして、物語は始まる。翌日は彼女の高校の卒業式。自動車事故で半身不随になったらしき女生徒が、何やら感動的な卒業生代表スピーチをしている。で、ショボいチアガールによる「もう勉強しなくていい!」ってな、ヒップホップを取り入れました風ダンスが続く……。「みんなバカじゃない。クスリやって事故って、突然立派な人だって!」と、イーニドは親友のレベッカ(S・ヨハンスン)に憤ってみせる。卒業パーティもダサダサだし。あーあ……この何ともアリガチな恥ずかしい世界、居心地の悪い現実ってば、サイテー。でも、この夏休みの間に進路を決めなきゃいけない------進学? フリーター? それともちゃんとした就職する? 女優の夢を追う馬鹿な同級生なんて見てると、ひどくウザい気分になるし、単位を取り逃した美術の補習では、自意識過剰な中年女性アーティストのロバータ先生(I・ダグラス)が、「父よ、鏡よ」と延々繰り返す自作自演の前衛ビデオ・アートを見せるし……トホホな感じ。とりあえず「レベッカと二人で部屋を借りて住もう」とは決めているものの、イマイチ先が見えないイーニドは、町で変なカップルを追跡したり、廃止になった路線のバス停にいつもいる老人に話しかけたり、笑えないコメディアンのビデオ鑑賞会をしてみたり、「50年代風」ダイナーを冷やかしたりと、ちょっと現実逃避気味。新聞の出会い系個人広告欄で「バスで見かけた運命の女性」を探す男を見つけ、その中年男シーモア(S・ブシェミ)に、いたずら電話をかけたりもする。呼び出されてミルクシェイクを飲みつつ待ち続けるシーモア。それを隠れて見て、大ウケしたイーニド達は、あげくに彼の家まで尾行しちゃう。このシーモアが、実は古いブルースのEP盤レコード・コレクターだと知って興味を持ったイーニドは、冷やかし半分で彼の「恋人」探しの手伝いを始めるのだが……。

堅実にウェイトレスをしているレベッカは、とにかくイーニドに仕事を見つけて欲しい。でもイーニドはやっと始めた映画館の売店のバイトも、シニカルさが災いして一日でクビになる。で、今度は膨大な服のコレクションを売っ払おうとガレージセールをするが、どれも思い出の品とかいってやたら高い値段をつけたりして全く売れずに終わる。二人でシェアする部屋探しにもノリの悪いイーニドに、レベッカもついにキレちゃうのだった……。シーモアのコレクションの中から古い黒人差別的な看板絵を見つけたイーニドは、「マルセル・デュシャンの便器」よろしく、それをロバータの補習授業に提出。これが思わぬ絶賛を受けて、卒業制作展に首席扱いで展示されることになる。美術学校への推薦状までもらうのだが、どうしてもイマイチその気になれない。そんな時、シーモアの広告を読んだ本物の「運命の女性」が彼に電話してきた。それがいい感じにまとまりそうな気配なのも気に入らない。おまけに父は大嫌いな女(離婚した母らしい)と再婚して一緒に住むとか言い出して……。さて、徐々に八方塞がりに追い込まれてゆく彼女は、どうすればいいのか? いや、彼女は本当は一体「どうしたい」のか……?


まずは予備知識。アメリカでカルト人気を誇るダニエル・クロウズのアメリカン・コミックを元に、原作者本人が脚色。ドキュメンタリー映画『クラム』でサンダンス映画祭審査員グランプリ、ニューヨーク映画批評家協会最優秀ノンフィクション映画賞などを受賞したテリー・ツワイゴフが映画化したもの。主演は『アメリカン・ビューティー』『ダンジョン&ドラゴン』のソーラ・バーチ。その親友を『のら猫の日記』『モンタナの風に吹かれて』のスカーレット・ヨハンスンが演じ、さらに僕の超好きなクセモノ俳優スティーヴ・ブシェミ(『ミステリー・トレイン』『ニューヨーク・ストーリー』『ミラーズ・クロッシング』『ビリー・バスゲイト』『イン・ザ・スープ』『レザボア・ドッグス』『ライジング・サン』『ハードロック・ハイジャック』『デンバーに死す時』『バートン・フィンク』『未来は今』『パルプ・フィクション』『リビング・イン・オブリビオン』『サムバディ・トゥ・ラブ』『デスペラード』『ファーゴ』『エスケープ・フロム・LA』『カンザス・シティ』『トゥリ−ズ・ラウンジ』『コン・エアー』『ウェディング・シンガー』『アルマゲドン』『ビッグ・リボウスキ』他)が、原作にはない重要な役で登場! 観方によっては彼が主役とも言える。あと『ゴールデン・ボーイ』のブラッド・レンフロがヒロイン達のオチョクラレ役、『グレイス・オブ・マイ・ハート』『メッセージ・イン・ア・ボトル』のイリーナ・ダグラスが美術教師役で出演。製作をご存じジョン・マルコヴィッチが担当してるのも「売り」だ。

オイラにゃ心が「イタい」映画だった。とにかく「90-00年代青春映画の傑作」なのは間違いなく、興奮して友人にあらすじをラストシーンまで一気に話してしまったりした(←ヤなヤツ)。いや、この映画は巧みで豊富なディテール描写をこそ愉しむ作品なので、ストーリーはどうでもいいのだ(←オイオイ)。劇中50種以上登場するらしいソーラ・バーチらの奇抜なファッション・ショーやら(Mテレパル9月号宮村浩気のコラムではスカーレット・ヨハンスンの3種のヘア・スタイルに注目してた)、やたら細かくリアルな「ダサい日常ネタ」の満載ぶり、そのエピソードの圧倒的な現代感覚こそが魅力なのである。僕が特に気になったのは、クーンズ・チキン(現クックズ・チキン)というケンタみたいなフライドチキン屋さんの商標ネタ。日本漫画での戯画的表現に準じるような可愛い黒人の絵(肌が黒くて唇が分厚くてニコニコしてる)なんだけど、これを見た生徒やギャラリーの客が口々に「不快だ」「イヤな感じ」なんてネガティヴな反応をするのだ。黒人差別だってことなんだろうけど、劇中ではもっと生理的な嫌悪感みたいに表現してあって、ひどく不思議な気がした。かつて『ちびくろサンボ』や手塚治虫や鳥山明や藤原カムイの黒人描写が問題になったけど、アメリカではここまでヒステリックな反応があるのか……と、ヘンな感心をしてしまったのだ。いや実は未だ快不快の曖昧なPC的領域だからこそ、主人公イーニドの、素朴で原初的な疑惑の象徴として登場するんだけどね。つまり、彼女は世の中の欺瞞やいい加減さに敏感な、ある意味で賢く繊細なトンガリっ娘なのである。故に疎外感や孤立感を感じつつ、自らの感性でモノを考えようとして、ドツボにハマってしまうのだ。その姿に共感・反感相半ばしてしまうのは、その青春時代描写が実にリアルだからなんだけど……。で、僕はあらすじを語った友人に「ラストが安易な現実逃避にも見えるトコだけが惜しい」って話したら「いや、今聞いたあらすじだけからの推測だけど、それは自殺の隠喩じゃないか?」と言われて虚をつかれてしまった。ゴーストとして現世を彷徨うことからの、自らの意志で死ぬことによる解放=亡霊として現世にしがみつかずに成仏すること------なのか? うーむ……。今年年頭に、新世紀日本映画『EUREKA』を絶賛する浅田彰が「このバスに乗り遅れるな!」と戦前みたいにアジってて笑えたんだけど、この映画『ゴーストワールド』のバスに乗るしか、トンガリ系の若い子達には道はないのだろうか?------なんて考えてしまう、実にイタい傑作なのであった。とにかく必見。

Text : 梶浦秀麿



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