[眺めのいい部屋] A Room with a View
ニュープリント/ノーカット版

原作:E.M.フォースター/監督:ジェイムズ・アイヴォリー/製作:イスマイル・マーチャント/脚色:ルース・プラーヴァー・ジャブヴァーラ/撮影:トニー・ピアース=ロバーツ/音楽:リチャード・ロビンズ/編集:バンフリー・ディクソン/美術:ジャンニ・クアランタ、ブライアン・アックランド=スノウ/衣装:ジェニー・ベヴァン、ジョン・ブライト
:『眺めのいい部屋』オフィシャルサイト


CAST:
●マギー・スミス(シャーロット)
主な作品:天使にラブソングを/秘密の花園等
●ヘレナ・ボナム=カーター(ルーシー)
主な作品:ファイトクラブ/Planet of the Apes 猿の惑星等
●ダニエル・デイ=ルイス(セシル)
主な作品:恋に落ちたシェークスピア/ショコラ
●ジュリアン・サンズ(ジョージ)
主な作品:恋に落ちたシェークスピア/ショコラ等
●ルパート・グレイヴウ(フレディ)
主な作品:英国万歳/レジェンド・オブ・エジプト等
●デナム・エリオット(エマソン氏)
主な作品:レイダース失われたアーク/インディ・ジョーンズ最後の聖戦等
●サイモン・カロウ(ビーブ牧師)
主な作品:ジェファソン・イン・パリス/恋に落ちたシェークスピア等
●ジュディ・デンチ(ラビッシュ女史)
主な作品:恋に落ちたシェークスピア/ショコラ等

夏休み全日ロードショー
8月14日(火)〜9月2日(日)ル・テアトル銀座にて
レイトロードショー
9月3日(月)〜 銀座テアトルシネマ

●8/14初日の1回目、2回目の上映にて、イタリア年公開を記念して、各回先着10名様にアラミスの香水、フィレンツェのあるトスカーナから名前が由縁する『タスカニー』か、イタリア産『キトン』のいずれかをプレゼント!!(*どちらの香水かはお選び頂けません)


1907年。イギリスの良家の令嬢ルーシー・ハニーチャーチは、年上の従姉シャーロットに付き添われ、初めてイタリアのフィレンツェを訪れる。イギリス人客がよく利用するペンション”ベルリーニ”に着いた二人は、部屋の窓を開けてがっかりする。美しいアルノ川に面した部屋ではなかったからだ。夕食時、シャーロットが窓からの眺めが悪いことに腹を立てているのをのを聞いたエマソン父子が、自分達の”眺めのいい部屋”と交換しようと申し出る。一旦はその申し出を断るが、たまたま宿に居合わせたハニーチャーチ家の教区のとりなしで、エマソン親子の好意をうけることになるのだ。
翌日、フィレンツェの街に出たルーシーはシニョーリア広場で喧嘩で刺されたイタリア人青年の流血を目撃し、失神する。それを助けたのが、エマソンの息子のジョージだった。この事件を切っ掛けに二人は急激に接近するが、お目付役のシャーロットにキスをしている現場を目撃され大慌てでイタリアを引き上げる。 数カ月後、ルーシーはジョージのことを振り切るかのように、ジョージとは正反対のタイプのセシルと婚約をしてしまう。が、ハニーチャーチ家の近隣のヴィラの借り手にセシルがエマソン父子を紹介してしまう。 そして、再びルーシーとジョージは出会うことに・・・。

今回のリバイバル作は初回公開時にカットになっていた、ジョージ、フレディとビーブ牧師の水浴びシーンがノーカットで見ることができる。このシーンがいかに重要であるかは、本編の前半の舞台がイタリアのフィレンツェであるというところにある。フィレンツェといえばルネッサンス期に数々の名作品が生み出された土地でもあり、代表的人物としてはミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、ボッチチェリなどが挙げられるが、この時期に美術の特徴として、神話の神々は人間と同じ形をしており、感情が豊かで、一糸まとわぬ姿をしている作品が多く見受けられる。それまで、教会によって抑圧されていた人々が、ギリシャ時代のように自由な人間らしい姿を取り戻そうとする時代である。このような背景を考えると初回時に全裸のシーンがカットになったことはこの作品を汚していたことにならないだろうか。ちなみに「ルネッサンス=新生・再生」という意味があり、ルーシーの心の変化はまさにルネッサンス的なものであったような気がしましたね。

まめ知識 「エドワード朝」
ヴィクトリア女王の治世が終わり、エドワード7世が王位についた1901年から第一次世界大戦までのわずか10年ほどの短い時代が、エドワード朝。ヴィクトリア朝が大英帝国の栄華を誇ったものの、生真面目で抑圧が激しく「切り裂きジャック」など暗黒イメージも強いのにくらべ、エドワード朝は「古き佳き黄金時代」と人々に美しいイメージをあたえている。
本編の中では、古い時代の結婚観や人生観に縛られていたルーシーがほんとうの自分を解放するまでの変化に、時代の移り変わりをみることができる。また、社交界のしきたりや階級についての考え方、中・上流階級のカントリーハウスでの暮らしぶりなども細かな描写に豊かな手触りをもって描かれている。特に、エドワーディアンをもっとも魅力的に表しているのは、なんといってもファッションの優美さだ。繊細なレースをふんだんに使ったモスリンやクレープのドレス。ポンパドゥル風にまとめた髪。帽子についたリボンや花飾り。どれも女の子の胸をときめかせるファッションスタイルのひとつである。
衣装デザイナーのワダエミさんは初公開時のパンフレットに、ルーシーの襟元が顎までどどくかのようだったのが開衿になり、しだいに胸元を開けていくことが彼女の変化を現す。と指摘したとおり、それはキャラクターの見事な表現にもなっている。

Text : Fumiko Asada


1907年、イタリアのフィレンツェのペンション“ベルニーニ”にて、イギリスの令嬢ルーシー・ハニーチャーチとイギリス人客のエマソン父子が“眺めのいい部屋”で出会う。
奔放な恋愛感情に縁遠い階級である家柄や、年上の従姉シャーロットらの影響で自分に素直になれないルーシーと、階級にとらわれず自由奔放で情熱的なジョージ。この作品はそんなふたりのロマンスである。
“正しい相手にめぐり合えるのは幸運です。”とジョージがルーシーに言った台詞に私は大きくうなずいた。
階級に縛られ、常識の壁を撃ち破れずにいるルーシー。しかし縛っていたのは自分自身なのかもしれない。常識から外れることは勇気がいることだから…。しかし彼女は階級の差を超え苦悩の末に、愛する人ジョージを選ぶ。たとえどんなハードルがあろうと自分に素直に生きていこう。イギリスの閉塞的な空気から逃れて、開放的で燃えるようなイタリアの気質に触れ、その窓から見た眺めが彼女を変えたのかもしれない。全ての恋がこのような恋ではないが、恋のバイブルの1ページとしてぜひとも観て頂きたい。そして、フィレンツェの美しい町並みや、イギリスののどかな田園風景、衣裳、家具なども素晴らしく映像的にも充分に堪能できる作品である。

text:Buchiko


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