[恋は負けない] Loser

2001年10月6日シネマ・メディアージュ他全国順次ロードショー公開

監督・脚本:エイミー・ヘッカリング/製作:エイミー・ヘッカリング、トウィンク・キャプラン/出演:ジェイソン・ビッグス、ミーナ・スヴァーリ、グレッグ・キニア、ザック・オース、トム・サドキス、ジミ・シンプソン、ダン・エイクロイドほか(2000年/アメリカ/1時間35分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/配給協力:メディアボックス)

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雪深い田舎町。純朴な青年ポール(ジェイソン・ビッグス)の元にニューヨークの大学から合格通知が届く。しかも奨学生としてだ。大喜びの親族一同や近所の人達で家は大賑わい。祖父はこっそり小遣いを渡そうとするし、ちっちゃな妹もダンスを披露する。自信なさげなポールに「ジャクソン高校では人気者だったじゃないか」と父親(ダン・エイクロイド)は励まし、軍隊時代に覚えたという友達作りの秘訣を教える------「興味を持てば興味を持たれる。話したそうな相手を見つけて、聞き役になれ。相手の顔を見つめろ、いいな」と。良きアメリカの家族像がホノボノと描かれて、大都会NYへと送り出されるポ−ル。でもそこで浮かぶタイトルは「LOSER」=負け犬だ(うひゃあ)。

彼が地下鉄でお年寄りに席を譲ったら、若者がサッと割り込んで座ってしまう(ってNYってマジでそんな所なの?)。書店でも学食でも学生寮でも、みんな妙に視線を合わさない。リュックを引っかけまくるので迷惑がられ、話しかけても耳当て付きのお気に入りの帽子を「『ファーゴ』の小道具か?」とからかわれるばかり。ルームメイトの金持ちの息子三人組、アダム(ザック・オース)にクリス(トム・サドスキ)にノア(ジミ・シンプソン)は、女と酒とクスリが大好きで、ふざけてばかりの軽くてどーしょーもない連中。で、真面目なポールは目の敵にされる。目覚まし時計に悪戯され、講義に遅刻したポールは、階段教室の上からすっ転んで着席。カフカの「断食芸人」を講義中の文学部教授オルコット(グレッグ・キニア)に嫌味を言われる。「大丈夫?」と優しく声をかけてくれた秀才のドーラ(ミーナ・スヴァーリ)にちょっと惹かれるのだが、実は彼女はオルコット教授の秘密の恋人だったのだ。ポールのレポート評価はBマイナス。平均がBプラス以上じゃないと奨学金を打ち切られてしまうのだが、意地悪な教授は取り合ってもくれない。彼が勉強したくとも、皆は部屋でドンチャン騒ぎ。あげくに「服もダサいし、勉強ばかりしてるお前は嫌われ者だ」と面と向かってバカにされる。

その頃、ドーラはストリップ・バーでウェイトレスのバイト中。ブロンクスの実家から通う彼女は、学費を稼ぐためのバイトに明け暮れる苦学生だった。終電に乗り遅れて駅で野宿することもある。ポールの方も階段や廊下で勉強するハメに。ノアは二段ベッドの上で規則違反のウォーターベッドを破裂させて、ポールの寝床を水浸しにするし……。それでもなんとか耐えて、仲良くしようとするポールだったが、三人組は彼が邪魔で、教科書を全頁糊付けしたり服をムースだらけにしたりって悪戯三昧の挙げ句、寮長に酷い嘘の告発をして、ポールを追い出してしまう。引っ越し先は動物病院の地下の小部屋。入院ペット達と同居して、獣医の手伝いをしつつ大学に通うことになるポール。ドーラの方は、酔客を騙して金をくすねるようなマネができなくて、ついにバイトをクビになる。オルコット教授が一緒に暮らしてくれれば助かるのに、彼は学生との関係がバレるのを恐れて承知しない。そんな時、寮では中毒患者が出て酒と薬物の持ち込みが厳しくなり、三人組は途端にポールを利用しようと企む。彼の下宿先の動物病院で、動物愛護とかを名目にして慈善パーティーを開催するのだ。もちろんドラッグ・アルコールありの……。

バイト探しに学生食堂に現れたドーラと会ったポールは、彼女のお気に入りバンド、エヴァークリアのライブに誘うことに成功する。やっと互いに自己紹介もできて、ポールはいい気分だ。だが、バイト面接で軒並み断られまくったドーラは、アダムに慈善パーティーに誘われて、ライブまでの空き時間だけと考えつつ、盛況で混乱を極めるパーティー会場の動物病院へ。そこで怪しいクスリ入りのジュースを飲まされて前後不覚になってしまう。ライブに現れないドーラを待ち続け、とぼとぼと動物病院に戻ったポールは、宴の後の散らかしっぱなしの状態に、さらに打ちのめされる。と、トイレで気絶してるのは、ドーラ?? あわてて病院に担ぎ込んだポールは、オルコットが緊急連絡先になっていたことから二人の関係を知ってしまう。だが教授は知らない振りをしているらしく、ポールが引き取って動物病院に連れて帰る。ゴミを片づけてるとクリスが顔を出し、何があったか問いつめるポールに対して、ドーラを「イマドキの軽い女」と決めつけて退散してしまう。それでも献身的に看病し、オルコット教授の所に事情を伝えに行くポール。と、先に三人組が出てくる。ポールとの話でオルコットとドーラの関係を知ったクリスらは、それをネタに教授を強請って成績をAにしてもらったのだ。すれ違いで教室に入って、教授にドーラの様子を伝えたポールも、彼らの仲間だと思われてしまう。冷たい対応を怪訝に思いつつ、彼女を喜ばせようと花束を買い、それを教授のお見舞いだとドーラに渡すポール。回復したドーラは彼を連れて落とし物コーナーで帽子を選んであげたり、NYでタダで芝居を観たり食事を愉しむコツを伝授する。幸せな気分は、だが長くは続かなかった。オルコット教授が(これ以上強請られるのを避けるために)ドーラと同居すると宣言したのだ。実際は彼女を家政婦扱いし、他の女学生にも手を出しているイヤなヤツだけど、「それでも彼女が幸せなら」と影から見守るポ−ル。強請の一味だとドーラに誤解されつつ、ポールは正すべきことは正す決心をして、教授や三人組を相手に誠実に、時には機転を使って立ち向かうことになる……。

なんとも初々しくもホノボノした、正統派の青春ラブ・コメディだ。主人公がこんなに真面目な青年ってのは珍しいかも。地方から都会の大学に進学し、遊び呆ける周囲を尻目に勉学に励み、女の子にも誠実に親切に接していたら、とっても素敵な彼女ができる……という清く正しい展開のお話で、「チャラいのや不良やらボンボンがモテる世の中は間違ってる!」と内心でお怒りの“普通のいい子”達のために作られたような映画なんだな、コレが。もちろん主人公はただ真面目な「いい人」ってだけじゃなくって、適度にユーモアのセンスがあって、気が効いて、忍耐力もあるけどやる時はやるってな果断さも必要なんだけどね。

とにかく敵役である都会の金持ちのボンボン達の描写が凶悪だ。度の過ぎた悪戯の数々はみな酷く陰湿なのに、本人達はシレッとしてる感じが、何だか今風のイジメを反映してるようで凄くリアルな悪寒がした。カット屋(美容院)やヒサロ(日焼けサロン)に通い、新語を使いまくり(6缶パックのビールは「シクサー」、楽な講義は「ミッキ−マウス」、じゃあな!は「ダスト(ゴミ)!」などなど意味不明なのよ)、女をコマす(今風だと「ウッちゃう」?)ことしか考えてなくて、しかも浅知恵だけは非常に高度ってな堂々たる悪役ぶり。ヒロインとつき合ってる教授もひどくサバけたヤな奴で、自分に夢中な彼女をセックスと家事労働に利用するだけで、保身に走ったり、より若い娘に手を出したりとこれも典型的な悪役描写。でも異例の出世をするほど優秀だったり(狡知に長けてる?)、採点は厳しかったり(学問的には公正なのか?)、高級ブランド趣味も堂に入ってたり(ついでに売り子のイタリア娘を流暢なイタリア語で誘惑したりする)と、細かいトコで変にリアルだったりするのがミソだ。前半ずーっとガマンしてる主人公は、ついに最小限度の良識ある反撃だけして、サラッとしたハッピーエンドを迎える。悪役達のその後を、因果応報の後日譚(神様はちゃんと見てるのだ、みたいな)としてあっさり流すのは、主役の「いい人」ぶりを爽やかなまま維持するための作劇法なんだろうなぁ。実際、現実には劇中の悪役サイドみたいなのが勝ち組になっちゃいがちだから、これもある種のオタク(nerdじゃなくてgeekガリ勉クンの方)の現実逃避ファンタジーなのかもね。ま、ちゃんと適度にすっきりできる勧善懲悪な話だから、よしとすべきだろう。

さて、キャスト&スタッフも紹介しておこう。『アメリカン・ビューティー』でケヴィン・スペイシーを誘惑した挙げ句、クライマックスで別の感動を与えてもあげる金髪チアガール役を好演したミーナ・スヴァーリ(他に『ノーウェア』『コレクター』『キャリー2』など)がヒロインだ。こうしてみるとロリ顔だよなぁ、やっぱし。「彼に子供扱いされるのがイヤ」とブータレたりしつつファッションのこだわりがガキっぽかったり(でも奇抜でオシャレ!)、ストリップ・バーで働いたり駅で野宿したり、やっと決まった「卵を売るバイト」ってのを無邪気に喜んだりと、変に常識ハズレなところもある可愛い苦学生を、実にキュートに演じている。彼女と『アメリカン・パイ』で共演(実は同じシーンには登場しない)したジェイソン・ビッグスが「いい人」ポール役を、これもちょっと頼りなげだが実に爽やかに演じているのもいい感じだ。本国では再び共演した『アメリカン・パイ2』も大人気みたいなので、ティ−ン映画御用達時代の今から注目しておいて間違いないお二人さんなのだ。対するライバル教授役を憎々しく演じているのは、10/13公開の『恋する遺伝子』でもヒロインを奪い合う役どころのグレッグ・キニア(他に『恋愛小説家』『ユー・ガット・メール』『ギフト』『ベティ・サイズモア』など)。ちょっとだけ出てるダン・エイクロイドも「いいお父さん」ぶりが素敵だ。監督は『初体験/リッジモント・ハイ』『クルーレス』のエイミー・ヘッカリング。ヘラヘラの高校生ものを十八番とする彼女が、大学生もの、しかもアンチ『クルーレス』な地味系の純愛サクセス話を描いてるってのも面白い。グランジ系バンドのエヴァークリア、ブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』、それぞれ本物がちょろっと出たりするってのも見どころのひとつ。あ、そういや主人公の失意のシーンで、サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」が流れた時は、ついクスクス笑っちゃいました。秋のワシントン・スクエア・パークやセントラル・パークといったNY名所(嗚呼、WTC……)も、美麗なロケ撮影で堪能できるゾ。

ちなみに。劇中で出てくる「ブロードウェイ演劇をタダ見する秘策」ってのは、ダニエル・キイスが自伝『アルジャーノン、チャーリィ、そして私』(早川書房)で書いてた「二幕目演技」ってヤツだ。あれは1942年頃の話だったけど、半世紀以上たった今でもできるのかと驚いてしまった。エイミー・ヘッカリング監督の自伝的部分もあるってことだから、もしかして通用したのは70年代くらいまでのことかもしれない。本作では二幕目なのに『キャバレー』一幕目のオープニング・ナンバーが観られたり、妙にいいテーブル席だったりするのは御愛嬌。けど、本当に今でもできるのか、誰か実践した人の報告を聞いてみたいのだった。あと「彼女をその気にさせるビデオは『恋人たちの予感』でも『ピアノ・レッスン』でもなくって『サイモン・バーチ』だ」ってレンタル・ビデオ屋の店員に「オイオイ!」と突っ込めるよう各々予習しておくとか、それなら人気TVドラマ『フレンズ』もね、とかNYの美術館で愉しめる世界の名画チェックもしておくと、映画がより楽しめるかも。

Text : 梶浦秀麿


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