[エボリューション] EVOLUTION

2001年11月3日より日本劇場ほか全国東宝洋画系公開

監督:アイバン・ライトマン/視覚効果スーパーバイザー:フィル・ティペット/出演:デビッド・ドゥカブニー、ジュリアン・ムーア、オルランド・ジョーンズ、ショ−ン・ウィリアム・スコット、ダン・エイクロイドほか(2001年/アメリカ/1時間43分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/宣伝:トライアル)

∵公式サイト


隕石がアメリカのアリゾナ砂漠に落下する。ちょうど消防士志願の若者ウェイン・グリーン(ショ−ン・ウィリアム・スコット)が砂漠の廃屋にボロ車で出かけて、死体遺棄するところ……じゃなくて、人形を要救助者に見立てて廃屋に火をつけて飛び込むなんていう「ひとり訓練ゴッコ」の最中の出来事だった。見事にピンポイントで墜ちてきた隕石に車をおシャカにされて唖然……ってなとこから物語は始まる。グレン・キャニオン大学の生物学講師、アイラ・ケイン(デビッド・ドゥカブニー)は生徒には甘いタイプで、レポートの採点はほとんどAだ。ただし「セル(独房)はサイテー」なんて親戚の談話を書いてきたデブ兄弟にはさすがにCマイナスの評価。ムキ卵にサラサラヘヤーをつけたみたいな丸っこい双子みたいな兄弟は納得いかない感じ。そこへ隕石落下のニュースが飛び込んできた。同僚の地質学講師ハリー・ブロック(オルランド・ジョーンズ)を誘おうとすると、ナディーンって色っぽい女生徒と追試の打ち合わせ中。慌てる彼と一緒に現場に向かってみれば、ウェインが事情聴取で引き留められてて「消防士テストに遅刻するぅ!」と嘆いている。ネットで勝手に「国家地質調査部」に登録しておいたので、悠々と隕石の突っ込んだ洞窟に調査に入った二人。「ゆうべ落下したばかりなのにもう何かが成長している」と、岩を削って液体サンプルをガメて帰る。アイラが顕微鏡で観測すると、なんと10塩基対もある。地球生物のDNAには4塩基対しかないのに……。見ている間に増殖してプレパラートを割るサンプル。これは地球外の未知の単細胞生物だ。急いでハリーを呼びにいく。戻ってみると多細胞生物になってる。凄いスピードで進化しているのだ。

学生達を連れて再び落下地点へ向かうアイラ。地下洞窟の地表スレスレにガスが発生している。と、ナディーンの足に何かが……そのヘンな虫は持ち上げるとあっけなく死ぬ。硫化硫黄を呼吸しているらしく、地球の大気には順応していないようだ。しかし凄い進化のスピードだ。カフェでハリーと議論する。「たった2日で20億年分だぞ」とか言ってる。「性(セックス)は?」「ノーセックス(無性生殖)だ。時間がないからな」ってのを小耳に挟んだナディーンが「お気の毒!」とか呟く。一方、消防士試験に間に合ったものの、ドジって不合格になったウェインは、ゴルフクラブのプール係のバイト中、水質管理室から奇妙な虫が大量発生しているのを発見する。みんな死んでいるようだ。ところがその浄化水漕の塩素タンクの中では、不気味な魚が活き活きと泳いでいた……。翌日、隕石穴に向かったアイラとハリーは、軍が乗り出していることに気がつく。検問を抜けたアイラは、いきなり将校に「お前のおかげで……」とか怒鳴りつけられるのだった。「何があった?」「さあな」どうやら国防省に縁があったらしい。指揮をとるウッドマン将軍に「君らに手に負えるものではない」と追い返されるが、そこにいたCDCのドジ女、アリソン・リード博士(ジュリアン・ムーア)よりはマシだと思ったり。彼女、やたらとコケては、昼間からガーター付きストッキングのおみ足を拝ませてくれる。とにかく第一発見者の正当な権利を主張するのだが、裁判ではアイラの意外な過去が暴かれて敗訴、しかも研究室のサンプルやデータまで奪われてしまう。

怒ったアイラはハリーと共に、深夜、厳重に封鎖された落下現場に侵入するも、アクシデントで病院に。ハリーを緊急手術するハメになる。その頃、ゴルフ場ではウェインをこき使うヤな客が、また進化したらしい異星生物の餌食になっていた。翌日、その死骸を発見したウェインは、アイラの研究室にそれをこっそり持ち込んだ。軍の封鎖は失敗しているのだ。「対処できるわ」と言い張るアリソンに「うぬぼれだ」とアイン。さあ自分達だけでファミレスで(笑)作戦会議だ。と、隣にアインの元彼女が警官の彼氏といて、ややこしいことになる。そこにホームパーティでキモ可愛いパグみたいな異星生物が出現した件で通報が入る。警官を追って現場に直行するアイン達は、裏手の崖で大量の巨大な翼竜の死骸を発見。「モナビの落下地点、カイバブ台地、パウエル湖……みんな繋がってる!」地下を縦横に伸びた洞窟から、進化し続ける異星生物が繁殖しているのだ。まだ酸素に順応していない……と、瀕死の翼竜が吐き出した袋から「順応したらしい」翼竜が! 飛び去ったソレを追って、ショッピング・モールに向かうアイラ、ハリー、ウェイン。万引き中の女の子をひっかけてモール中を飛び回るヤツをなんとか撃退した。ゴースト・バスターズならぬエイリアン・バスターズの誕生だ。

この異星の超進化生物は、3日でこの地域全体、1週間でアリゾナ州、2ヶ月で全米に繁殖することが軍のシミュレーションで判明し、中心地では青い類人猿まで登場した! 戒厳令が発令され街はパニックに。軍隊が出動し、住民は避難を開始する。でも大学生はお祭り騒ぎ。「グッバイ・アリゾナ」とか「処女じゃ死ねない」ってなプラカードを振り回したり踊り狂ったりと「えじゃないか」状態だ。アイラ側に寝返ったアリソンは、サンプルを持って彼らの所へ。増殖を防ぐ手だてを考えてたら、うっかりサンプルに落としたマッチでムチャクチャ急激に増殖した。火気が餌になるようだ。アリソンが叫ぶ、「軍はナパームで焼き払う計画よ!」----ヤバイ。もはや人類は軍や州知事(ダン・エイクロイド)の愚行によって滅びるしかないのか? 彼らエイリアン・バスターズに秘策が?


「くだらねー!」ってバカ笑いさせる痛快SFアクション・コメディ大作だ。なんともバカバカしい、しかし反骨精神に満ちた懐かしき『アニマル・ハウス』魂が炸裂する、負け組のためのアメリカン・ドリーム映画!って感じ。エラそーなヤツラ(軍人、州知事、警官、金持ちなど)は頼りになんない。最後にはバカが勝つのだって内容なのだ。言ってみれば『ゴーストバスターズ』のSF版なんだけど、『MIB』とか『ギャラクシー・クエスト』の楽しさに、ちょっと偏差値低い連中によるラフな反体制テイストを加味したノリがアイバン・ライトマン監督らしくていい。

そう、本作の監督は、ジョン・ランディス監督『アニマル・ハウス』(78)で製作を担当し、監督作『ゴーストバスターズ』(84)で大ヒットを飛ばしたアイバン(アイヴァンとも)・ライトマン(他の監督作に『ミートボール』『パラダイス・アーミー』『夜霧のマンハッタン』『ツインズ』『ゴーストバスターズ2』『キンダガートン・コップ』『デーヴ』『ジュニア』『ファーザーズ・デイ』)だ。コメディには定評があるが、このやりようによってはシリアスなパニックSFないしホラーSF(シャーレから急激に増殖するエイリアンって『遊星からの物体X』へのオマージュみたいだし)にもなりそうなネタを、ちょっと荒っぽいSFコメディ大作に仕上げてしまった。キャストもさりげに凄い。主役は『Xファイル』のモルダー役で知られるデビッド・ドゥカブニー、お相手となるのが『ハンニバル』のジュリアン・ムーアだ。コミカルなイメージがない二人のコミカルな演技に、なんともヘンな気分になれる。ムーア演じるアリソンの普段着が「周期表プリントTシャツ」ってのも可笑しい(しかもちゃんと伏線として効いてる!)。また『リプレイスメント』のオルランド・ジョーンズとドゥカブニーの掛け合いも何だかこそばゆい。例えば「ニセ士官は5年の罪だ」というドゥカブニー演じるアイラにジョーンズ演じるハリーは「白人はな。俺は死刑だ」とか「いつも映画では黒人が先に死ぬ役だ」とか時代錯誤な黒人差別自虐ギャグをカマしまくるのには、笑っていいのか悪いのかって感じ。「服の中に虫が! ああっお尻に!」ってベタなギャグ・シーンも考えてみればエラく年季の入った笑いなんだよなぁ。あ、24歳の新人ショ−ン・ウィリアム・スコットの、人のいいゴブリン顔もいい。彼が消防士志望ってのがクライマックスで活きてくるのだ。名優ダン・エイクロイドもカメオ的に出演している。あとデブ兄弟の活躍やお色気女学生など、ボンクラな大学生達の描写がサイコーだ。アチコチにお下品でお下劣な調子のギャグがあるのは、お上品な映画そのものへの反骨スピリットなのだろうけど、これも何か懐かしいテイストだ。古いっていやその通りなんだけど。

みどころはやはり多種多様なエイリアンだろう。とにかく独自に進化していく生態系描写が妙な面白さを持っている。グロテスクな中にも可愛さのある、でもやっぱり凶暴ってヤツが幾つかいるのを始め、『ジュラシック・パークIII』で活躍し損ねたかのような翼竜が大暴れするのも格好いいし、ハルキゲニアもどきとかピラニアもどきとか、進化の実験場めいたヴァラエティが楽しめる。これはフィル・ティペット率いるティペット・スタジオの功績だ。『スター・ウォーズ』や『ロボコップ』、『スターシップ・トゥルーパーズ』や同時期公開の『キャッツ&ドッグス』などなど、ティペット製のクリーチャーやCGのファンは必見といえる。

あ、ネタバレだけど「ケイン熱:97年5月、14万人の兵士が衰弱性の胃痙攣、下痢、記憶障害など数十の症状に見舞われた。陸軍疫病管理局に94〜97年の間在籍したアイラ・ケイン博士による“炭疸菌”病の予防接種ワクチンの副作用が原因」っての、試写の時は気にならなかったけど、今みるとけっこうキワドイ笑いになっちゃうのは意図せざる効果だな。小ネタであった。

Text : 梶浦秀麿


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