[スパイキッズ] Spy Kids
2001年12月15日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にて公開

監督・脚本・製作:ロバート・ロドリゲス/出演:アントニオ・バンデラス、カーラ・グギノ、アレクサ・ヴェガ、ダリル・サバラ、アラン・カミング、トニー・シャループ、ロバート・パトリック、チーチ・マリン他(2001年/アメリカ/1時間28分/配給:アスミック・エース)

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「冷戦時代、敵対する二大国それぞれに、凄腕で知られるスパイがいた。グレゴリオ(アントニオ・バンデラス)とイングリッド(カーラ・グギノ)である。ライバル同士の二人だったが、あろうことか恋に落ちてしまい、国籍を乗り越えて結ばれる。悪者の妨害もあった結婚式だが、得意の秘密兵器で退けてハネムーンに旅立った……のでした」と、2人の子供に寝物語をするのは、実は引退して9年になるイングリッドその人。今やグレゴリオと二人で経営コンサルタントとして平穏に暮らしていた。一方、母の話す物語が本当のことだとは知らない子供たち、カルメン(アレクサ・ヴェガ)とジュニ(ダリル・サバラ)には、実はそれぞれ親に言えない悩みがあった。そんな時、グレゴリオがかつて所属していた組織、戦略事務局OSSから突然の仕事の依頼が入る。彼のかつての同僚が行方不明になったのだ。調査を開始した二人は、だがあっけなく敵の罠に落ちてしまう。両親の危機に、家が緊急防御態勢に入る。何事かと思う間もなく姉弟を敵が襲う。親戚の叔父さんだったはずのフェリックス(チーチ・マリン)=実は父の昔の仕事仲間が盾となり、姉弟は秘密の裏口から潜水艦スーパーグッピーに乗りこんだ。「あの話は本当だったんだ……」と呆然とする二人。一方、 敵の城塞に捕らえられた両親は、ジョニが大ファンの子供向けTV番組「フループのフーグリーズ」のホスト、フェーガン・フループ(アラン・カミング)が悪の親玉だと知る。フループとその部下のミニオン(トニー・シャループ)は、かつてグレゴリオ達が開発した人工脳“第3の脳”を手に入れるために彼らを捕まえたのだ。彼らは、各国首脳の子女そっくりのアンドロイド軍団にそれを埋め込んで、悪人達による世界支配を目論んでいた。スポンサーは世界変革のための発明のために資金援助をしている大富豪ミスター・リプス(ロバート・パトリック)。実は失敗した発明=人間を頭の弱いモンスターに変身させる機械の犠牲者を使って、「フループのフーグリーズ」は作られていたのだった。さて。追っ手をまいて、自動操縦でOSSの秘密基地ヘ辿り着いたカルメンとジェニは、そこでスパイの秘密兵器の数々を漁っていて偶然“第3の脳”を発見。それに気づいたフループの手下達からまたしても逃げまわるハメになる。ランドセル型ジェットで空を飛んで、なんとか助かったと思ったら、自分達そっくりの子供達と遭遇。そいつらこそフループの開発した怪力アンドロイドで、あっけなく“第3の脳”も奪われてしまった。このままでは父も母も、そして世界も危ない! 彼らはスパイグッズ屋の伯父さんを探し出し、いろんなスパイグッズと超軽量飛行機RXエクスプレインを借りて、両親を救うために敵のアジトヘと飛び立った! はたして彼らは勝つことができるのか?

ファミリー向け娯楽大作、なんだけど、それだけ聞いて侮ってしまってはいけない、とっても素敵な凝り方が随所にみられる、何とも痛快なアクション・ファンタジー“家族”映画なのである。もうスパイ映画のパロディの域を越えて、妙なSFテイストやら家族愛の感動やら、さらにちょっとティム・バートンのオタク・ファンタジー志向を彷彿させる要素まであったりするのだ。どう? 観たくなった?

『パラサイト』以来3年ぶりとなるロバート・ロドリゲス(他に『エル・マリアッチ』『デスペラード』『フロム・ダスク・ティル・ドーン』など)が監督・脚本・製作。マニアックなB級テイストが持ち味だと思っていたけど、こんなにニコニコできる愉快な映画にし仕上がってるなんて、と嬉しい驚きがあった。しかもアダルトな恋愛サスペンス『ポワゾン』でフェロモン剥き出しの主役を演じてたアントニオ・バンデラス(ロバート・ロドリゲス作品では『デスペラード』『フォー・ルームス』に出演)が、コミカルなお父さん役。いや、いじめっ子の親を空想でやっつける(元凄腕スパイってのは内緒だから)シーンがあったり、凄腕のハズなのに床に張り付くようなドジがあったりって意味でコミカルなんだけどさ……。その妻役のカーラ・グギノ(『スネーク・アイズ』、『マイアミ・ラプソディ』でバンデラスと共演)もオキャンな性格がいい感じ。でもあくまで二人は脇役。この映画の主役は彼らの二人の子供を演じたアレクサ・ヴェガ(『ツイスター』でヘレン・ハントの幼少時代を演じた)とダリル・サバラ(映画初出演)だ。妙にリアルな姉弟喧嘩をしながらも、徐々にたくましくなってくのが微笑ましくて、見ているとハラハラニヤニヤしちゃうのだった(急に性格が一変するワケでもないのもいい)。シリーズ化するなら「コルテス一家危機一髪!」ってな題でもいいのかもしれん。既に続編の制作が決定されたようだし……。

さて。なにより面白かったのが敵役、子供番組『フループのフーグリーズ』のホストでありながら、悪の権化の顔を持つ天才発明家フループ役を演じたアラン・カミング(『アイズ・ワイド・シャット』『タイタス』など)。番組主題歌まで歌っちゃったりして、本気で副業の子供番組作りを愉しんでるって設定なのがいい。繊細で純真なところもある悪役って性格づけにヒネリを感じるし、彼のデザイン感覚もグーだ。アジトであるお城の造形がまた凝ってるのだ。曲線とパステル・カラー、遊び心・子供心(気持ち悪い系の味もある)がバクハツしてる。ガウディを意識したとかいう美術のケアリー・ホワイト、装飾のジャネット・スコット、えらいと言っておこう。その他、フループの忠実な(?)腹心ミニオン役に『メン・イン・ブラック』のトニー・シャルーブ。フェリックス役にはチーチ・マリン(『デスペラード』『フロム・ダスク・ティル・ドーン』)。悪の大富豪ミスター・リプス役に『ターミネーター2』でT-1000を演じたロバート・パトリック。秘密兵器発明家の伯父役に『ヒート』『コン・エアー』のダニー・トレホなどなど、配役もいろいろ気が効いているのだ。ほんの一瞬だけ、某有名スターJ・Cが登場して笑わせてくれるのでお見逃しなく。

Text : 梶浦秀麿


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