[コンセント]
2002年2月2日よりテアトル新宿にてロードショー 以降全国順次公開

監督:中原俊/原作:田口ランディ(幻冬舎文庫)/出演:市川実和子、村上淳、木下ほうか、芥正彦、つみきみほ、小市慢太郎、斎藤歩、不破万作、りりィ、梅沢昌代、二木てるみ、夏八木勲他(2002年/日本/1時間53分/配給:オフィス・シロウズ、メディアボックス)

→中原俊監督・市川実和子記者会見レポート


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(c)2001 BS-i/アミューズピクチャーズ/JHV/オフィス・シロウズ

マネー雑誌のライターで30歳の朝倉ユキ(市川実和子)は、同僚のカメラマン木村(村上淳)と成りゆきでホテルで過ごした夜に、10歳齢上の兄(木下ほうか)の死の報せを聞く。携帯から父の声------「タカが死んだぞ」「いつ?」「知らん」「なんで? 自殺?」「わからん。腐ってドロドロで…何にもわからん。すぐ帰ってこい」。故郷の初狩駅で粗野な父(夏八木勲)と気弱な母(二木てるみ)に迎えられ、葬式を済ませた後、父と共に兄のアパートを訪ねたユキは、台所の床の、人型の赤いシミに蛆が湧いている。兄はここで餓死していたのを発見されたのだ。不思議な魅力を持つ特殊清掃員(斎藤歩)は「お兄さんは家族想いだ」と言う。兄の私物はほとんど何も無かった。ふと、彼女が中学の頃にもらった作文コンクールの賞品の目覚まし時計が目に入る。そして今まさに掃除しようとしたかのように、コンセントに繋がれた掃除機のプラグ……。兄が生前に何か「コンセント」の話をしていた記憶が蘇る。それから彼女は嗅覚異常に悩まされはじめ、昔飼っていた犬のシロの姿や、ついには兄の幻影までも見るようになる。ユキは大学時代の指導教授で、当時愛人でもあった心理学教授・国貞(芥正彦)にカウンセリングを求める。ひきこもりになった兄が父親と酷く衝突したため、一時期兄を引き取って同居していたこと、やがて鬱陶しくなって部屋に戻らないうちに兄が失踪したこと、その後、兄は親から借金してアパート暮らしを始め、すぐに死んでしまったことなどを、ゆっくりと話してゆく……。国貞との愛欲の日々の記憶を蘇らせながらも、彼女は「兄の死の理由」を探して迷走するのだった。かつての大学の同窓生で、シャーマニズム研究をしている律子(つみきみほ)や、今は精神科医になった山岸(小市慢太郎)と再会したユキは、彼女達から沖縄のユタや霊能者、あるいは解離性障害者の自発性トランスについて教えられ、時折激しい性欲に襲われたり、アイデンティティを解体する幻覚の暴走に翻弄されながらも、自らの資質に次第に覚醒してゆく……。

サイコ・ホラーやポルノ映画のテイストを醸し出しつつ、ハスに構えた恋愛ものの匂いもつけておいて、アダルト・チルドレンな超能力(?)ヒロインの「覚醒」を爽やかに描き出す、ちょいアダルトなスピリチュアルSFサスペンス----それが映画『コンセント』だ(って勝手にジャンル分けして言い切ったりして)。つい同じ頃に試写を観た『ブレス・ザ・チャイルド』って少女救世主誕生モノとかを連想してしまった。とにかく原作と違うんである。「インターネット界の女王」(単行本の帯コピーより)田口ランディの「衝撃の処女小説!」らしい同名小説を、『櫻の園』『12人の優しい日本人』の中原俊監督が換骨奪胎、というか下手な部分をクレバーな批評的スマートさでカヴァーした映画版『コンセント』は、原作者が大嫌いな人でもちょっと注目して欲しい逸品なのだ。原作小説が「赤黒い」表紙に象徴される臓物と黄昏、新宿の不気味な夜空をキイ・トーンにしているのに対して、映画は宣伝ヴィジュアルの「白と薄青い」イメージが、そのまますっと清々しいラストシーンへとつながっていく。そんな好対照をなしているのである。一見して原作小説に忠実なフリをしつつ、勝手に自らの死を意味づけられるお兄さんが可哀想なほど自己中心的な精神異常気味のヒロインが、沖縄のユタに「エライ能力者」だと承認されるなんて手前味噌な原作のシーンは賢く削って、でも原作者自ら「淫乱馬鹿女」となじるヒロインの独特のエロティックな魅力は見事に活かし(ロリ風味までつけ加えてる)、実にすっきりリリカルにまとめあげた手腕が素晴らしい。死体跡や各種の幻覚シーンは適度にゾクッと怖いし、意味ありげな特殊清掃員の出番にも好感触。律子と山岸の描き方も、ビデオ『世界残酷物語』の出し方も巧い。原作の結論になってる(どっちにとっても)ネットと性風俗を馬鹿にしているとしか取れないマンション売春オチなんてあっさり捨てちゃって、すくっと伸ばした手の美しさに落とし込むなんて! 監督自ら「10年ぶりの傑作」と言うだけはあるゾ。

いや、それよりも、なにより素晴らしいのは朝倉ユキを演じた市川実和子だ。僕はその独特なルックスの大ファンなのである。個人的には、アムロや蘭々の出てた「ポンキッキーズ」のクロウサ(黒い兎の着ぐるみガール)やら「♪ひとりのぞーさん、蜘蛛の巣に、かかって遊んでおりましたー」ってなヘンテコ童謡を歌ってるイメージが強烈にあるんだけど、映画デビュー作『アナザヘヴン』で大胆な脱ぎッぷりをみせたと思ったら、『リリイ・シュシュのすべて』では普通のお姉さんをフランクに演じて油断させておいて(笑)、本作ではもっと過激に濡れ場を熱演! 彼女の方が積極的なセックス・シーンの連発には切ないやらなにやら、妙にリアルなSMゴッコまであってドキドキしちゃったり。大学時代の合宿シーンなんかは個人的に甘酸っぱい記憶が押し寄せたりなんかして、いやあ参ったッス。長ゼリフの適度な下手クソ感も本作のヒロインのキャラに合っていてグーなのだ。そして劇中で最も異彩を放ったのが、ユキのかつての愛人・国貞役の芥正彦の怪演、兄さん役の木下ほうかのイカニモな自閉青年(中年か)ぶりも凄い。カメラマン木村役は『人間の屑』でも好演してた村上淳、精神科医にして××の山岸を普通っぽく演じた小市慢太郎、はたまたちょいブッキーな律子役を中原監督の『櫻の園』に出てたつみきみほが含蓄深く演じているのもいい感じだ(原作のユキに近い役作りのような気がする)。父親役の夏八木勲やユキの同類らしき特殊清掃員役の斎藤歩、バーの霊能ママさん役のりりィなどなど、渋い脇役が画面を引き締めてるのだった。でもやっぱりこの映画のキモは、ナチュラルな不思議系である市川実和子のスーパーナチュラルな魅力だと思うのだった。ヘンテコさも含めて敢えて愛おしみたい映画である。

Text:梶浦秀麿

主人公のユキは、なぜか人を惹き付けてしまう不思議な魅力の持ち主。だけど、他人との間に自ら壁をつくってしまうところがある。なんと言うか、ぎこちない女の子だ(30歳という設定を考えると女性と言うべきなのだが女の子と言ったほうがしっくりくる)。市川実和子の個性的な風貌や、ぶっきらぼうなぐらいにナチュラルな演技がその設定に見事にはまっている。彼女と比べると、芸達者なまわりの役者の演技がコテコテに見えてしまい、違和感を感じるのだが、ユキは実際、そういう人間なのだろう。そんなユキの精神の解体の物語…と言うと難しそうに聞こえるが、暗く難しいテーマを扱いながらも、映画はむしろわかりやすく軽快であった。そして何より、市川実和子がよかった。ただ一点、映像に関しては、ポスターのビジュアルから想像できるものと比べると、少々チープに感じてしまった。このストーリーにこのキャスト、とても良かっただけに、少し残念だ。

Text:nakamura [UNZIP]

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