[ジェヴォーダンの獣] LE PACTE DES LOUPS
2001年2月2日より渋谷シネフロント、新宿オスカー、有楽町ニュー東宝シネマ他、全国東宝洋画系にて公開

監督:クリストフ・ガンズ/(ノベライズ:ソニー・マガジンズ文庫)/出演:ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、サミュエル・ル・ビアン、エミリエ・デュケンヌ、ジェレミー・レニエ、マーク・ダカスコス他(2001年/フランス/2時間18分/配給:ギャガ・ヒューマックス共同/宣伝:オメガ・エンタテインメント)

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物語は、フランス中南部の辺境ジェヴォーダンの老城主が、革命騒ぎで押し寄せる村人達の姿を見ながら、「ジェヴォーダンの獣」事件の真相を回想する形で語られる。「革命の嵐が吹き荒れていた。革命は恐怖をもたらし、人を野獣に変える……」------そしてカメラは素速く25年前、1764年のジェヴォーダンの放牧地の岩肌を舐め、一人の女が「獣」の犠牲となる様を、克明に追う。

史実によると1764年から66年(68年説も)まで、このジェヴォーダンで巨大な獣に女や子供ばかり百人以上の人々が惨殺される事件が起こった。その謎の野獣は牛ほどの狼ともハイエナともライオンに似るとも言われ、牛や羊の放牧で暮らす村人達は「ジェヴォーダンの獣」と呼んで悪魔か狼男のごとく恐れた。噂はパリまで届き、時の国王ルイ15世は、野獣討伐のため三度に渡って軍をジェヴォーダンへ派遣したのだが……。

1765年初秋、雨の降る村の入り口で、野盗達が老人と娘を襲っている。そこに通りがかった二人の旅人。数人を相手に大立ち回りを繰り広げ、見事に追い払う。彼らこそが、国王の命でジェヴォーダンへやってきた王室博物学者グレゴワール・デ・フロンサック(サミュエル・ル・ビアン)であり、その相棒のアメリカ先住民モホーク族のマニ(マーク・ダカスコス)であった。彼らは英国とのアメリカ植民地争奪戦、フランス-インディアン戦争(1754-60)で出会い、あるいきさつから義兄弟の誓いを立てて行動を共にしているのだ。投宿した城には地方長官や神父、田舎貴族連中や地元の有力者、その取り巻きの自称劇作家などがいて、口々に「獣」の被害を話す。あまり真摯さがないのは犠牲者が庶民の女子供だけだからか。デュアメル大尉が率いて長逗留している軍人達の横暴や無能を嗤い、法王の密使が悪魔かどうかを秘密裏に調査にきているなんて噂話に花を咲かせている。領主の孫息子トマ・ダプシェ(ジェレミー・レニエ)は、都会から来た2人に憧れ、協力を申し出る。フロンサックは、地元の貴族の令嬢マリアンヌ・デ・モランジアス(エミリエ・デュケンヌ)に惹かれるのだが、彼女には厳しい母や、隻腕の兄ジャン=フランソワ・ド・モランジアス(ヴァンサン・カッセル)の目があった。ジャンはかつて海軍にいた時、ライオンに右腕を喰われたのだという。やがて国の威信を懸けた大規模な狩りが行われる。大捕り物の前にマニが先日の荒くれ達に決闘を挑まれ、難なくやっつけるが、挑戦者は尽きない。軍の傭兵も混じってるようだ。余興めいた闘いは、ジャンが自慢の銃で仲裁するまで続く。あの老人が娘を引き吊りだし、喧嘩の原因は娘がけしかけたからだと詫びる。突然てんかん発作に襲われる娘。このせいで魔女呼ばわりされ、歪んだ性格になったのだろう。フロンサックは彼女を手際よく治療して騒ぎを収める。この日の山狩りで大量の狼が仕留められ、祝宴が催される。トマに連れられて娼館を訪れたフロンサックは、謎めいたイタリア系の娼婦シルヴィア(モニカ・ベルッチ)と出会う。マリアンヌとも惹かれ合うのだが、そこでさらなる「獣」による惨劇が起こり、デュアメル大尉は解任され、ヴォーテルヌ総督が派遣されることになる。マニの秘薬で蘇生した生き残りの少女は、「獣」を操る人間がいたと示唆し、フロンサックは「獣」の残した牙から推理を披露するのだが、ジャンの策謀でマリアンヌと引き離され、国王に呼び戻されることになってしまう。どうやら野獣は退治されたことにされたらしい。だが翌年の春、傷心のフロンサックがアフリカへ船出する直前、トマが訪ねて来て「獣」による殺戮がいまだ続いていると知らされる。彼はマリアンヌからの手紙も携えていた……。フロンサックはマニと共に再びジェヴォーダンへ戻る。密かにマリアンヌと再会するのだが、そこで「獣」に狙われ、野獣の背後に人為的な陰謀を察知することになる。果たして「ジェヴォーダンの獣」の本当の正体は? そしてその背後にある陰謀とは?

謎の野獣をめぐるド本格・ド直球な時代劇・娯楽活劇アクション巨編である。「ド」がつく程の劇画タッチな過剰演出がB級テイストを醸し出しもするが、このコッテリ感は病みつきになる人も出そうな気配。なにせ本国フランスで『クリムゾン・リバー』を超える動員を記録したっていうんだからね(『アメリ』や『ヴィドック』と比べるとどうなんだろ?)。とにかく歴史ミステリありラブ・ロマンスあり、アクションもカンフー調からチャンバラから対野獣戦まで各種しつこいくらいあり、とあらゆる娯楽要素がテンコ盛りなのだ。獣による殺戮シーンは『ジョーズ』めいたショッキングなタッチで丁寧に何度も描かれ、殺陣は必ずスローモーションが入って(笑)、クライマックス前の怪物との死闘も長過ぎるくらいたっぷりある。しまいには『ランボー』かい!ってな「復讐の戦士」めいたシチュエーションになって、さらに血塗られたフランス史を背景とした歴史劇の重みも載っけて締めてみせたりもする。かと思えば娼館での描写はそれなりにエロチックだし(『ヴィドック』とタメを張るか?)、裸婦の曲線が山の稜線になって場面転換、なんてベタなつなぎ演出も多々あって一々笑えたりもする。法王庁のスパイあり秘密結社あり錬金術的秘儀あり魔女あり「ああっお兄ちゃーん」あり(笑)インディアンの知恵あり……と「もうお腹いっぱい」って感じ。原題は『狼の掟』だから、香港ノワール映画っぽいテイストまで感じられる(実際、何度も登場する白い狼が象徴する「本当の狼達はイイモン側だ」という主張がタイトルに込められているのだけどね)。

監督は『クライング・フリーマン』のクリストフ・ガンズ。主人公フロンサックを演じるのは『トリコロール/赤の愛』『エステサロン/ヴィーナス・ビューティー』のサミュエル・ル・ビアン。マニに扮するのは『クライング・フリーマン』のマーク・ダカスコ。この2人がどちらも強い格闘家だってのはカブってる感がちょっとあって惜しいかも。一応軟派と硬派の対照はあるのだけど……。で、シニカルな貴族ジャン=フランソワ役を『ドーベルマン』『クリムゾン・リバー』のヴァンサン・カッセルは、謎の娼婦シルヴィア役のモニカ・ベルッチ(『ドーベルマン』『マレーナ』)と夫婦出演。どちらも後半で見せる真の姿が見物であった(まあ予想はつくけどさ)。ヒロインのマリアンヌ役には『ロゼッタ』で「仕事くれ」少女を熱演してカンヌ映画祭主演女優賞を得たエミリエ・デュケンヌが大抜擢されている。また領主の孫息子トマ役は『クリミナル・ラヴァース』のジェレミー・レニエだ。派手な殺陣の数々は香港の名スタント・コーディネーター、フィリップ・クウォーク(『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』など)によるもの。本作の“謎”の中心、「ジェヴォーダンの獣」を最新のアニマトロニクスとCGテクニックでデザインしたのは、ご存じジム・ヘンソンのクリーチャー・ショップ(『ミュータント・タートルズ』『ベイブ』『ロスト・イン・スペース』など)だ。謎解きとなる「獣」の正体を大胆かつリアルな仮説で表現したコイツ自体も、この映画の見どころのひとつなのである。

Text:梶浦秀麿

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