[エネミー・ライン] BEHIND ENEMY LINES
2002年3月9日、日劇3ほか全国東宝洋画系にてロードショー

監督:ジョン・ムーア/製作:ジョン・デイビス/脚本:デイビッド・ベローズ、ザック・ペン/製作総指揮:ステファニー・オースティン、ウィク・ゴッドフリー/撮影監督:ブレンダン・ガルビン/音楽監督:ドン・デイビス/キャスト:オーウェン・ウィルソン、ジーン・ハックマン、ガブリエル・マクト、チャールズ・マリク・ホイットフィールド、デイビッド・キース他(2001年/アメリカ/1時間46分/配給:20世紀フォックス映画)

∵ 公式サイト



(C)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
舞台は旧ユーゴスラビアの民族紛争が一応解決し、和平が結ばれているごく近い将来のボスニア。米海軍大尉クリス・バーネット(オーウェン・ウィルソン)は、平和を維持するための軍務に意義を見出せず、不満を募らせていた。レズリー・レイガード司令官(ジーン・ハックマン)に「監視ばかりでこれは戦いではない」と退役届を出すが、司令官は、英雄的行為に憧れるクリスが軍人の本文を分かっていないと見抜き、退役届は2週間後まで預かると告げる。空母でクリスマスが祝われている中、クリスと相棒のスタックハウス(ガブリエル・マクト)はいつもの偵察任務に出る。F/A-18スーパーホーネットに最新のデジタル・カメラを搭載し、ボスニアを上空から撮影する簡単な任務の筈だった。しかし、和平協定に違反して部隊を集結させていたセルビア人勢力は、見られてはいけないものを撮影されたと気付き、証拠隠滅のため、地対空ミサイルで撃墜する。大破する機体からどうにか脱出した2人だったが、不時着した場所は敵地のど真ん中。脚を骨折したスタックハウスをその場に待たせ、無線機の届く場所まで移動しようとしたクリスは、セルビア人民軍に射殺される相棒を目撃することになる。銃弾の嵐をかいくぐって逃げ、ようやく無線で空母と連絡を取るが、救出任務に向かおうとする海兵隊は、敵地へ踏み込むことによって和平が崩れることを恐れたNATO軍提督から厳しい規制を受ける。救出されるためには、“エネミー・ライン”を越えて安全圏へ向かうしかない。救出ポイントは連なる山々の彼方。絶望的な距離がある。身に付けているのは、1挺の拳銃とわずかばかりの携帯食料と水、無線機のみ。走り、逃げ続けるクリスが見たものは? そして、クリスは無事に救出されることができるのか…?

空母が大きく映し出される。カッコイイ戦闘機。陽気な海軍兵たちの姿。『トップガン』を思い出した。ところがそこに事件が起きる。敵地に不時着したクリスはあまりにも頼り無い。見晴しのいい原っぱのど真ん中に負傷した相棒を置いていくし(敵に見つからない方がオカシイって!)、射殺される相棒を見て悲鳴をあげるし(もう1人居ますって教えている様なものだ)、いつまでたっても学習しないし(見晴らしのいい場所で、のんびり水飲んでる場合じゃないんだから…!)、サバイバルの術も、反撃する力も持たない彼は、とにかく、ひたすら走って逃げ続けるしかないのだ。見ている側は、ツッコミたくなりながらも、いつのまにか夢中で応援してしまう。そして、クリスを守るために戦う、ジーン・ハックマン演じるレイガード司令官。古風な軍人のレイガードは、軍人として規則を守ること(平和維持の規約を守ること)と、部下を助けるという自分の正義の狭間で苦悩する。このレイガードの存在が、この映画をただの戦争アクション映画ではないものとしている。やがて2人の間に生まれる絆こそが、この映画の見どころだろう。アメリカ軍が正義であり、
セルビア軍は悪者、そしてアメリカ軍の足枷となるNATO軍、という、いかにもアメリカ映画的な図式には少し疑問を感じるものの、そういった事を抜きにすれば、夢中で楽しめて感動できる、面白い映画だ。

鼻の形がユニークな主役のオーエン・ウィルソンは、最初はヘンな顔だなぁと思っていたが、だんだんカッコよく見えてくる個性的な魅力の持ち主。カルト人気となった『天才マックスの世界』では若手監督のウェス・アンダーソンとコンビを組んで、共同脚本や共同製作総指揮をつとめるなど、注目すべき才能だ。本作で初共演となったジーン・ハックマンとは、ウェス・アンダーソンの新作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(アメリカでは2001年12月公開、日本公開は2002年の予定)でも再び共演している。

Text : nakamura [UNZIP]

Copyright (c) 2001 UNZIP