[Laundry<ランドリー>]
2002年3月9日より渋谷シネ・アミューズ他にて公開

監督・脚本・原作:森淳一/出演:窪塚洋介、小雪、内藤剛志、田鍋謙一郎、村松克己ほか(2001年/日本/2時間6分/配給:ROBOT/配給協力・宣伝:ザナドゥー)

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物語の最初の語り手は20歳の青年テル(窪塚洋介)。子供の頃マンホールに落ちて頭に怪我をし、それ以来、帽子を取ると引きつけを起こす。両親は早死にして祖母と二人暮らし。毎日、祖母の経営するコインランドリーに出掛け、掃除をしたり洗濯物が盗まれないように見張る仕事をしている。ランドリーに来る素人写真家の主婦、連戦連敗のボクサー、愚痴の多い老人などとの交流が、彼の世界の全てだった。ある日、乾燥機に置き忘れてあった服を届けようと追いかけたテルは、その服の持ち主、水絵(小雪)に部屋へと通され、じっと手を握られるという経験をする。ランドリ−に戻ると、また負けたらしいボクサーが乾燥機の中で籠城しているところだった。一晩つき合ったテルの前に、水絵が現れる。「バス停まで送って」と頼まれ、川沿いの土手の上で、水たまりを谷に見立てて飛ぶ彼女。そして彼女は行ってしまった。ランドリーの乾燥機に、落ちない赤い染みがついた1着の服を残して……。やがて祖母が詐欺にあって、コインランドリ−は売りに出されることになる。テルは居場所を失ってしまう。

故郷の町に戻った水絵は語る。24で東京で独り暮らしを始め、妻子持ちの郵便局員とつき合うことになり、破局を迎え、盗癖がエスカレートしていく……。宝石、口紅、本、服、テレビ……とりつかれたように盗んだモノを、郵便ポストに捨てる日々は、捕まるまで続いた。実家の美容院で、高校生の妹に疎まれ、肩身の狭い思いをしながら暮らす彼女は、せっかく得た地元工場の仕事に向かう途中に郵便配達夫を見かけて、トラウマが再発してしまう。彼女もまた居場所を失っていた。

テルは、何度も洗った彼女の服を届けようと、ヒッチハイクをしながら遠い町を目指す。途中で知り合ったサリー(内藤剛志)という謎の男に事情を話すと、変な逸話と共に「そういうのアイってんだ。覚えておけ」と教えてもらうテル。「困ったことがあったら来い」と名刺をもらって、美容院に辿り着くが、彼女はいないという。妹が居場所を教えてくれて、ついに水絵と再会し、一緒に暮らす二人。ふと、祖母に教えてもらった「口笛の上手な若者の話」の続きが思い出せなくて、家に電話したテルが聞かされたのは、訃報だった。墓参りの後、二人はサリーを訪ね、彼の仕事を手伝うことになる……。三人での少し不思議な、でも楽しい暮らしは、だが長くは続かなかった…… 。

ちょっと長いけど、静かな余韻が気持ちいい、ピュアなラブストーリーである。主演は『GO』でキネマ旬報主演男優賞など数々の賞を得た窪塚洋介(他に『溺れる魚』『ピンポン』など)。ちょうど今、TV『ロングラブレター〜漂流教室』で生徒に「アサミィ」って呼び捨てにされがちな(笑)若い先生を演じている。この『ロングラブレター』も妙なのんびり感漂うサバイバルもの、でも泣かせるって特異な世界を作ってるんだけど、映画『Laundry<ランドリー>』も何だか変な「世界」を持った、でも優しい現代の寓話としてオススメしたい映画なのである。

帽子を脱がない少し知恵遅れの青年と、傷心から盗癖がついてしまった年上の女性との、色恋ではない精神的なラブ・ストーリー----なんだけど、ありそうでありえない感じが全篇に漂っていて、しかも話がどこにいくのかわからない展開とか、タイトルに深い意味無いじゃんとか、脇役も唐突で変人ばっかじゃんとか、いろいろツッコミ入れながら観ていたら、最後にホロリとさせられちまったのだった。この意外な感動が素敵なんだけど、どーしてこれが脚本の段階で「サンダンス・NHK国際映像作家賞日本部門2000」ってのを受賞したのかは謎である(脚本だけでは無茶苦茶な印象しかないはずなんだけどなぁ)。その脚本(原作も)を書いた森淳一は、『居酒屋ゆうれい』『7月7日、晴れ』などの助監督を経てTV『美少女H2〜18歳のウソ』でギャラクシー賞・奨励賞を受賞した人。で、このサンダンスなんとかでの受賞脚本を自ら監督するってカタチで映画監督デビューと相成った。

子犬のような無垢演技が魅力の窪塚クンが、映画全体のムードメーカーとなっているが、ある意味キチガイ女である水絵をズバリと演じた小雪、鳩を飼う謎の中年男サリーをコミックな設定通りコミックに演じた内藤剛志ともに、観終わってみればとてもいい。この3人のアンサンブルがこの映画のキモといえるだろう。例えば内藤演じるサリーの唐突な退場シーン、そのあからさまにコミックなギミックは、彼であればこそギリギリ成立する類のものであって、映画としては反則だと思う。さらに言えば、「ランドリーの洗濯物を盗む人=悪い人」って主人公の素朴な等式が「万引き=悪い人?」ってズラし方で重要度を増す、警察が出てきてからの急な転調に驚いてたら、なんと決めワザは“『幸せの黄色いハンカチ』落とし”ってのはもう反則の反則で、映画自体が「盗む人=悪い人」へのメタ反論になっているのか?とまで深読みしてしまったりもした。これは「普通の人/普通じゃない人」「うまくいく人/うまくいかない人」という対立項を「現実の人間/映画の中の役者」にズラしているのかもってな邪推読みと同様、この映画の“魅力”の秘密を探るキイになるような気がする。つまり「役者に頼り過ぎ」ってのは批判に聞こえるかもしれないけど、逆に役者冥利に尽きる映画でもあるってことだ。それほどまでに、この映画は内容を越えて、窪塚・小雪・内藤らが「変人(対立項の後者)=役者」として輝いてるのである。あと、細かいエピソードや逸話(連敗ボクサー、ガスタンク、水たまり、カラスの真似する女子事務員、口笛の話など)の、深い意味が全くなさそうな無駄なユニークさにも、腰砕けになりつつ雰囲気だけは「買う」と言っておきたい。しかし考えれば考えるほどズルい映画だなぁ……。ま、泣けたからいいか。

Text:梶浦秀麿

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