『ニューヨークの恋人』ヒュー・ジャックマン来日記者会見
『ニューヨークの恋人』レビュー

2002年3月29日(金)14時より、新宿パークハイアット東京の39Fボールルームにて、最新作『ニューヨークの恋人』のプロモーションのために来日したヒュー・ジャックマンの記者会見が行なわれた。『X-メン』の主役の鋼鉄の爪を持つ狼男、しかも一匹狼のミュータント・ヒーロー、ウルヴァリン役でハリウッド・デビューし、UNZIPでも特集した『ソードフィッシュ』ではジョン・トラボルタと共演、天才ハッカーの狂言回しを好演したヒュー・ジャックマン。近作『恋する遺伝子』ではアシュレイ・ジャッドを相手にロマコメ(ロマンチック・ラヴ・コメディね、念のため)もこなした彼が、本作ではついに「ロマコメの女王」メグ・ライアンと怒濤のロマンチック対決を果たしたのだった。なんたって時空を越えてやって来た「19世紀の貴族の御曹司」ってなベタといえばあまりにもベタな“白馬の王子さま”役! 思わず失笑しちゃう「ド少女漫画」な設定なんだけど、なかなかどうして丁寧な作りで、もうハマッちゃった女性記者も多かったみたい。ただのミーハー・ファンと化した女性記者達の、冷静さを欠いた質問が出まくった1時間弱の記者会見であった。おいおい、『恋する遺伝子』でお調子者で遊び用の女の子連れ込みまくりの軽〜い浮気者役(だけど実は……って設定だけど)を嬉々として演じてたのを観てないのか?----ってちょっとシラケつつ、目がハートの質問者達に圧倒された僕なのだった。会見終了後にタレントの乙葉が花束プレゼンターとして登場した時の会場の空気の恐ろしさときたら……いや、ま、そういう感じの記者会見、じっくり再現してみたので行間を読んで欲しいのだった。

HUGH JACKMAN
at PARK HYATT Tokyo
司会:……『ニューヨークの恋人』、19世紀と21世紀を結ぶ奇跡のラブファンタジー、もうたまりません。もう全然期待していなかった、いや期待している通りの男女の出会いがあって、そしてワンちゃんの可愛らしい自然体の演技があって……メグ・ライアン扮するケイト、そしてレオポルド公爵----19世紀からやって来たハンサムな、そしてダンディな、かつ気品あふれる、ヒュー・ジャックマンさん扮する男性、もうこの二人の顔合わせ以外まったく考えられなかったよね、という雰囲気が、映画の中にパアーッて漂っていました。そして19世紀と21世紀のNYの魅力も、この映画の中でたいへん見事にフューチャーしているところも見どころになっております。日本では初夏公開予定のこの映画、さあそれでは『X-メン』に続いて2回目の来日になります、本当にお元気です、明るくて、でまたこれがエレガントで……なんて言ってる間にご紹介しちゃいましょう、ミスタ、ヒュー・ジャックマン!(拍手)……ではご挨拶を頂きましょう。

■ヒュー・ジャックマン:「コンニチワ、マタオメニカカレテ、コウエイデス(拍手)。今フラッシュで皆さんのお顔が見えないんですけれども、本当にまた日本に来れて非常に嬉しく思っています。2年前に『X-メン』で初めて日本に来たんですが、その時非常にいい思い出が残っています。そして2年後にまた。自分でも非常に自信を持って皆さんにお届けできる作品でこちらに来れたことを光栄に思っています。……アリガト(笑)」

Q1:この映画はニューヨークが舞台で、私もNYに住んでいたことがあるんですが、ヒュー・ジャックマンさんの個人的な、ニューヨークでとても好きな場所があったら教えていただければと思います。それからもうひとつ、劇中でレオポルドはシェイクスピア役者と間違えられるんですけれども、ジャックマンさんがご自分で好きなシェイクスピア劇がありましたら、教えて下さい。

■ヒュー・ジャックマン:「自分自身もとてもNYが好きです(I love NY, too)。ジェームズ・マンゴールド監督は、この映画のタイトルはある意味で『ニューヨークへのラヴレター』としてもいいんじゃないかというぐらいで、NYの素晴らしさを、そしてその歴史の素晴らしさを描きだしたものです。特にロケをしていて、1876年のニューヨークをそのまま映し出すことができるという、ある意味において奇妙、別の意味で非常に私達には恵まれている場所なのです。例えば乗馬のシーンなんですが、あのシーンは周りのビルボードやポスターなどをちょっと取り除いた位で、そのままの場所を使わせてもらっているんです。NYというのはブルックリン橋であろうと、いろいろな由緒ある建物がそのままきちんと保存されているところなのです。ですので今回は素敵なロケができたんじゃないかなと思います。そして質問の答えなんですが、私は友人のジョン・トラボルタに勧められたんです、『本当にニューヨークで一番いいところを観たいと思ったら、ロックフェラー・プラザの最上階にあるレインボー・ラウンジに絶対行くべきだ』と。たまたま今回、撮影中に妻との結婚5周年記念日があって、その当日は仕事で行けなかったんですが、その数日後に妻と行ってみたんです。そこはテーブルが全部、中央のダンス・フロアーに向いて置かれていて、ニューヨークの街を見下ろしながらディナーを愉しめて、バンド演奏をバックにダンスを踊れるんですね。そこに85歳の男性が奥さんといらしていて、何と結婚60周年の記念日だと言うんです。そこでその男性は立ち上がって、奥さんに心を込めて歌を歌ったのです。その場に居合わせたんですが、これぞNYの素敵なところだ、さすがトラボルタご推薦の場所だと思いました。ですからNYで一番好きな場所といったら、そこになるでしょうね。……(通訳に時間を食ったのを気にしたのか)次の質問はもう少し短い答えにしなきゃね(笑)。シェイクスピア劇で今現在、何が観たくて、もし自分で演じるとしたら何を一番演じたいかといったら『ヘンリー5世』だと思います。ただし、シェイクスピアって不思議で、自分自身が歳をとるにつれて彼の作品の中でも好むものが変わっていくという、そういう魅力のある劇作家なので、現時点で、と訊かれら『ヘンリー5世』ということですね」

Q2:素敵な映画ありがとうございました。今NYの話が出ましたが、昨年の9月にNYで悲しい出来事が起こりました。同じ場所を舞台にした映画にご出演されて、「9.11」事件をどう思われましたか?

■ヒュー・ジャックマン:「やはり自分の最初のリアクションというのは、もう全くショックでした。NYに住んでいるわけではないんですが、やはり映画の撮影期間、一時期NYに住んでいたこともあります。そういう意味でも本当に最初にあったのは大ショックだったというのがひとつ。そしてそこから出てきたのが怒り、ですね。こんな野蛮な行為が行われるものなのか……という気持ちです。これは今、個人レヴェルでの話なんですが、今回の事件をひとつの機会として、人間の心の癒しの部分を考えた時に、個人個人が、世界の中にはいろんな習慣や文化があって、その中にはやはりさまざまなギャップがあることを知り、そこで個人としてどれだけそのギャップを縮めることができるかを考えることが大切だと思います。私が一人間として思うのは、相手の立場になって、相手のことをもっと理解する人間がもっと多くなった時に、この癒しという部分、そしてもしかしたらギャップという部分を縮めることができる----ということを考えて、自分自身でも努力しなければならないと思っています」

Q3:このところ(ラッセル・クロウなど)オーストラリア出身の俳優がハリウッドで大活躍して、脚光を浴びています。どうしてこのような現象が起こっているのか? 御自身はどう考えていますか?

■ヒュー・ジャックマン:「この質問はいろんなところで訊かれて、たぶん今まで15通りくらいの解答を答えていると思うんですが……。ここで答えることで、だんだん真実に近づいていればいいと考えているんですが……。これは特にハリウッド業界の人には漏らして欲しくないんですが、要はオーストラリアの役者というのは、アメリカ人ほどギャラが高くないから、それがひとつの理由じゃないかと……。もう少し真面目な話をするなら、たぶん今、オーストラリアの俳優はアメリカに来やすい。何故かというと、もう既にメル・ギブソンやニコール・キッドマン達が、パイオニアとして道を作って橋を架けてくれたことがひとつでしょう。それからアメリカ側もタレントをスカウトする人達がオーストラリア人に注目してくれて、才能を探しに来て下さるということもひとつ。それからオーストラリア人というのは一般的な印象としてあんまり仕事はしないわ、よく遊ぶわっていう印象があるようなんですが、意外に働き者だということ。確かに私達は遊ぶ時はメチャ遊ぶんですが仕事をする時はメチャ仕事をします、その辺もたぶん何か関係あるんじゃないか。もうひとつは私達には開拓精神、チャレンジ精神が非常にあるということです。だから冒険をする、万が一それが失敗してもいいじゃないか、っていうくらいの。その要素がもしかしたらこの業界にいい意味で反映したのかもしれないですね。そして5つめ、自分ではこうやって一生懸命解答を出していますが、実はただの偶然の出来事かもしれないということです。これも個人的な考えですが、過去においてただ役者だけではなく、監督のジョージ・ミラーや撮影監督のジョン・シール、いわゆるフィルム・メーカー、他にもブライアン・ブラウ、ロッド・テイラー、そういう人達が、映画作りにおいてもかなりの何らかの良い実績をアメリカで作ってくださったということかもしれないです。そんな、いろいろな要素があると思います」

Q4:凄くロマンチックな映画でした。中でもレオポルドが屋上でケイトをディナーに誘うシーンが特に良かったです。御自身のデートで、ロマンチックな演出をした思い出はありますか? もしくはしようと思ってることは?

■ヒュー・ジャックマン:「(苦笑)今回、このレオポルド役をやって、実はある意味で困ったことがあります。特にオーストラリアの自宅にいる時ですね。妻によく『あなたどうしていつもレオポルドのようにできないのよ』ってかなり愚痴られるんです。例えばトイレに入った時には『レオポルド! ちゃんと便座シートは降ろしておきなさいよ!』ってもう「レオポルド」呼ばわりなんです(笑)。ただ結構、自分はロマンチックな人間なので、妻に最初にプロポーズした時も自分なりに非常にロマンチックな行動だったと思ってますし、彼女の誕生日や結婚記念日はもちろん、それにたまにはスペシャルな日でなくても、普通の木曜日の午後あたりでも、急にロマンチックに振る舞ったりするんです。でも妻に言わせれば『レオポルドは24時間365日、いつでもロマンチックだったのよ』だそうなんです(笑)。もうひとつ困ったことは、自分のダチ、仲のいい男の友達からも非難されることです。『お前、こんな映画を作ってくれたから、俺がいくら頑張ったって必ずレオポルドっていうのと比べられてしまうじゃないか、本当にいい迷惑だよ』と言われています。ですから皆さんの中でこれからお友達にこの映画を推薦する時、もしくは特に男性の中でまだ観ていない方に忠告しておきます。この映画はデート映画として最適の映画なんですが、デートに連れて行く前に、絶対ロマンチックなことをしてから行ってください。何故かというと、この映画を観た後は、あなたが何をしたって絶対比べられますから(会場爆笑)。ぜひロマンチックなことをやってから観てください」

Q5:いま仰ったとおりレオポルドは現代女性、働く女性にとって本当に理想の男性だと思います。今日お目にかかってヒュー・ジャックマン本人もとても素敵で、ちょっとダブって見えるんですが、あなたにとって理想的な女性とはどういう女性なんでしょうか?

■ヒュー・ジャックマン:「(さらに苦笑)今日の質問はみんなビッグ・クエスチョンばかり、大きな哲学的な問題が多いですね。頂いた質問に対して一生懸命考えたけど、けっこう浅いなって言われそうなのが心配ですが……とりあえず今の自分とレオポルドがダブってると仰ったことに関してですが、あれは演技です。しっかり演技が入っています。そして自分が客観的に観ると、本当にレオポルドは格好いいですよね。いつもちゃんとしたことをまともにコンと(的確に)言う。よく“ロマンチック”っていうと、男性は特にですが、やたら女性っぽくて、何かねちっこい、なよなよしてるって思うようですが……。私が思うロマンチックっていうのは、まずレオポルドっていうのは非常にロマンチックだと思うのですが、“ロマンチック”という言葉の中には、芯の強さ、力強さ、情熱的に自分が思っていることをカッ(きちっと)と伝えられる、そして自分自身に対して非常に自信を持っていながら、とてもシンプルである……というような意味合いがあると考えています。よくロマンチックっていうと、何となくクールとかキザな感じを思い浮かべますが、そうではないと思います。レオポルドというのは非常にロマンチックだと思うし、じゃあケイトという女性も、実はそうなんです。彼女はレオポルドから見ると、自分の来た19世紀の女性像、女性というのは静かでなくちゃいけない、自分が言いたいことも言えない、という女性像とはうって変わって、もの凄く言いたいことは言う、非常にエネルギッシュ、そして自分の感情をしっかり持っていてその感情を必ず出す、という女性です。なのに、彼女は固い防御の殻を着ている。何故かというとやはり働く女性というのは、日本はどうかわからないけれども、自分の知っているオーストラリアや西洋の現代の女性というのは、まだまだ職場においてのハードルがありストレスがあります。その中では、どうしても兜袴のようなもの(防御の殻)を着ているしかない。その中でやはり、女性であろうと男性であろうと自分の芯の強さをきちんと出せる人というのは、とてもセクシーだと思うんです。だから……質問の深さに比べて浅い答えでゴメンね……(と困る)」

司会:いえいえ、Very deepですよ。

Q6:働く女性向けのインターネット・サイトをやっています。最近、若い女性の間でも、日本の男性は昔に比べて軟弱になったと言われています。そういう状況の中で、今、一番男性に求められているものは何だと思いますか?


■ヒュー・ジャックマン:「(さらにさらに苦笑)男はペッペッと唾を吐けば男らしくなるよ----あ、今のはジョークなので通訳しないでね(会場笑)。えーと、僕は単なる役者なので、そういう難しい質問のお答えを、皆さんに助言するような立場にはないんですが……。ここ10年というのは、ある意味で日本だけでなく世界中で、政治だけじゃなく社会的な構造自体が、非常に流動的に複雑に変わってきていると思います。だから男性はこうじゃなきゃいけない、女性はこうじゃなきゃいけない、というのが、とても目まぐるしく移り変わっていると思うんですね。例えば15年前には、(自立した)女性のためにドアを開けてあげると逆に失礼になる、なんて時期もあったわけですから。だからたぶん今、何が一番必要かというと------この世の中には男と女しかいないわけですから、男性は照れていようが、やはり何らかの形で人口の半分である女性陣をどう喜ばせようかと、みんな絶対思っているはずなんです。だからそう考えた時に何が一番必要かというと------男性はもっと自分らしく、そして物事を複雑にじゃなくもっとシンプルに考えた時に、真の人間の強さが、自分らしく現れてくると思うんですね。そしてやはり人生において、女性もそうですけど男性においては、人生の目的・目標をしっかり定めて持っていると言っただけで、たぶんナヨナヨというのは治ってくるんじゃないかと思うんです。そしてたぶん男性の僕たちにとって一番大事なのは、女性が何を言おうとしているかということを、よく耳を大きくして聞くことですね。つまり自分の主張だけを言うのではなくて、伝え上手は聞き上手って言うように、よく話を聞くことが大切です。これは僕の場合、結婚した素晴らしい妻がいて、彼女との接点の話しかできないので、一般的かどうかはわからないけど、自分は妻に良く言われます、『一生懸命あれをしよう、これをしようと言う前に、私の言うことを黙って良く聞いてから決断してね』と(会場苦笑)。だから女性の言ってること、言いたいことを感性を持って聞くということ、これがもしかしたらひとつの前進になるのかもしれないですね。今度は僕が質問してもいいですか。あなたは独身ですか?」

Q6:(うなずく)

■ヒュー・ジャックマン:「じゃあ独身のあなたが1人でバーで飲んでいる時、レオポルドのような男性が現れて、話しかけてきたらどう思いますか?」

Q6:初めはいぶかしげな目でみてしまうかも……怪訝に思うかも。でも、話して誠実さが伝わってくれば……。

■ヒュー・ジャックマン:「そしたら第一印象というのはどうしても外見を見るわけだから、野郎の仲間にアドバイスするなら、膝までのブーツは履かないようにってことかな。でも乗馬のレッスンだけはする価値があるかもしれないよって」(会場笑)

司会:どうもありがとうございました。

■ヒュー・ジャックマン:「最後にぜひ、お礼を言わせてください。通訳さんありがとう、それから特に私と広報担当のナンシー・セルツァー・アソシエイツから、皆さんに今日ここにお集まり頂いて本当に心から感謝していることを伝えたい。それから本作の公開のお手伝いをして下さっているギャガ・コミュニケーションさんのスタッフにも感謝の気持ちを。私達は本当にまだ日本に着いて間もないんですが、今この日本にいる、この瞬間の滞在を本当に心から満喫していることをお伝えしたいと思います。ありがとうございます」(会場拍手)

司会:ではここでゲストからの花束贈呈を。本日はタレントの乙葉さんから、『ニューヨークの恋人』をイメージした特製ブーケ「レオポルドのブーケ」のプレゼントです。

●乙葉:「カサブランカの花言葉、『高貴で雄大な愛』を、あたしから捧げます」(拍手)


■ヒュー・ジャックマン:「レオポルドは、花束をもらう方じゃなくあげる方なんだけどね(笑)」

司会:乙葉さん、ご感想は?

●乙葉:「はい、とてもすごくロマンチストな映画で、私はすごくケイトに共感を得ました。ケイトはすごくキャリアを求めて、仕事にすごく頑張っているんですけれども、いつか素敵な男性が現れないかとすごく心待ちにしていて。本当はもろい部分もあって、すごく弱い部分もあって、でも本当は気持ちは『仕事を頑張ろう』というところで気を張ってしまうところもあったり強がってしまうところもあったり、でもいつか素敵な男性が現れるんじゃないかってずっと待ってて、そしてレオポルドのような素敵な男性に巡り会えて……。私もすごく仕事を頑張ろう頑張ろうと思っている部分があって、でも本当は弱音を吐きたい時もあるし、すごくもろい部分もあるし、でもいつかそれを包み込んでくれるような、レオポルドのような男性が現れたら素敵だなぁと……すごく、今の若い女性に共感を得るんじゃないかなぁと。本当に私もロマンチストで、感動しました」


■ヒュー・ジャックマン:「おお。君にもきっと素晴らしい白馬の王子様が現れるよ」

Text:梶浦秀麿
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