[ローラーボール] Rollerball
2002年5月11日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開

監督:ジョン・マクティアナン/原作:ウイリアム・ハリスン(ハヤカワ文庫)/音楽:エリック・セラ/出演:クリス・クライン、ジャン・レノ、LLクールJ、レベッカ・ローミン=ステイモス、ナヴィーン・アンドリュース他/特別出演:P!NK
(2002年/アメリカ/1時間37分/配給:東宝東和)

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(C)2001 TOHO-TOWA
そう遠くない近未来、サンフランシスコの坂道を、車をすり抜けてローラーボード(リュージュみたいなの)で駆け抜ける命知らずの若者がいた。プロ・ホッケーチームNHL入団が有望視されながら落ちてしまい、若干自暴自棄気味のジョナサン・クロス(クリス・クライン)だ。カメラマン一人400ドルって賭け金に命を張り、バイクスーツの対戦相手は吹っ飛んで勝負には勝った。だが、危うくパトカーに捕まるところを黒のポルシェで救ったのは親友のマーカス・リドリー(LLクールJ)である。ヤケ気味のジョナサンにローラーボールへの参加を誘う。「あんな見世物」といったん断ったジョナサンだが、戻ろうとした自宅前に警官の姿を見て……。4ヶ月後、彼はローラーボールのリンクにいた。この悪名高い超過激なスポーツ興業は、中央アジアに点在する鉱物資源炭坑にしつらえた特設アリーナを舞台に、インラインスケートを履いた選手がトレイル・バイク乗りとチームを組んで、鋼鉄のボールを殴る蹴るで奪い合って得点を競うという暴力的なものだ。炭鉱労働者が賭けに狂い、衛星放送で世界中に放映権を売っての巨大な賭博競技は、今や一大ショー・ビジネスと化していた。瞬く間にカザフスタン・チーム“赤い騎士団(紅の騎兵隊)”のスター選手となったジョナサンだが、チームメイトのトーバが試合中に重傷を負うのを見て疑問を抱く(ちなみに視聴率は急激にアップ!)。美しいチームメイトのオーロラ(レベッカ・ローミン=ステイモス)は、それが事故ではなく、視聴率を上げる為に仕組まれたチーム・オーナー達の卑劣な工作だと気づくのだが、証拠映像を持ったTVクルーは失踪。ジョナサンがチームオーナーでプロモーターのペドロピッチ(ジャン・レノ)に事故調査を依頼しても、軽くいなされるだけだ。アゼルバイジャン、モンゴルと転戦を重ねるにつれ、視聴率アップのための事故工作は過激になり、もはや殺人ゲームと化しつつあった。ジョナサンはリドリーと共に逃亡を試みるが、ロシア国境でペトロビッチに捕まってしまい、リドリーは散る……。スター選手ゆえに試合放棄も許されないジョナサンは、オーロラをトレードに出すことと引き替えに世界No1を決めるチャンピオンシップの決勝戦への参加を約束する。だがなんとオーロラは首位を争う敵チーム“金の略奪団(黄金の遊牧民)”に入れられていた! しかも今回はファウルもペナルティ−も、すべての罰則を無しにするという特別ルールだ----実況アナがその告知を読んで絶句する。どうやらTV契約に難航しているらしいペドロビッチは、もっと過激で残忍なショーを演出するつもりらしい……。熱狂する観客席の貧しい炭坑労働者達や世界中のTVの視聴者の前で、凶悪な戦闘が開始される----だがジョナサンは怒りをぶつけるべき真の相手を忘れてはいなかった……。

近未来の一大娯楽興業----ローラーボール! 昭和40年代にあったローラーゲーム(チームでのスピードスケートのようなスポーツ)に、ホッケーかアメフトのようなプロテクターつけて鋼鉄のボールを奪い合うという球技要素、アンド曲乗りバイクのモーターショー兼サーカス要素をも加味したという、なんだか無茶苦茶な架空のスポーツなんだけど、サッカーのTOTOみたいな賭博にもなってて中央アジアの鉱山労働者には大人気、衛星放送番組として世界中にも配信されて、どっかのプロレス団体みたく視聴率のためにどんどん過激化してる----ってのが基本背景設定(ガチンコな異種格闘技系のフリして根はWWFというかガチンコファイトクラブというか……)。ま、そんな競技のスター選手が、試合後に貧しい街を高級車でカーチェイスしたり、クラブでVIP面したり、でも男女平等なのでロッカーは裸の男女入り乱れ状態だったり(『スターシップ・トゥルーパーズ』を思い出した)、選手用のスポーツジムで秘密の情事したり、オーナーの悪事を暴こうとしたりってな感じで展開する。いろんな無理を感じつつも強引に投げ飛ばされるべく、なるべく頭を空っぽにしてバイオレンス・アクションを楽しみたいってヒトにオススメかな。『グラディエーター』の古代の闘技場の雰囲気を近未来スポーツに置き換えて、ところどころにあるかすかな社会批判のシニカルな味にもニヤリとし、最後は『スパルタカス』なヒーローによる「(共産主義者?)革命の成就の夢」が実現ってなカタルシスが待ってるという……そういう娯楽作なのだと割り切ろう。つまりは高級車を乗り回す金持ちの暮らしもしてみたいし、そうした金持ちに搾取される現状に不満だらけでもあるって貧乏人の欲求にストレートに応えようとした底抜けバイオレンス超大作ってなワケだ。

主演のジョナサン役、キアヌ顔のクリス・クライン(『アメリカン・パイ』『アメリカン・サマーストーリー』『ワンス・アンド・フォーエパー』)も格好いいし、アンジェリーナ・ジョリーを彷彿とさせるスカーフェイスのオーロラ役のレベッカ・ローミン=ステイモス(『オースティン・パワーズ:デラックス』『X-メン』、次回作は『ファム・ファタール』)もクール! 出過ぎの感もあるけど今回は悪役のジャン・レノ(『グラン・ブルー』『レオン』『GODZILLA』『WASABI』など)もファンは必見かも。主人公の親友役でLLクールJ(『ディープ・ブルー』『エニイ・ギブン・サンデー』)も出てて、P!NKやラッパ我リア、SLIPKNOTなどミュージシャンも音楽を担当しつつカメオ出演してる。フジTVの伊藤利尋アナも実況アナの一人としてチラリと顔を見せている。監督は『ダイ・ハード』『レッド・オクトーバーを追え!』『プレデター』『トーマス・クラウン・アフェアー』のジョン・マクティアナン監督。『トーマス・クラウン・アフェアー』はノーマン・ジュイソン監督『華麗なる賭け』のリメイクだったけど、そのノーマン・ジュイソン監督が1975年に製作した同名作品をまたもやリメイクしたことになる。

もともと71年発表の短篇SF小説(ウイリアム・ハリスンの同題短篇集・ハヤカワ文庫所収)が原作。これ、1990年代の大アジア戦争後、世界が6つのメジャー企業体(エネルギー、輸送、食糧、住居、サービス、娯楽)の管理下にあるという未来世界(ユートピアなのかディストピアなのかよくわからん)で、殺人ローラーボールのスター選手として15年も君臨しているジョナサン・Eが、女との別れを繰り返しながら「本読まなきゃ」と内省を続け、それでもルールの過激化するゲームに淡々と参加するってな話なのだった。これを帝政期古代ローマの貴族社会と剣闘士になぞらえて寓話化した75年の映画版では、最後の敵は企業支配世界をさらに支配する「液体脳」ってな案配(あと眼鏡チビの東京チームも出てくるのも失笑を呼んだ)。27年後のリメイクである本作の敵はジャン・レノ演じる「ロシアン・マフィアもどきの興行主」ってのは、スケールダウンしていることになるのかリアルになってるというべきなのか? 悩むところだ。ゲーム自体の迫力はアップしてるし男女混合になってるので華やかさもある、しかも中東から中央アジアの鉱山町を転戦してるってな設定は妙にリアルな面白さがあるんだけどね(あ、でも中盤のロシア国境への逃亡劇が、ずうううっと暗視カメラ映像ってなヴィジュアルなのはちとツラかったか)。未来像の考察においては、「貧富の差」が資本主義世界の絶対要件なのかどうか?ってのがポイントなのかもなぁ……と、頭を空っぽにして観るべき映画なのにいろいろ考えてしまいもしたのだった。

オマケ。車好きのヒトは、主人公の乗る64年型シェルビー・デイトナ・コブラをはじめ、アウディにロータスにフェラーリにポルシェ、オーロラの乗るドゥカッティのモンスターなどの登場に燃えるかも。

Text:梶浦秀麿


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