[スコーピオン] 3000 MILES TO GRACELAND
2002年6月29日より丸の内プラゼールほか全国松竹系にてロードショー公開

監督:デミアン・リヒテンスタイン/製作:デミアン・リヒテンスタイン、エリック・マネス、リチャード・スペロ、アンドリュー・スティーヴンス/製作総指揮:ドン・カーモディ、トレイシー・スタンリー/脚本:デミアン・リヒテンスタイン、リチャード・レッコ/撮影:デヴィッド・フランコ/音楽:ジョージ・S・クリントン/出演:ケヴィン・コスナー、カート・ラッセル、コートニー・コックス、デヴィッド・ケイ、クリスチャン・スレイター他
(2001年/アメリカ/120分/配給:松竹)

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ラスヴェガス近郊の町ローズウッドにある寂れたモーテル「ラスト・チャンス」に、深紅の59年型キャデラックが停まった。車から降りた男の名は、マイケル(カート・ラッセル)。5年の刑期を終え晴れて娑婆に出てきたばかりの彼のルックスは若い頃のエルヴィス・プレスリーを彷彿とさせる。やがて、このモーテルを切り盛りする美しい女主人シビル・ウィングロー(コートニー・コックス)と知り合い、意気投合したマイケルは即ベットイン!しかしシビルには、盗癖のある息子ジェシー(デビッド・ケイ)がいた。やがて、モーテルにマイケルの刑務所仲間のマーフィー(ケヴィン・コスナー)をリーダーとする4人組…ハンソン(クリスチャン・スレーター)、ガス(デヴィッド・アークエット)、フランクリン(ボキーム・ウッドバイン)…が訪れ、マイケルと合流する。マーフィーは心底エルヴィスに心酔している冷徹かつクレイジーな男。自分はエルヴィスの私生児であると本気で信じ、長いもみあげが、その熱い思いを物語っている。晩年のエルヴィスのステージ衣装と同じジャンプスーツにマントのド派手な出で立ちで5人が目指すのは、<インターナショナル・エルヴィス・ウィーク>の開催に沸くラスヴェガス。街中がエルヴィスに溢れ、誰もがお祭り気分に沸いている際に賭博の売上を強奪すると言う大胆不敵な強盗計画を実行に移そうと言うのだ。仲間割れと裏切りと、奪われた金をめぐり悪党(WARU)vs悪党(WARU)の壮絶なバトルが始まる。したたかなモーテルの女主人、ウィングロー親子を巻き込んでの逃避行と最後の対決の結末はいかに。

全米が震撼!超過激バイオレンス描写!今まで誰も見た事が無いケヴィン・コスナーが、ここにいる…この作品の主役は確かにケヴィン・コスナーかも知れないが、見終わった後にはカート・ラッセルが主役だと思うだろう。この作品でのケヴィンの役は本当の極悪非道の悪党である。一方のカートの演じる役は、出所したばかりの、やはり悪党ではあるが人を傷つける事を嫌う心やさしい悪党である。本来、監督は良い方の悪党をケヴィンにやらせるつもりで考えていたそうだが、ケヴィンは「それでは今までの自分の演じてきた役と大して変わらない、極悪非道な冷徹な役をやらせてくれ!」と直訴したそうだ。それで、ケヴィンの役とカートの役を入れ替える事にしたらしい。確かに今回ケヴィンの演じる悪党ぶりが目玉の一つである事は間違いない、皆さんもその当たりを存分に楽しんで見るのが良いだろう。今までのケヴィンの作品では見る事の出来ない冷酷でクレージーな悪党が描かれているのである。

もう一つの目玉は、カート・ラッセルとエルヴィスを巡る因縁であろうか。カジノを襲撃する為にエルヴィスに扮した5人のギャング共がそれぞれ色違いのジャンプスーツに身を包んで、ギターケースにマシンガンを詰め込んで会場を闊歩する様は圧巻である。なんと、カート・ラッセルの映画デビューと言うのは若干10歳の時に出演したエルヴィスの主演映画『ヤング・ヤング・パレード』だったとか。また、彼の知名度を上げたのはジョン・カーペンター監督のTV映画『ザ・シンガー』で演じたエルヴィス本人の役だった言うのも何かの縁であろう。今作でもそっくりさん大会に並居るそっくりさん達(実はみんなあんまり似ていないと思うが…)を後目に堂々のエルヴィス振りを披露しているのである。エルヴィスの格好でエレベーターに乗ると、そっくりさん大会を見物に来た老婆にサインを求められ、差し出されたエルビスのレコードジャケットが『ヤング・ヤング・パレード』のサントラ盤であるのもエルヴィスへのオマージュであろう。

前半の見所はド派手な銃撃シーンの末に大金を奪取するところであるが、仲間の一人フランクリンが警官に撃たれて負傷してしまう…この辺りから段々計画が崩れてきて泥沼にはまっていくのである。マイケルが宿泊したモーテルの女主人・シビルに強盗事件を嗅ぎ付けられて闇金を扱う小売商の所へ付きまとわれるのだが、道中まんまとシビルに現金を持ち逃げされてしまうのである。しかも、一人息子ジェシーを押し付けられて! このシビルもなかなかしたたかな女で、息子のジェシー共々小悪党ぶりをしたたかに演じている。現金を持ち逃げされた時のマイケルの悔しさがスクリーンからにじみ出して、見ている私も腹立たしく思ったもんである。こんな女がいたらやだなぁ…と(笑)。しかし、後半のマーフィーとのバトルの中で段々とマイケルの気持ちがシビルと息子のジェシーと繋がっていくのが感動である。単なるギャング物で終わっていないのはこの辺りのストーリーが良い感じに効いていると思う。人間臭い彼らの関係とまったく対岸にあるマーフィーの極悪非道ぶりの対比が際立つのである。それぞれ各人の心の変遷を感じながら見ると一層感情移入できるだろう。そして、最後の大激闘シーンまではらはらしながら一気に見てしまうのである。元題は『スコーピオン』では無く『3000 MILES TO GRACELAND』である。どの辺りがスコーピオンと言うかと言うと、冒頭のオープニングにC・Gで描かれた2匹のサソリの対決シーンがあるのである。この2匹がマーフィーとマイケルである事は言うまでも無い。しかし、このC・Gは蛇足の様な気がしてしょうがないのであるがいかがなものであろう? 後は出てくるとしたらマーフィーのベルトのでっかいサソリのバックル位であろうか…ちなみにGRACELANDと言うのはエルヴィスの聖地の事だそうで、マイケルが逃亡するのに使おうとするヨットの名前も同名である。たっぷり楽しんだ後はエンドロールもお見逃し無く!“SUCH A NIGHT”をバックにエルヴィスのパフォーマンスを演じるラッセルはまるでエルヴィスが乗り移ったかのように楽しそうに歌っているのである。

Text:harry

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