[DOGTOWN & Z-BOYS]
2002年7月20日(土)よりシネマライズにて夏休みレイトショー

監督:ステイシー・ペラルタ/製作:Vans/出演:Z-BOYS(ジェイ・アダムズ、トニー・アルヴァ、ボブ・ビニアック、ポール・コンスタンティノウ、ショウゴ・クボ、ジム・ミュアー、ペギー・オキ、ステイシー・ペラルタ、ネイサン・プラット、ウェンツル・ラムル、アレン・サーロ)、トニー・ホーク、グレン・E・フリードマンホカ/ナレーション:ショーン・ペン
(2001年/アメリカ/89分/配給:東北新社)

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Photo: Pat Darrin
【ストリートが生み出した最もエキサイティングな革命家たち】

スケートボードといえば、なにやら危ないけどかっこいいスポーツ。音楽やファッションとも深くリンクしていて、ストリートに集まる悪ガキたちがハマッている遊びの1つ。そんな魅力的なイメージが漂うけど、実はスケートボードは最初からそういったモノではなかったのだ。では、いつからそんなストリートを代表するようなカルチャーとして認知されたのか。答えはこの映画の中に詰まっている。この物語は、それまで単調で競技要素の強かったスケートボードを、パワフルでスピーディーに、そして無限の可能性を秘めた遊び道具へと変化をさせた人々の熱いドキュメンタリーだ。彼らたちがいなければスケートボードもオリンピック競技の1つとして、ただのお茶の間スポーツになっていただろう。そしてそこにはクリエイティブのカケラもない多くの大人たちが幅を利かせていたに違いない。
 
物語の舞台となるのは1970年初頭、カリフォルニアのベニスビーチ。当時のベニスビーチは、西海岸の夢のリゾート地と謡われ多くの娯楽施設が建築されていた。しかし不景気のあおりを受け見事に事業は失敗、そこに残されたのは閉鎖されたアミューズメントパークや豪華なホテルなど、60年代後半アメリカの産業バブルの夢の跡そのものだった。そして失望感に駆られ荒涼とした街には多くのストリートギャングが集い、ベニスビーチ周辺の地はいつしかドッグタウンと呼ばれるようになっていた。
 
ドッグタウンに集まる連中は、グラフィティライターやロウライダー、そしてサーファーたちが主だったが、やがて独自のローカリズムが形成されていく。彼らのなかでは、ホテルの残骸が海面から突き出した危険な海岸で、どれだけ際どく波を乗りこなすことが出来るかが、自らを主張することであり、仲間意識を高めるためのイニシエーションとなっていた。そんななか、ドッグタウンで唯一のサーフショップを経営するジェフ・ホウが店にたむろする若者たちを集め、スケートチームZ-BOYSを結成する。当時のスケートはスラロームやダウンヒルといった平面的な滑りをしていたが、サーファーあがりの彼らは水のないプールを波に見立てて立体的な滑り方をしはじめた。そしてスケートボードを退屈な競技から、ハードでアグレッシブな遊びへと激変させてしまう。
 
映画のなかで印象的なシーンは、彼らがデル・マー・ナショナルズという当時の大会へ出場する場面。それまでアンダーグラウンドな存在だったZ-BOYSが初めて表舞台へ登場する。そこで彼らはいつも通りのアグレッシブなスケートを披露し、審査員の度胆を抜くだけでなく会場にいた多くの観客たちを一気に魅了してしまう。それは彼らが革命を起こした瞬間であり、現在のスケートボードカルチャーが誕生した瞬間でもあった。物語はその後の彼らの目覚ましい活躍を追っていくだけでなく、現在の彼らの動向もしっかりと押さえられている。
 
この映画には一躍スターとなった彼らの栄光と挫折が納められているが、そこには感傷的になるヒマもない疾走感とエネルギーがぎゅっと凝縮されている。新しいものが生まれる瞬間はいつだってドキドキするけど、こんなにもドラマチックに1つの革命を記録したフィルムはそうないだろう。しかもこれが脚本のある映画ではなくリアルなドキュメントだということが、なによりも感動的だ。スケーターなら当然、スケートボードを知らなくても十分に楽しめる本作は、近年稀にみる秀作ドキュメンタリーといえるだろう。

Text:Kenichi Takemoto


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