[メン・イン・ブラック2] MIB II
2002年7月6日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にて公開

監督:バリー・ソネンフィルド/特殊メイク:リック・ベイカー/出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、ララ・フリン・ボイル、ロザリオ・ドーソン、リップ・トーン他
(2002年/アメリカ/1時間28分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/宣伝:マンハッタンピープル)

∵公式サイト

前作『MIB』のおさらい。かつてNYPDのハミダシ刑事ジェームズ・エドワーズは、エージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)にスカウトされてMIBのエージェントJ(ウィル・スミス)になった。MIBの仕事は、68年のゼロニオン事件以来、政府が秘密裏に認めた“エイリアン移民”の監視とトラブル解決である。エイリアンは地球人など化けて、すでに30年以上もNYなどで生活しているのだ。有名どころではエルヴィス・プレスリーやデニス・ロッドマンなんかもエイリアンらしい。97年、アルキリア星の王族がバグ型エイリアンに暗殺され、最終兵器「銀河」をめぐって地球滅亡の危機が訪れる。JとKは、煙草屋の飼い犬パグに扮した情報屋フランク(後にMIB本部で配達係になり、エージェントFを自称)から情報を得、モルグの女性検死官ローレルの協力もあって事件を解決。Kは引退して「35年の昏睡から目覚めた男」として妻の元へ。JはエージェントLとなったローレルとコンビを結成する……。

それから5年後。Jは検死官に戻ったLの代わりに新人Tと組んでいたが、コイツが使えないヤツで……ってな現状である。と、そんな時、「ザルタの光」をめぐる事件が発生。かつて、亡命してきたザルタ星の王女ロラーナを、MIBが「中立原則」で追い返したという事件があった。1878年のことだ。どうやらKが絡んだ事件だったらしいのだが、その時、国外、というか地球外に一緒に退去させたはずの最終兵器「ザルタの光」が、どうやら地球にあるらしいのだ。それはそのままにしておけば25年の時限装置で作動して、地球を壊滅させるという。その「ザルタの光」を追って凶悪なカイロシア星人サーリーナ(ララ・フリン・ボイル)が再来したのだ。数々の星を退屈しのぎに破壊して回った後に、である。手下の「二つ頭」から、NYのピザ屋の主人がその在処を知っていると聞き、そいつを尋問して惨殺するサーリ−ナ。その場面を目撃していたウェイトレスのローラ(ロザリオ・ドーソン)に事情聴取したJは、思わず彼女に一目惚れしてしまうのだった。さて、MIBのボスZ(リップ・トーン)によれば、事件解決の鍵を握るのは、引退したKだけだった。だが彼は「ピカッ」ことニューラライザー(記憶消去装置)で記憶を消され、田舎の郵便局員として平穏な生活を送っていた。Jは、そんな彼をなんとかMIB本部に連れ戻し、記憶復元装置にかけようとしたのだが、その時、本部に潜入したサーリーナが暴れ出した。緊急脱出装置「ジャー」で逃げ出したJとK。なんとかKの記憶を取り戻し、サーリーナに奪われる前に「ザルタの光」をザルタ星に戻さなければならない。どのみち「光」があれば地球は爆発してしまうのだ。タイムリミットが迫っていた。はてさて、JとKは地球を救うことが出来るのか?

サングラスに黒スーツの対エイリアン対策エージェント、MIBの名コンビが5年ぶりに復活。変装したエイリアンが多数居住するNYで、またしても「地球の滅亡」を賭けたドタバタ活劇が展開される! ってなワケで、前作ファンには見逃せないSFユーモア『MIB』第2弾が、日米同時公開で登場だ。B級TV番組を再現した意味ありげなオープニングに続き、次々と惑星を破壊しながら地球に近づく一隻の宇宙船……という出だしからなかなかシャレてて、思わず引き込まれる。で、大きさの錯覚ギャグを皮切りに細かいシニカル・ギャグが矢継ぎ早に登場、日米の文化差とかで笑えないのもあるけれど、まあクスクス笑わせてくれる。要所要所にVFXを駆使したアクション・パニック・シーンが入り、謎を推理するミステリ部分は(ノベライズからも推測できるんだけど)ポー『盗まれた手紙』を意識してるらしいってのもちょっと気が効いてる。前作に引き続き登場する「全身電飾レオタードの二人乗り自転車コンビ」の無意味さをはじめ、故買屋エイリアンとかパグ犬とかイタズラ・エイリアン(ワーム)達も活躍して、嬉し懐かし気分も味わえる。個人的にツボだったのは「C-118世界」のモーゼの十戒ネタ(原理主義台頭気配のアメリカでも、ユダヤ・キリスト教オチョクリ系ギャグが健在なのに一安心)。ま、ゴタクはこれ以上はやめておこう。さあ、みんな劇場で「ピカッ」してもらいに出掛けよう!

で、以下余談。前作『MIB』を観直してみると、意外にシリアスな渋いSF映画だったことに気づいてビックリ。細かいSFオタク向けギャグ満載のオチャラケ爆笑コメディって印象で覚えてたんだけど、そうしたギャグは今回の続編より随分少な目だし、なによりコアにあるストーリーが“哀しみ----老いの、あるいは「透明な存在」(笑)であることの哀しみ”をめぐるものだったりして、それがラストの「銀河=ガラス玉ゲーム」の高度なSFオチ=つまり『火の鳥・未来編』(だったか?)というか『百億の昼、千億の夜』というかボルヘス『エル・アレフ』というかハミルトン『フェッセンデンの宇宙』というか……要するに「超壮大かつ極微小」という世界観に象徴される、SFならではの諸行無常感となって、クールな笑い(哀しいような切ないような、ヒヤッとする感動)を生んでいたのだった。いわゆるトボケたギャグやらド派手なVFXってのは、そういうマジな哀しみを包むオブラートとして絶妙に機能していたのだ。で、だ。その前作から5年を経ての「パート2」は、そういうところからはちょっとばかしズレてしまっている気がして残念だった。いや、もちろん観てる間は、あれよあれよと小気味よく続くドタバタ展開に乗せられて、テンポよくクスクス笑ってしまったんだけど、よくよく考えるとなんでこういう展開になるのかがわからない感じが残る。ま、「ザルタの光」の設定がちょっとムチャなのが原因かもしれない。TV番組「歴史の秘密」の27話『ザルタの栄光』と実際のザルタ王女亡命事件の差異の描き込みが足りなくて、25年の時限装置の意味がよくわからないのだ。あと中盤でパグ犬フランクが隠れてる、MIB本部に何故かある巨大タコもどきエイリアンの死骸の説明も舌足らずだし……とか、凝った話のはずなのにかなり乱暴につないでる編集に、ちと呆れてしまったのだった。オマケに僕が観た大劇場での一般披露試写はクライマックスあたりから音が途切れ始めて、ラストあたりはほぼ無音。シーンとした中に時折ノイズが入るってなエンドクレジットをボーっと観るのは生まれて初めての体験で、ガイジン客の「SUCK!」って叫びとか日本人女性の「ノー・ミュージック!(たぶん音楽がないよーって言いたかったみたいだけど、これでは音楽反対!の意味になっちゃうような……)」って抗議が虚しく響く劇場を釈然としないまま出るハメに。「これで暴動が起こらないなんて、日本の映画ファンって大人しすぎる」と一人怒ってしまった。と、出会いの悪かった映画なので若干、印象も悪い僕なのだった。でも、なにより前作にあった“哀しみ”が今回はどこかサラリーマンの愚痴めいたちょっと矮小化された描き方になってたり、本来もっとエモーショナルな盛り上がりを見せなきゃいけないヒロインの描き込みの薄さも相まって、やっぱり点が辛くなっちゃうのだった。ま、よくできた娯楽映画シリーズなので、多くを求めるのは酷なんだけどね。

Text:梶浦秀麿

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