[ジャスティス] Hart's War
2002年9月28日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にて公開

監督:グレゴリー・ホブリット/原作:ジョン・カッツェンバック/出演:ブルース・ウィリス、コリン・ファレル、テレンス・ハワード、コール・ハウザー、マーセル・ユーレス、ライナス・ローチ、ヴィセラス・シャノン他
(2001年/アメリカ/2時間5分/配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給/宣伝:ムービーアイ・エンタテインメント)

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【STORY】
1944年12月16日、ベルギーのアメリカ軍司令部にいたトーマス・M・ハート中尉(コリン・ファレル)は、上官を前線の空挺部隊へジープで送り届ける途中、米兵に偽装していたドイツ軍に遭遇。逃げようと焦ってジープを木立に激突させ、吹っ飛んだ窪地には、友軍兵達の大量の死体が雪に埋もれて凍っていた。こうして敵軍に捕まった彼は、ナチスの過酷な拷問を受け、友軍の燃料保管施設の場所を吐いてしまう。親が上院議員だったのでイェール大の法科にいた彼はいきなり中尉の肩書きをもらって軍にいたのだが、実戦経験はなく、敵軍にとっては格好の捕虜だった。捕虜輸送列車に乗せられ、ユダヤ人輸送列車とすれ違い、友軍機の誤爆で雪原の徒歩行を余儀なくされるという長旅を経て、年末近くに彼はアウグスブルク郊外の捕虜収容所へ辿り着く。そこでまず目にしたのはロシア兵捕虜達の処刑だった。所長はナチスのビッサー大佐(マーセル・ユーレス)、実はイェールに留学して法科を出たというインテリで、隠れてジャズ=黒人音楽を愛するユニークな人物だ。米兵捕虜側を束ねているのは歴戦の勇士だったウィリアム・A・マクナマラ大佐(ブルース・ウィリス)で、工場労働させられていて脱走しようとしたらしいロシア兵を「犬」扱いするビッサー所長に対し、「我々には差別はない、彼らは連合軍だ」と敬礼してみせるのだった。坊ちゃん将校であるハート中尉にも冷たく、彼が自軍に不利な証言をして拷問から解放されたことを黙っていたために、余計に距離を置かれてしまう。そんな時、米空軍の戦闘機乗り2名が捕虜として到着する。リンカーン・A・スコット少尉(テレンス・ハワード)とラマー・T・アーチャー少尉(ヴィセラス・シャノン)、二人とも黒人兵だった。同じ宿舎になったハートは、メンフィス出身のベッドフォード二等軍曹(コール・ハウザー)がどこかから調達してくる日用品の恩恵を受けつつも、彼が人種差別的に振る舞うことに危惧を感じていた。ある夜、アーチャー少尉のベッドの下から、あるはずのない脱走用具が見つかり、彼はすぐにドイツ兵に処刑されてしまった。ベッドフォードの罠だと確信したスコット少尉は殺意を抱くことになる。マクナマラ大佐の宿舎からも手製ラジオが押収され、米軍捕虜内での確執が高まりつつあった。そして、米軍による空襲があった晩、ついにベッドフォードが殺される。犯人はスコット? 現場に駆けつけたマクナマラは、所長に正式な軍事裁判を要求、ハートをスコットの弁護人に指名して、私刑を延期させようとする。ビッサーは余興気分で裁判の開催をOKする。スコットの無実を証明しようと奔走するハート中尉だったが、この裁判には茶番劇である以前に、何か複雑な裏があるようなのだった。はたして裁判の行方は? またマクナマラ大佐の真意は?


【REVIEW】
第二次大戦中、ナチスの捕虜収容所の中で起きた米人捕虜同士の殺人事件が発生。捕虜を仕切る古参の大佐が要求した裁判は、余興めいた様相をしめしつつ、幾層かの「窮極の選択」を主人公ハートに迫る! ……ってな、特殊戦争ドラマである。というか日本の新本格ミステリーでの「特殊な状況下における犯人探し」ってのを、アメリカ流の「法廷もの」のスリル満点の映画にぶち込んだような、何ともサスペンスフルな映画であった。いや『OK捕虜収容所』的なノリをちょっと期待してたら、その「ド」シリアス版だったのでビックリしたのだ。序盤のヨーロッパの戦場描写にえらく力が入ってるので、戦争を全体的に捉えるような話かなぁと思わせて、収容所についた中盤からは、人種差別とか賄賂とかスパイとか脱走とか、軍人の勇気とか、人間としての正義とかまでが絡んでくる、怒濤の法廷ミステリになっちゃうなんて……。しかも裁判ごっこというか茶番みたいな発端が、いやに真剣になり、裏取引もいろいろあってヤラセめいた様相を見せ、しかもコラテラル・ダメージな思想まででてきて、「ありゃこりゃ収拾つかんのでは?」と思ったら、なんだか感動的なアメリカ軍人魂が描かれて感動的に終わる……みたいなドンデン返し仕掛け。うーむ。で、結局、ロシア兵捕虜が働かされてる靴工場では本当は何が作られてたの? 大御所俳優となりつつあるブルース・ウィリス演じるクセモノの古参大佐は、一体いくつ秘密の計画をかかえてたの? とか、観た人しかわからんだろうけど、派手なドンデンにごまかされそうになりつつ、これってちゃんとツジツマあってんのか?と疑問の雲がもくもくと湧いてしまったことだけは言っておきたい。映画自体はしっかり作られてるので、そこらへんの大事なところがダメな気がして惜しい。特に最初の捕虜になるシークエンス、悪夢的な尋問シーン、POW輸送中の誤爆描写、雪中行軍などなどは、とてもリアルでかつ映像的にもわかりやすいのが「名人芸だなぁ」って、個人的にも賞賛したいんだけどね。

監督は『真実の行方』『悪魔を憐れむ歌』『オーロラの彼方』のグレゴリー・ホブリット。「法廷サスペンス」に「ホラー」に「SF」って作品歴から考えても(しかもどれも手堅い秀作!)、予想外の「戦時中捕虜もの」になるだろうとは思ったけれど、ある意味、正統派なオチに納得しつつ、例のドンデン展開の説明不足には、終わった時ちょっとボケッとしてしまった。いやでも過去の作品のファンは必見だろう。主役の若き坊ちゃん将校ハートを新人コリン・ファレル(『素肌の涙』『私が愛したギャングスター』『タイガーランド』『マイノリティ・リポート』など)が演じている。いちおう原題の「Hart's War」からわかるように、これは彼の心の葛藤、心理の闘いを描いたもの。なので、所長に誘われて彼の私室で密談することになるとか、いろんな細かい状況に翻弄される描写からその心理を想像しつつ観るのがよいのでは? そこが非常に巧みにわかりやすくつくられてるので、さすが!とは思ったのだ。原作小説を読んでみたいんだけど、翻訳は出るのかなぁ?

Text:梶浦秀麿

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