[ズーランダー] Zoolander
2002年9月14日より銀座シネパトスにて公開、以下全国順次公開予定

監督・製作・共同脚本・出演:ベン・スティラー/出演:オーウェン・ウィルソン、クリスティーン・テイラー、ウィル・ファレル、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジョン・ヴォイト、デヴィッド・ボウイ、ウィノナ・ライダー、ナタリー・ポートマン、キューバ・グッティングJr、スティーブン・ドーフ、ヴィンス・ヴォーン、クリスチャン・スレイター、デヴィッド・ドゥカヴニー、レニー・クラヴィッツ、ヴィクトリア・ベッカム(元スパイス・ガールズ)、フレッド・ダースト(リンブ・ビスキット)、ビリー・ゼイン、クラウディア・シーファー&パリス・ヒルトン(スーバーモデル)、ドナテラ・ヴェルサーチ(デザイナー)他
(2001年/アメリカ/1時間29分/配給:配給:UIP映画)

∵公式サイト

【STORY】
マレーシアの首都クアラルンプールのニュース映像から物語は始まる。新首相が誕生したって報道だ。彼の公約は労働者の最低賃金を引き上げることだから、国民の圧倒的な支持受けたのも当然。そのニュースを、苦々しく見守る者達がいた。東南アジア諸国に製糸加工・縫製工場を展開し、これまで低賃金でこき使ってきたファッション業界の重鎮達だ。ここアメリカでも彼らは搾取された労働者達からデモの標的となっていた。なんとかこれまでの御しやすい政府に戻そうと、彼らは14日後に訪米する新首相を暗殺しようと計画する。「殺し屋として最適なのは、世界で最も脳タリン、ウスノロ、トンマ、間抜けな男だ」と重鎮の一人、ムガトゥ(ウィル・ファレル)は言う。そして選ばれたのは、メイル(男性)モデルとして3年連続で世界一の栄冠を手にしてきたデレク・ズーランダー(ベン・スティラー)だった! タイム誌の記者マチルダ(クリスティーン・テイラー)の取材に、トレードマークのキメ顔“ブルースティール”で応じるズーランダーは、ファッション界の最先端を走ってきた自負がある。「目下の課題は新キメ顔“マグナム”を完成させることだけ」と得意気にインタヴューに応える彼だったが、なんと今年はライバルのグランジ系新人モデル、ハンセル(オーウェン・ウィルソン)に賞を奪われてしまう。勘違いして表彰台に昇ってしまったズーランダーは思いっきり恥をかくのだった。さらに慰めてくれた3人のモデル仲間達の不慮の事故死(?)にもショックを受けて、引退を決意して故郷ニュージャージー州南部の田舎に戻る。だが炭坑夫の父親(ジョン・ヴォイト)や兄弟のスクラッッピー(ヴィンス・ヴォーン)とルーク(クリスチャン・スレイター)は、モデルなんてやってる彼の帰郷をまったく歓迎してくれない。そんな時、エージェントのモーリー(ジェリー・スティラー)から再びマンハッタンへと呼び戻されたズーランダーは朗報を聞く。これまで一度も声がかからなかった業界ナンバー1の実力者デザイナー、ムガトゥからメインモデルの打診があったのだ。オーディションでも間抜けぶりを発揮するズーランダーは、何故か見事に合格。ズーランダー担当として派遣された謎めいた女秘書カティンカ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に連れられて、埠頭にある秘密のデイ・スパでエステ三昧、実はここで洗脳されて暗殺者に仕立てられるのだった。記者のマチルダは、正体不明の男(デヴィッド・ドゥカヴニー)からタレコミを受け、ズーランダーが恐ろしい陰謀に巻き込まれていることに気づく。なんとか彼を助けようとするマチルダ。だがデXXXド・XXイ(本人)の審判の元でハンセルと対決し、ファッションモデル界の王座に返り咲いて、恵まれない子供達のための児童学習センターを設立したいって夢に燃えているズーランダーは、はたして彼女の言うことを信じるのか? また父親との確執は解消するのか? そして最終兵器“マグナム”は完成するのか? それともマレーシア新首相を暗殺した男になってしまうのだろうか? ……それは映画を見てのお楽しみ!


【REVIEW】
超オススメ! 特に男性ファッションモデル必見! その予備軍も観るべし! あとファッション業界で活躍してる人や「夢はデザイナー」ってなワナビーズもモチロン必見! ついでに炭鉱労働者にも観て欲しい傑作シニカル・コメディだぁ!……ってのは半分冗談だけど、いやもうサイコーに馬鹿馬鹿しくって、オマケに豪華ゲスト陣もいろいろ愉しめる快作(怪作?)である。ベン・スティラー偉い! え?「豪華ゲスト陣」って『オースティン・パワーズ ゴールド・メンバー』のホメ方みたいだって? アレもゲスト出演者は凄いけど、大笑いできるのは最初の5分くらい、内容自体はたいした面白さはないかも、コレに比べればね。この映画を観た試写室を出た後、興奮してドコが面白かったかを延々と喋り合いながら歩く女性二人連れの後ろをずうっと歩くことになってしまい、なんだか凄く楽しい気分を味わったのだ。『ゴールド・メンバー』の披露試写で「後半寝ちゃった」とか言ってる娘が前にいたのと好対照なので(いや、見どころもあるにはあるんだけど)、ニヤニヤしてしまう気分、わかってもらえるだろうか?

男性モデルやファッション業界を痛烈に皮肉った設定が、まず凄い。「究極のナルシストで、脳みそは単純、しかも間抜けってのが男性モデルだ!」というのが偏見ではなく真実のように思えてしまうし(笑)、ファッション業界がいかに後進国からの搾取で成り立ってるのかが、よくわかった気分にまでなる社会派な視点も難なく手に入れることさえできる(笑)。ギョーカイ用語で川上・川下とか言うんだけど、高級ブランド服はもとより、裏原で売ってるようなヘンテコ先鋭ブランドのめったやたらと高い値段なんて、その川上となる素材の原価と比べると本当にアホらしくなる。んだけど、そこをアホらしいと思わないこと=「イケてるブランドを着ている私・俺って、なんてカッコイイんだろう」という思い込み・幻想こそ、映画なんかより遙かに強力なフィクション(虚構)であることは確かだ。ルーズソックスや厚底サンダルやヘソ出しローライズ・ジーンズ(あとユニクロとか)なんていうここ10年の流行ファッションの凶悪な伝播力ったら、ブームになった映画の影響力と比較してみても段違い。というか映画産業=ショウビズ自体がファッション・ビジネスと骨絡みになってて、本作の批評眼がすぐさま自らにも向いてしまうことをベン・スティラーもしっかり自覚しているのが面白いのだ。つまり「有名人のカメオ出演」ってイヴェント自体が、この映画のテーマと密接に関わっているワケ。まさに「痛烈」の名に相応しい秀逸な設定なのである。もともと“デレク・ズーランダー”というキャラクターは、1996年のVHlファッション・アワードで上映する短編「Derek Zoolander : Male Model」のために、ベン・スティラーが脚本家ドレイク・サザーと共に創りあげたもの。本作のロケでも2000年秋のVHlヴォーグ・ファッション・アワードの入場口や舞台が使われたというから、自分達の生業をモロに皮肉にパロッた作品を見せられた会場のギョーカイ人達の反応を想像してみるのも楽しいかも(日本じゃ「不謹慎だ」とか言われてムリだろうなぁ)。新作ショーのアイデアとして浮浪者ファッションに注目したムガトゥって、案外スルドいかも知れないのだから。

主演、監督、原案・共同脚本、プロデューサーという1人4役をこなしたのが、アメリカの人気ヴァラエティTV番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身のベン・スティラー。監督作『リアリティ・バイツ』(94)『ケーブル・ガイ』(96)、主演作『アメリカの災難』(96)『メリーに首ったけ』(99)『ミート・ザ・ペアレンツ』(00)『僕たちのアナ・バナナ』(00)などで鬼才を発揮してきた(何故か去年はキリン「氷結果汁」のCMにも出演)。特に今回は同時期日本公開の話題作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)で共演しているオーウェン・ウィルソン(『エネミー・ライン』の主役でもあった)とのスーパーモデル対決(笑)があるので、ぜひ観比べて欲しい。またヒロイン役のクリスティーン・テイラー(『ウェディング・シンガー』)は本作での共演後、ベン・スティラー夫人となったそうで、その情報を頭に入れて観るとなかなか感慨深い(ベンやウィルソンとのドラッグ乱交シーンまであるし)。他にも公開中の『バイオ・ハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチがおかっぱのロシア系武闘派として初の(?)コメディエンヌ演技で活躍したり、アンジョリ・パパの渋いジョン・ヴォイトが煤だらけの炭坑夫役で出てくるかと思えば、ベンの実父ジェリー・スティラーの方はズーランダーのエージェント役で出演(しかも葛藤する演技まである!)、はたまた『オースティン・パワーズ』『オースティン・パワーズ:デラックス』のウィル・フェレルがオカマのファッション界のドンとして出てくるなどなど役のある人達はもとより、ウィノナ・ライダーやナタリー・ポートマンから元スパイス・ガールズのベッカム夫人(映画『スパイス・ザ・ムービー』に出てた)までセレブ40人近くが本人役で豪華カメオ出演しているってのもモチロン見どころだ。

余談。劇中、まるで80年代後半のコカコーラのお洒落なCMそのままの、「仲間がいて、はしゃいで楽しくってサイコー」ってな感じのシーンがあって、僕は当時、特に「学食編」のCMに秘かに憧れてたので、そのシーンの顛末には大笑いしてしまった。挙げ句に映画自体のオチのオマケにまでなってるのだ。単なるチャカシじゃなくって、たぶん監督本人にも愛着があったんだろうなぁと思わせて、なんとも好感触。お、ベン・スティラーって僕と同じ歳だ、どうりでワム!の「ウキウキ・ウェイク・ミーアップ」にマイケル・ジャクソンの「ビート・イット」、ブロンディの「コール・ミー」にデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」、そしてフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「リラックス」と、我らが青春の80年代を嬉し恥ずかしく思い出してしまうような、お馴染みのナンバーがフューチャーされまくってるワケだ。好き嫌い以前に、つい口ずさめてしまう曲ばっかだもんなぁ……。いやいや80年代って、ひょっとしてしっかりリバイバルしてるのかも。当時を実体験した者としては、なんとも言えない奇妙な感慨があって、「流行」ってもんの不思議について考えてしまう今日この頃なのであった。

Text:梶浦秀麿

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