[CQ] CQ
2002年11月下旬よりシネセゾン渋谷ほかにて公開予定

監督・脚本:ローマン・コッポラ/製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラほか/音楽:メロウ/出演:ジェレミー・デイヴィス、アンジェラ・リントヴァル、エロディ・ブシェーズ、ジェラール・ドパルデュー、ジャンカルロ・シャンニーニ、ビリー・ゼーン、ディーン・ストックウェル他
(2001年/アメリカ/1時間28分/配給:東北新社)

∵公式サイト

「失恋事件」とC級(笑)SF映画が交錯するメタ青春物語!
悩める若き映画監督が、1969年のパリを疾走する……。


【STORY】
「現在から31年後の遥かな未来」である2001年。ミスターE(ビリー・ゼーン)率いる月の革命集団の出現に「このままでは1968年5月以来の学生の反乱が起きてしまう」と危惧した世界協議会議長(ジョン・フィリップ・ロー)は、美貌の女スパイ“ドラゴンフライ”(アンジェラ・リントヴァル)に協力を要請した。さっそく月へ飛んだ彼女は、ミスターEをセクシーな魅力で翻弄し、彼の開発した秘密兵器を奪取するが……。――というB級SF映画『ドラゴンフライ』を撮影中の、1969年9月のパリ。監督のアンドレイ(ジェラール・ドパルデュー)は、学生デモに参加していた美貌の女子大生ヴァレンタイン(アンジェラ・リンドヴァル)を主役に抜擢して張り切っていた。だがワンマンなプロデューサーは「結末が大人しすぎる」と彼をクビに。若手天才監督フェリックス・デ・マルコ(ジェイソン・シュワルツマン)を起用するも、ハプニングで彼も降板。そこで編集スタッフだったアメリカ人青年ポール(ジェレミー・デイヴィス)が代わりの監督に指名されることになる。ベトナム戦争への徴兵を逃れ、フランスで映画修行中のポールには願ってもない話のはずだが、戸惑いも隠せない。折しも同棲中の恋人マルレーヌ(エロディ・ブシェーズ)との仲は映画に熱中し過ぎて破局寸前だし、細かな日常生活を追った自主映画を撮り続ける意味も見失いかけていた。だがプレッシャーを感じながらも、ヴァレンタインの不思議な魅力に惹かれつつ、彼は斬新な結末のアイデアを模索する。そうして新たな年、1970年がやってきた――。


【REVIEW】
『CQ』といえば、まず思い浮かぶのはアマチュア無線で呼び掛けの時に「CQ、CQ、どなたか応答願います」ってな風に使うコール・サイン(「Call to Quarters」の略とか「Come Quick」の略とか「各局」を意味するとか、何の略称かは諸説ある)だ。だから本作冒頭のシンセ音に混じる「ツートンツートン、ツーツートンツー(=CQ)」が往年のSF映画の効果音として「懐かし新しいレトロな未来感覚」を呼び覚ますキイ・トーンであるのと同時に、不特定多数の観客への「呼び掛け」という意味も持つのだろう。いや半分冗談だけど、ディノ・デ・ラウレンティス製作の『バーバレラ』(1967)って往年のSF映画をモデルにした劇中アダルトSF映画『ドラゴンフライ』の時代錯誤なB級、いやC級テイストを謳ってる説もアリかも。つまりCQ=C級(Cheap Quality)……失礼。あ、本作中では『CQ』は「Seek You(あなたを探せ)」に引っ掛けてある――つまり主人公ポールは映画作りというプロセスの中で、劇中映画のヒロインに命じられて“自分探し”の旅を繰り広げることになるのだ。

フランシス・F・コッポラの御曹子ローマン・コッポラの初監督作品で、父の『地獄の黙示録・特別完全版』が特別上映された2001年カンヌ国際映画祭でお披露目され、しっかり好評を博した話題作である。ローマンは若くして『地獄の黙示録』のロケに同行、数作の脚本・プロデュースにCMやミュージッククリップの監督、さらに妹ソフィアの監督デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』でも第二班監督を勤めたというキャリアの持ち主だけあって、その処女作は堂々とした、しかも肩に力の入らないスタイリッシュさで「映画」そのものさえ俯瞰してみせる洒落た快作となった。ポール役は『プライベート・ライアン』『ミリオン・ダラー・ホテル』のジェレミー・デイヴィス。その頼りな気だが実は頑固一徹かもってな見栄え(笑)がハマってる。彼の恋人マルレーヌ役を『天使が見た夢』『キッドナッパー』『日曜日の恋人たち』『ラヴァーズ』『SEX:EL』のエロディ・ブシェーズがいつもの短髪をロングにしてフォトジェニックに演じ、またトップモデルのアンジェラ・リンドヴァルが映画初出演ながら“ドラゴンフライ”とヴァレンタインの一人二役で健闘してみせた。他にも『ヴィドック』で主役をはったベテラン俳優ジェラール・ドパルデューがアンドレイ監督役を怪演し(後半はまさにヴィドックみたい!)、『バーバレラ』に出てたジョン・フィリップ・ローやL・M・キット・カーソンも劇中映画やポールの空想の中で活躍、妹ソフィアもプロデューサーの愛人役(?)でチラッと顔を出し、はたまた『タイタニック』でヒロインの婚約者を演じたビリー・ゼーンがミスターE役で、さらにウェス・アンダーソン監督の『天才マックスの世界』のジェイソン・シュワルツマンが奇矯な若手「天才」監督役で出てくるなど、配役の遊び心も満載なのだ。

――と、総じて言えばなかなか手練の「青春映画」なんだけど、実は本作の主題は「振られ男の恋愛論」にして「ちょっと苦いサクセス・ストーリー」だったりする。だから本来は暗く重くなるはずだし、しかも革命騒ぎの余韻がベトナム反戦運動でくすぶり続ける「69年のパリ」が舞台なので深刻な社会派アプローチもあり得たはず。でも本作では映画製作の舞台裏を描く「内幕もの」の枠を守って「2つの劇中劇の製作過程」という構成にきっちり収め、その上で60年代ファッションや風俗の描写にさりげなく凝ってみたり、ファンタジーめいた事件を挿入して幻想味を添加したり、さらに様々な映画の引用や前述のキャスティングみたく贅沢な遊びも揃えて、内省的な芸術映画の晦渋さに落ち込むことを回避し、重い主題にもチラリと触れながらも、全体的に「大人の寓話」めいた軽やかさを生んでいるのだった。そこに賛否はありそうだけど、タイトルで「C級」と銘打たれたからには(←オイオイ)、いやB級SF映画が題材であるからには、もはやニコニコと愉しむ他はないワケであった。ただ、作家性の強い映画って実はみんな「喪失した自らの過去」への追憶・思慕であり、その記憶を反復する行為なのだと思って観てあげると、本作をより深く味わえるかもしれないんだけどね……。

Text:梶浦秀麿

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