[ビロウ] BELOW
2003年2月22日より日比谷映画ほか全国東宝洋画系にてロードショー公開

監督:デヴィッド・トゥーヒー/脚本:ルーカス・サスマン、ダーレン・アロノフスキー、デヴィッド・トゥーヒー/製作:ダーレン・アロノフスキーほか/出演:マシュー・デイヴィス、ブルース・グリーンウッド、オリヴィア・ウィリアムズ、ホルト・マッキャラニー、スコット・フォーリー、ザック・ガリフィアナキス、ジェイソン・フレミング、ジョナサン・ハートマン、デクスター・フレッチャー、ニック・チンランド
(2002年/アメリカ/1時間45分/配給:ギャガ=ヒューマックス共同配給)

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【STORY】
海面にチカチカと光、双発偵察機の副操縦士が気づく、漂流者だ。「燃料が足りない、すぐ救助をよこす」と書いて水筒に詰め、投下する。すぐさま基地で暗号タイプライターによって電信が送られ、夕闇の大西洋に浮かぶアメリカ海軍の潜水艦タイガーシャークに届く。艦橋に出ていた艦長代理のブライス大尉(ブルース・グリーンウッド)は、部下のオデル少尉(マシュー・デイヴィス)から救助指令を伝えられて、「一日あれば着くが…」と乗り気でない様子。だが「まあいい、勲章が待ってるからな」と既に何か手柄をたてた風情で、救助に向かう。1943年8月のことだ。現場で英国=味方側の救命ボートであることを確認したのもつかの間、レーダーに反応、水平線に煙が見えてくる。「加速してるぞ!」と急いでボートの生存者3名を一人づつ艦内へ。と、三人目は女性だった! 急速潜行の指示に艦内は騒然となるが、「珍客だ!」というニュースも――「潜水艦に女は不吉」という迷信もあって――伝言ゲームのように食堂から機関室まで駆け巡った。「君の船に何が?」と訊くオデルに、「病院船ジェームズ号よ、2日前に…。爆発前に満月が…」と少し混乱している彼女の名はクレア・ページ(オリヴィア・ウィリアムズ)、船にいた看護婦らしく、気丈に病人の手当てを自ら申し出る。北アフリカから300人の病人と70名の乗員を乗せてイギリスに向かう途中、ドイツ軍のU ボートに撃沈されたらしい。だが何かがひっかかるオデル。敵艦が頭上を通り過ぎる間、機関停止して息を潜める艦内。と、突然陽気な音楽が鳴り響く。ベニー・グッドマンのレコードが何者かにかけられたのだ。慌てて止めるが、時既に遅し、「爆雷投下音!」とソナー係が叫び、大量の爆雷が降り注ぐ! 激しく揺れる艦内で乗員はシェイクされる。何とか落ち着いた頃、救助した一人がナチだと判明、疑惑は彼に向けられ、ブライス大尉に射殺されることになる。「私には患者の一人だったのに」と落ち込むクレアも、ドイツ兵を庇ったことで移動の自由を制限されることになった。しかしブライスが眠りについた頃、またレコードが鳴る。走る大尉は誰もいないのに目の前で止まるレコードに激高してプレイヤーを壁に投げつけた。クレアはひょんなことからそのレコードが前艦長ウィンターズ少佐のものだと知るのだが…‥。英国に立ち寄れば550マイル迂回することになるため、艦はコネチカットの海軍基地へまっすぐ向かおうとするのだが、この後、彼らは“何か”に執拗に邪魔されてしまうことになるのだった。

ナチの死体に悪戯してクレアを驚かせたスタンボ(ジェイソン・フレミング)は「引き返せ」という幻聴を聞いて「呪いだ」と口にし、浮上しようとすると運悪く敵艦に察知され、空気の交換もできないまま、またしても潜行する羽目になる。しかも鋼鉄の鍵爪付きケーブルを地引き網の要領で何本も海中にひきずる敵のせいで、タイガーシャークの潜望鏡は破損。側面も損傷して二重の外殻の亀裂からオイルが漏れだしてしまう。海面に浮かぶ油で察知されることを考え、浅瀬の海底に停止したまま船外作業が命じられる。だが作業中、オデルはクアーズ中尉(スコット・フォーリー)から、前艦長ウィンターズの死について意外な事実を聞く。ブライス艦長代理からは「Uボート撃沈という手柄を立てた後、浮上して戦果を確認していた時に事故死した」と聞いていたのだが、実はその時、生存者がいたというのだ。「射殺を命令するウィンターズ少佐に抵抗して揉み合う内に頭を打って落ちた」とクアーズが言ったとたん、彼は不慮の事故で死亡してしまうのだった。さらに艦は無気味な出来事に見舞われる。艦外の音がモールス信号で「BACK(帰れ)」と打っているように聞こえたり、舵が全く動かなくなったり…‥。「本当は俺達、もう死んでるのかもな」という軽口が、冗談に聞こえない。彼らは酸素不足ないし水素中毒で幻覚を見ているのか、それとも…‥。油圧を取り戻すため、水素の充満する蓄電池室の修理が行われるが、これも大惨事を呼ぶことになり、もはや艦は浮上もままならない。前艦長の事故時に一緒にいたルーミス(ホルト・マッキャラニー)も何かを見て錯乱。こうしてタイガーシャークは、やがて全ての怪異の謎が収束する「ある地点」を目指すことになる!

【REVIEW】
「ビロウBelow」と言われてもピンとこないので辞書をひくと、「下」とかいう意味らしい。ああ『ホワット・ライズ・ビニース』(ハリソン・フォード&ミシェル・ファイファー主演)の「ビニースBeneath」と同じような語か。意味シンと言えばそうかもだけど、ちょっとイメージ寄りの題名だなあ。ま、何が「下」にあるのかはラストのラストで判明するんだけど、これがなかなか渋いって感じ。この映画は潜水艦「サスペンス」な出だしの展開から始まって、「ミステリー」やら「ホラー」やら「ゴースト・ストーリー」やら「サイコ・サスペンス」やら「ヒューマン・ドラマ」やら「アクションもの」(?)やら、一体どこに落ち着くのかわからんぞってな風に観客を惑わした上で、なるほどって感じでひとまず理に落ちるオチに辿り着く、という、ちょっとトリッキーな「潜水艦もの」なのである。「お化け屋敷もの」で何故みんな外に逃げないのか?って素朴な疑問を抱いた人なら、この「逃げ場のない密室」と化した潜水艦内で怖い目にあった登場人物達に、リアリティを感じるだろう。

この「リアル」ってのが曲者だ。対爆雷戦とか鎖引きずり攻撃とか船外活動とか蓄電池室修復とか艦内火災とか船影識別ファイルとか、第二次大戦時の潜水艦の「リアル」が、随所に活写されているのがミソといえばミソで、それがホラーな「呪い」描写とアチコチで衝突しつつ、理屈で考えれば「恐怖故の幻覚」なのかもとも一方で思わせておいて、いや(本作のヒロインがママ役で出てた)『シックス・センス』的な「死んだと気づかずに永遠に大西洋を彷徨ってる幽霊船、もとい幽霊潜水艦」ってオチもアリなのかも、とか余計な「先読み」を観客に促す小技を繰り出すってのが今風と言えそう。逆に言えば大枠自体はオーソドックスな新本格ミステリ風なんだけど、ってヤバい、ヒントを超えてるな、要はギミックをこそ楽しんで欲しい映画なのだ、で終わっておこう。

『π』や『レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフキーが原案・製作・脚本。だけど彼は映像的な「手法」にこだわる人だから…‥ってな期待の仕方をすると間違い。あくまでアイデアのギミック性にだけ彼の味が残ってる。で、共同脚本で監督なのが、『アライバル/侵略者』『ピッチブラック』(『トリプルX』のヴィン・ディーゼルの出世作)のデヴィッド・トゥーヒー。彼の渋い(ちょい地味な)持ち味で映像はコントロールされているので、そこに好悪が別れかもしれないが、手堅いからOK、と僕は思った。艦長代理ブライス大尉役に『13デイズ』でJFケネディを演じてたブルース・グリーンウッド(他に『スィート・ヒアアフター』『ダブル・ジョパディー』『英雄の条件』など)。ヒロインのクレア役は『ポストマン』『天才マックスの世界』(Vのみ)『シックス・センス』『抹殺者』『ラッキー・ブレイク』のオリヴィア・ウィリアムズ。一応の主役はマシュー・デイヴィス(『タイガーランド』『キューティ・ブロンド』など)なんだけど、ちと傍観者的役回りなのが可哀想かな。

Text:梶浦秀麿


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