[Mr. ディーズ]
MR. DEEDS

2003年2月15日よりニュー東宝シネマほか全国東宝洋画系にて公開

監督:スティーブン・ブリル/出演:アダム・サンドラー、ウィノナ・ライダー、ジョン・タトゥーロ、アレン・コバート、ピーター・ギャラガー、ジャレッド・ハリス、エリック・アバリ、ピーター・ダンテ、コンチャッタ・フェレル、ハーブ・プレスネル、スティーブ・ブシェミほか
(2002年/アメリカ/1時間36分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)

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【STORY】
いきなり冬山の絶景。無謀な老富豪が天候の崩れに避難を勧めるガイドに逆らい、エベレストに単独登頂。3時間後、てっぺんでカチンコチンになって凍死してるのを発見される。この富豪、全米屈指の大メディア企業ブレイク社の会長プレストン・ブレイク(ハーブ・プレスネル)だったからマスコミは大騒ぎ。400億ドルもの莫大な株式遺産を継ぐのは誰か? 調査の結果、ブレイク社の重役チャック・セダー(ピーター・ギャラガー)と顧問のセシル・アンダーソン(エリック・アバリ)は、ニューハンプシャー州のド田舎マンドレイク・フォールズにジェット・ヘリを飛ばす。ここに住むロングフェロー・ディーズという男が唯一の相続人だったのだ。アットホームなピザ屋をやってるディーズ(アダム・サンドラー)は、趣味のカード・ポエムを常連に朗読しては喝采を浴びるってな「いい人」。ホールマーク社のカードに採用されるのが夢だが今のところ全敗中。で、セダーから大伯父さんの遺産の額を聞かされてもお悔やみを言うだけで特に驚かない。町の連中もピントのズレてるのばっかりだ。セダーはさっさと彼をニューヨークに連れてって株を全て買い取り、それを投資家連中に売っ払ってしまおうと考えていた。盛大に見送られ、(コネチカットのウェンディーズ経由で)NYに降り立った彼を待ち受けていたのは、「世紀の遺産相続」に湧くマスコミ陣だった。亡くなった会長の邸宅に寝泊まりする事になったディーズだが、豪華なフロアで山びこごっこを楽しんだり、俊敏さを誇る召使いのエミリオ・ロペス(ジョン・タトゥーロ)と「秘密の右足」で遊んだり、フランス系の投資家と密談中のセダーの所に何も知らずに押し掛けたり、契約金でゴネに来た花形アメフト選手の鼻っ柱を挫いたりと、至ってマイペース。

ゴシップTV番組「インサイド・アクセス」のアシスタント、ベイブ・ベネット(ウィノナ・ライダー)は、同僚のマーティに暴漢の振りをさせ、ディーズの目の前で襲われているところを助けてもらう。「学校の保健室の女医をしていて、名前はパム・ドーソン」と偽って彼に取り入ったベイブは、レストランで無礼なセレブをぶちのめしたり、ジョン・マッケンロー(本人)と意気投合して酔い過ぎて、乱痴気騒ぎしてしまったディーズの姿をスクープすることに成功。しかし二度目のデート中、火事で絶体絶命の7匹の猫と飼い主を救出したディーズの映像を、まるっきり逆の「極悪人」として編集・報道する上司やマスコミの感覚自体にだんだん嫌気がさしてくる。一方、ピザ屋を任してきた母代わりのジャン(コンチャッタ・フェレル)とのチャットでの助言で奮起して、騙されてるとも気付かずに、詩にのせて愛を告白するディーズ。その間抜けさの奥の純真な優しさに接して、思わずベイブは泣きじゃくってしまうのだった。思い悩んだ彼女は本当の事を告げようとするが、それを知った上司はセダーと共謀。入念なリハーサルをして、プロポーズの返事をもらうディナーの準備を整えていたディーズの前で、セダーは「インサイド・アクセス」にチャンネルをあわせる。その番組ではパム/ベイブの正体をバラす報道が! 傷ついたディーズは遺産は全額寄付することにして、故郷に戻ってしまうのだった。直接謝って愛を伝えようと追っかけてきたベイブは、ジャンとの壮絶な対決に辛くも勝利して会うことを許されるが、凍った湖で溺れかけてディーズに助けられる羽目に。「またヤラセか」と疑うディーズは、彼女の告白に対しても「君がわからないよ、すまない」としか言えない。そんな時、ブレイク社が細切れに売却され、5万人もの従業員が解雇されそうだとニュースで知った彼は、再びNYへ。ハゲタカのような投資家が大集合している株主総会に単身、乗り込むのだが…‥。

【REVIEW】
あ、スティーブ・ブシェミの出番を粗筋↑に入れ損ねた。マンドレイク・フォールズのパートにクレイジー・アイズってあだ名の変人役で、3度ほど出てくるんだけどなぁ…‥ま、それは観てのお楽しみって事で。いや彼はアダム・サンドラー映画の常連で、ヒッピーくずれのホームレス役とか、コメディー・リリーフ的にしかいつも出てこないんだけど(最初と最後に登場して決める『ウエディング・シンガー』ではノンクレジット出演! 奥ゆかしいにもほどがあるって)、僕は「ブシェミ、今度はどんなしょうもない役で出てくる?」ってのが楽しみで楽しみで…‥ほとんどその興味だけでアダム・サンドラー映画を観続けてしまっていたりするのだった。あ、でも今回のブシェミはちょっとイマイチ、というか変人過ぎかも。おっと本題にいかなきゃ。

主人公は純朴な田舎者、で、いきなり日本円にして約5兆円もの大金持ちになっちゃう。でも欲に目が眩む訳でも大博打にうって出ることもなく(しかしさり気にミーハーな大盤振る舞いをしちゃったりはする)、マスコミなど周囲の羨望や悪意もそんなに意に介さずにいるって「いい」性格。なんだけどウィークポイントは恋の病…‥ってな展開のコメディ+ラブ・ストーリーである。ついでに「子供の頃の夢」とか「正しいこと」とかが称揚され、なんだか気の効いたドンデン返し(意外な真実の発見)でハッピーな気分になれるエンディングへとなだれ込むはずだから、まさに娯楽映画の王道パターンものでもある。とはいえ変なギャグが細かく入っていて、下品な笑いを呼びそうなところが、映画全体のバランスからして「瑕」だと批判されそうな恐れも、ま、無いとは言えない(凍死ネタとか不死身の凍傷「ブキミ」足とか足フェチとか女同士の特撮アクション・バトルとか燃える猫とかだね、例えば)。でもこーゆーのがアダム・サンドラー主演映画であって、(もうすぐ公開のポール・トーマス・アンダーソン監督最新作『パンチドランク・ラブ』は別格として)何か凄いものを期待し過ぎるのは間違ってるのだ。いや、観終わった時「最高!」って快哉を叫びそうになった僕みたいなのが言うと、あんま説得力ないかもだけどさ…‥。うん。バカバカしいんだけど個人的には大好きな映画だ。アダム・サンドラーのダサイくらいに野暮臭いコメディって、慣れると癖になるってのが、よーくわかった。持続する野暮臭さっての勝利なのかもしれん。

本作のウリのひとつがヒロインを演じる、最近は万引きゴシップでお騒がせのウィノナ・ライダー。やっぱ巧いわ。序盤のサバけててスレたポーズしてるTV関係者ってのは似合わんとか、女子プロレスまがいの捨て身のキャットファイトってなギャグは寒い(ちょっと痛々しい)とかってのも若干あるのだが、それはどうでもいい。あの、主人公に拙いけれど誠実な愛の告白をされて、騙してる罪悪感と愛の芽生えとがせめぎ合う感情が爆発し、ドアの裏で思わず慟哭してしまうシーン! そこでの表情演技の絶妙さ! うおーっ! って僕は思わずもらい泣きしそうになっちまった。くだらない見え見えの展開なのに、実にエモーショナルなのだ。ここだけでも観る価値は充分あると思う。他、ジョン・タトゥーロのちょっとキショい怪演とか、ピーター・ギャラガーの悪役ぶりとか、「あぁしまったぁ配達サボったのバレちゃった、あ〜あ」のピーター・ダンテとか、ヒロインのデマカセ故郷のはずが実在したウィンチェタートムニャムニャの住民&ヒネたガキ三兄弟とか、本人役で出てくるジョン・マッケンローとかとか、意味無くチラっと出てくるキャラも皆、愛すべき名優に見えちゃったりして。あ、一応、製作総指揮&主演のアダム・サンドラー(『ウエディング・シンガー』『ウォーターボーイ』『ビッグ・ダディ』『リトル・ニッキー』など)も、たぶん他の人が演じたら「キャラ固まってないやんけ!」って突っ込まれそうな役柄なのに、彼独特の自然体のヘナり方で好演していたとホメておこう。できれば彼の次回主演作『パンチドランク・ラブ』と比較参照するためにも、ぜひ観ておいて欲しいと思うのだった。

余談。この映画、『或る夜の出来事』(34)『失はれた地平線』(37)『我が家の楽園』(38)『スミス都へ行く』(39)『素晴らしき哉、人生!』(46)などの名作群で知られるフランク・キャプラ監督の古典的作品『オペラハット』(36)が元になっている。邦題は何故か『オペラハット』だが原題は『Mr. Dees Goes to Town』、まんまオマージュ作であるとわかる(あ、ちなみに『スミス都へ行く』の原題は『Mr. Smith Goes to Washington』)。こっちの遺産は「2千万ドル」、ディーズは「油脂工場の若き経営者」ってな設定だ。ヒロインはピューリッツァ賞受賞の敏腕新聞記者ベイブ・べネット、名乗る偽名は「メリー」・ドーソンで、失業中の速記者の振りをしてディーズに近づく。そうそう富豪マーティン・センブルはイタリアで自家用車飛ばし過ぎて事故死して、シダー「弁護士」はマンドレーク・フォールズへ「汽車」でやってくるのだった。さて、都会に出たディーズは同じようなことをしてゴシップ・ネタになるんだけど、演じてるのがゲーリー・クーパーなのでイチイチ格好いい。30年代アメリカの深刻な不況ってのが背景になってるため、失恋の痛手の後、ひょんなことで農民救済事業に手を出して、シダーらに「精神錯乱していて財産を受け取る権利はない」って訴えられるのだ! で、後半は「禁治産者判定」裁判劇になるという凄い展開。困窮農民が傍聴席に溢れてたり、オーストリアの精神科医による躁鬱病の図説があったり。シダー弁護士は「政府が根底からくつがえる! 愚劣な夢を見ている!」と叫ぶことになるのだった。う〜む、コメディなのに社会派な展開だ(笑)。だからキャプラの作品としてもちょいバランスが悪いんだけど、当時の観客も出口の見えない不況に苦しんでる大衆なので、このディーズの「反社会的」社会主義運動の正否に固唾を呑むことになる。で…‥ってのはビデオでも観てもらうことにして。さてそのリメイク版『Mr. ディーズ』だ。現代の株主総会における「会社重役」シダーの場合、「金を嫌えってか?」くらいしか言えない――ってのが、何とも複雑な気分になっちゃうのだ。でもアダム・サンドラーが「政府が根底からくつがえる」ほどの「夢」を語るのも似合わないから仕方ないのかなぁ…‥。遺産額は2千倍になっても「夢」は若干縮小気味(2千分の1くらい?)に思えるのは気のせいか? それとも…‥。ま、でも「あなたを酷く傷つけた…生涯あなたに許しを乞うつもりよ」とか下手な詩でも「誇りに思うわ」なんて言ってくれる伴侶を得ること、男だったらそれくらい愛されてみたいってな「夢」の方が、昨今では失業者救済事業より2千倍くらい実現不可能な「愚劣な夢」なのかもしれないと思うと、ちょっと哀しい僕なのであった。

Text:梶浦秀麿


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