[戦場のピアニスト] The Pianist
2003年2月15日より日劇1ほか全国東宝洋画系にてロードショー

監督:ロマン・ポランスキー/原作:ウワディスワフ・シュピルマン/音楽:ヴォイチェフ・キラール/出演:エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、フランク・フィンレイ、モーリーン・リップマン、エド・ストッパードほか
(2002年/フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス/148分/配給:アミューズピクチャーズ)

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ナチス・ドイツ占領下のポーランド。侵略から解放までの戦火を生き抜いたユダヤ人ピアニストの話。

【STORY】
1939年9月。ユダヤ人ピアニストのウワディスワフ・シュピルマンが、ワルシャワのラジオ局でいつものようにショパンを演奏していたその日、ナチス・ドイツはポーランドを侵攻。その爆撃の中で彼は、彼を尊敬しているという、友人の妹ドロタと出会う。同じ音楽家である2人はひかれ合うがそれも束の間、ユダヤ人に対し次第に迫害は強まっていき、そしてポーランドはドイツに降伏する。ドイツのワルシャワ占領下、シュピルマン一家はゲットー(強制的に定められたユダヤ人居住区)への移住を余儀無くされる。ウワディスワフは、住み慣れた家からの強制撤去の日、重い表情で見送るドロタに「こんな事は長くは続かない」とにこやかに別れを告げた。

ゲットー内のカフェでのピアノ弾き、収容所行きを自分1人すんでで免れ、もぐりこんだ苛酷すぎる労働グループ、そんな数年を経て遂にゲットーを脱出を決意する。

脱出後、旧友にかくまわれたアパートはゲットー地区を見下ろせる一室で、ウワディスワフはその窓からゲットー蜂起の悲しい顛末を目の当たりにし、果たして逃げて来た自分が正しかったのか? そう自責するのだった。その後も失望、恐怖、ペテン、飢え、ドロタとの再会、淡い失恋、そしてピアノへの思いをなめながら、解放の日を夢見て隠れ家での生活に耐える。ワルシャワ蜂起で、街の大部分が壊滅する中、それでもドイツ軍から逃れ隠れ生き延び続けるが、とうとうある夜1人のドイツ人将校に見つかってしまう。「職業は?」「ピアニストです。」ウワディスワフの指が鍵盤にそっと触れ、静かにそして徐々に力強く、2人きりの暗闇をショパンが流れだす。

【REVIEW】
かつてポランスキー監督は『シンドラ−のリスト』のオファーを断っている。なぜなら、彼自身がゲットー内の生活や、そこからの脱出経験者であるため、誰もが知る歴史的悲劇があまりにも個人的すぎるからという理由。“手掛けるならばあくまでも冷静に、公平に”というのが、ようやく68歳になって『戦場のピアニスト』を演出する決心に至るまでの考えだったようだ。

これまでにポランスキーは、『死と乙女』でナチス時代に拷問を受けた主人公の復讐劇を描いているが、ここでは被害者である主人公のヒステリックな行動と結末が、最終的には“一体どちらがひどいのか?”という疑問をみる者に残す。これは、ポランスキー流の、客観性を失った世論や感傷に対する問題呈示であると同時に、彼自身に客観性を取り戻すための戒めだったのかも知れない。

そんな経緯を経て自身の精神的成熟を認識したかどうかはわからないけれど、ついにこの作品を受けることとなったのは『戦場のピアニスト』の原作である『The pianist』の、クールな視点への共鳴だった。

原作はポーランドで人気のあったピアニストの回想録に基づくもの。究極の状況で、自分の命をはって人助けや偉業を為せる人間がそういるわけでもなくて、だからこそ、今までにそういう【ヒーロー】はドラマチックな題材として選ばれて来たわけだけれど、この主人公は正義をかけて人を助けたとか、ナチスドイツに立ち向かったりはしない。かといって、ナチスの残虐行為ばかりを責め立てたものでもない。弱い一人の人間がどうやって生還したかというもの。

あるインテリの青年がいて、不幸にもドイツ占領下のワルシャワで迫害を受けたユダヤ民族のひとりだった。突然理不尽な勢力によりこれまで味わった事もない貧困と侮辱に満ちた生活を味わう事になる。彼がそこで経験したものは、ナチスによるユダヤ人に対する残虐行為、同胞の裏切り、その裏切り者からの救い、善人づらをするポーランド人のペテン。最終的には敵であるドイツ人将校によって命を救われた。一貫する姿は寡黙で、敵味方の別なく目の当たりにする醜い浅ましい光景をやるせない面持ちでみているだけ。そんな主人公の、スマートなピアニスト姿からインテリジェンスのみる影もないサバイバル生活までを演じるエイドリアン・ブロディ。(そういえば、憂いを含んだところとか何処か退廃的なルックスに、時代背景のせいか、『存在の耐えられない軽さ』のダニエル・デイ・ルイスを彷佛とさせる。)終始、気の弱そうでけれどタフな気質の主人公を自然に印象づけていて、身をやつして口ひげをたたえる終盤の姿にはキリストのような神々しさまで感じてしまった。とても素敵です。

ポランスキーが万を持して完成させた『戦場のピアニスト』。結局は、目の前の大きな力に対して何も出来ない一人の人間の無力さに、そうするしかないよなぁ…とか、誰が悪かったかを正すのではなくて、とにかく戦争は人間を醜くするよねぇ…と思ってしまった。という事は、観客の涙のためのアメリカ製であるとか被害者意識に陥りがちなホロコースト映画との差別化を意図した監督と原作者の、思惑通りの作品ということなのだろう。

Text:kodama yu

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